[♂月♀日 : 妹が益荒男に変わって 何日経ったろう


あの日、僕は外にいたおかげで
究極生命体から無事に元に戻れたけど


九兵衛さんを筆頭に


地下にいたせいで九人と妹だけが

男女が入れ替わった姿で取り残された


…とはいえ、新・夜王となった月詠さんと
組んだダメ警官トリオwith変態は
持ち前の適応力を発揮しているし


新八君は自分家の道場で師範として
頑張っている、とお妙さんづてに耳にした


僕としても 多少ごたつきはあったものの
彼等との接し方は依然と変わらない


けど…


銀(子)さんと、中国武将に変わった
神楽ちゃん そして


江戸を出て いまだに行方が知れない


何故か九兵衛さんは責任を感じているけど

一方で…どこか嬉しそうにも見えた]








江戸だけでなく近隣からじわじわと
全国区に広がる"想霊未詳"ブームに乗せられ


舞台となったかぶき町や


モデルと思しき建物などに、訪れる
観光客も増えてきた





そのうちの一つとして


今日も門前に人だかりが集う柳生道場にて
喧騒に耳を傾けつつ、東城が呟く





「やれやれ…世間がこうも踊らされやすいとは」


糸目と称しても差し支えない面立ちは


穏やかに整っていながら、どこか
痛みをこらえるように不自然に歪んでもいた





昨今のブームのおかげか


ここ最近 柳生道場の門下へ入る事を
希望する者達が増えた





…同時にまったく無関係な野次馬
門下生希望者よりも多く門前へと集い


道場や屋敷を見学させろ と言い出したり


周りで騒ぎ、許可なくカメラで
敷地や関係者を撮影しだした





『あの小娘も、役に立つ事があるのだな』


などと始めは輿矩 大層機嫌よく
鷹揚に笑って構えていたのだが


野次馬の数の多さと喧しさ


あまつ敷地内や道場にゴミを
散らかしていく節操のなさには閉口し


一時許可していた見学者を再び禁じた





だが門下生希望を装ったり、裏手から
塀を乗り越えたりとあの手この手を駆使する
マナーの悪い連中は絶えず


門人達と四天王が対処に駆り出され

鍛錬が疎かになる現実に 彼は悩んでいた





加えて 来たるドラマ放送に向け


道場および敷地の撮影許可を依頼する
電話や相談なども持ちかけられ


それがより東城の頭を痛めている





甘い汁を吸いたいがために、勝手な話を
持ちかける連中が多くて困る」





もっともこの話、当主の輿矩は
柳生の名を広めるチャンスと考えており


野次馬騒ぎと 東城の説得により
今の所は保留となっているようだが


陥落されるのも時間の問題である





「剣術道場を何と心得ているやら…
おかげで おちおちロフトに行くヒマも」


余計な店に行くヒマはあるようだがな」





背後からの九兵衛の声に


門戸を見つめ ぼやいていた東城は
あたふたしながら振り返る





わっ若あぁぁぁ!今月ソープでは
二度しかイってませんからぁぁぁぁ!!」



「そっちは聞いてない」





何故か汗だくになる彼へ素っ気ない言葉が返され





「ちょっ…押すなよ、なん゛っ


いだっあにすんのよもう」


門の外の様子が 俄かに変わり始める





「あーはいはい おたくらは向こう行ってて
オレら関係者だからね、これから大事な
大人同士の話し合いがあんの」


「そ、それってやっぱ"想霊未詳"の
ドラマ化の話「それとは別件ヨ」





足音が、声が近づき


門をものすごい轟音で叩かれて


九兵衛と顔を見合わせた東城は
側にいた門人に命じて、戸を開けさせる





「こんちわ〜ちょっくら相談に来たぜ?」





ざわつく作務衣比率多めの野次馬を後ろに従え


でっかく"コラボグッズ"と書かれた段ボールを
抱え佇む いつもの万事屋トリオを目にして


柳生家の人々は一旦沈黙し…





「タチの悪いたかり屋ですね、門を閉じなさい」


即断で閉め出すなぁぁ!後ろの連中共々
討ち入りで強行突入すんぞコラ」





門の隙間へ足が捻じ込まれ、閉めた門が
逆に大きく開き返されていたので


やむなく万事屋三人だけは入る事を許可された











第四訓 流行に賑やかしは付き物











外の騒ぎや門人の目を遠ざけるべく
敷地内の竹林まで移動して





「何ていうか…大変ですね」


呟いた新八の一言に、九兵衛も頷く





「妙ちゃんトコもこうで、近頃は一緒に
街を歩けないんだ…お互い困るよな」


「いや、僕の道場(トコ)は相変わらず
ホームレスの人しかいませんでした」


「万事屋に至っては定春が寝てるアル」


「おヒマそうで羨ましい限りですよ
それで相談したい事とは?」





問われて銀時は、おもむろに段ボールを
ずいっと二人の前へ差し出す





「九兵衛んトコの財力でよ〜ちょいと
"想霊未詳"コラボグッズを量産して
バンバン宣伝しまくってくんね?」


「…これ、銀魂のアニメグッズに"想霊未詳"って
書いただけですよね?しかも ひらがなで」


「このブームに乗っかって、私らの
グッズにコラボタグ付ければ在庫だって
たちまちのうちに売れるアル!」


「失礼ながら、そういう話こそ
原作者に持ちかけたらいかがで」


「すげなく断られたヨ」


「断られるに決まってんだろがぁぁぁ!
てか最初から無理だってそんなグッズ化!!」



「うるせーよ メガネしか存在価値(グッズ)
ないクセにグダグダ言うんじゃねーアル」


「悪意でつけたろそのルビぃぃぃ!!」





やっつけ感全開の在庫(グッズ)が詰まった
段ボールを放り出してのケンカをよそに


どう交渉を成立させるか 悪知恵を働かせる銀時が





ふ、と先程の野次馬の言葉を思い出す





「そーいやよぉ、外にいた野次馬ども
ドラマ化がどーたら言ってたな」


「ああ…さんの小説、近々
ドラマになるそうだ ウチにもその話が来た」


、その話 初耳ですけど」





三人が視線を向けたので、九兵衛は


ここ数日の間 父親や東城へ"手土産"を持って

撮影許可を頼む業界人が
とっかえひっかえ屋敷へと来た事実を語った





話題作の宿命ってヤツだねぇ〜
いい店紹介すっから、こっちの話も考えてくれよ
今ならローション無料券つけちゃうぜ?」


「結構です 柳生四天王筆頭である
この私がそんなものにつられるとでも?」


「固ぇコト言うなよ 任○堂もコー○ーと
コラボして無双してんだからこっちもコラボして
無双しようぜ?股間のマス○ーソード
百人斬りの伝説残しに行こうぜ」


「途中から完全に風俗通いにシフトしてるぅぅ!
姫泣くからそれぇぇ!!



「何と言われようが屈しませんからね!
そのような下劣な接待になど





口走った矢先に 東城の懐からぽとりと


ソープランドのVIP券と実写ドラマの
企画書(決定稿)が零れ落ちる






「思いっきり屈してんじゃねぇかぁぁぁ!」


「ち、違いますっこれは勝手に先方が
置いて行ったモノであってっ…!」





取り繕うが、九兵衛を筆頭に
東城の信用は全くもって欠片もない







と…企画書へ目を通して新八が叫ぶ





「ちょっ待ってください!さ…いや
霊子さん役がお通ちゃんなのはともかく
この"相手役"って何ですか!?





ああ、と事もなげに彼は答える





「何でもドラマは彼女と小栗旬之介殿との
ラブストーリーを中心にするそうで」


「あの女に恋愛要素皆無じゃねぇかぁぁ!

それ思いっきり話題性だけで考えて
キャスティングしてるよね!原作無視して
大ゴケするドラマの黄金パターンだよ!?」





すっくと立ち上がった新八が





「認めねぇぇぇ!こんなドラマ化
僕は絶対認めねぇぇぇぇ!!」



メガネを光らせ、気炎を上げて
企画書を破り捨てる





「あ゛あ゛あ゛あ゛企画書がぁぁぁ!」


「二人とも!こうなりゃ直接
原作者に直談判しに行きましょう!!」









[Ω月δ日 : 妹が家出した


正確には神楽ちゃんや晴太君らと
途中結託して、集団プチ家出になった


心当たりを探して 万事屋や真選組
吉原と色々顔を出してみたけど


どこにも、誰にも手がかりは得られない


…大人メンツはみんな

"その内帰ってくるからほっとけ"とか

薄情な事を言っていたけれど


家出なんてことをしでかした


一緒にいるかもしれない他の子も
同じように心配になってくる


ああ…無事でいるんだろうか]








ドラマの配役に納得いかない新八
引きずられる形で


コラボグッズの件に乗ってこない
柳生家を後にした銀時と神楽は





「分からぬ男だな…これからの時代は革命
きっと売れるから試しに置いてみてくれ」


「いやぁアタシ貸本屋やけんね
そがい言われても、どもできへんさー」





"藤岡屋"と大きく書かれた


身の丈ほどの長い行李を背負う
奇妙な訛りで、矮躯の老爺に


真顔で手にした本を勧める桂と遭遇した





「おいヅラ何やってるアルか」


ヅラじゃない桂だ!なぁにリーダー
殿の小説人気にあやかりオレも自伝を
出版したのだが中々店主が承知してくれなくてな」





言いつつ自慢げに見せた


"世界を変える百の方法!
〜これであなたも革命上手〜"
の帯には


"あの"想霊未詳"の作者も絶賛!"
書かれた目立つアオリg


「それ許可取ったんですか桂さんんんん!!」


「並行してに取り次ぎを頼もうとしたが
この辺りで撒かれてしまってな」


「並行てそれ無許可なんじゃねぇかぁぁぁ!」


「銀ちゃんソレ私らも一緒アル」


桂さん!それどれぐらい前の話ですか!!」





新八の剣幕にたじろぎ、桂は何かを
確信した顔でこう続けた





「ま…まさかお主らも自伝出版するため
宣伝帯コラボの権利を狙っているのか!」


しねぇよ!オレらのコラボは別件だっつの!」


「コラボより先に聞く事あんだってのぉぉ!
てかコラボは諦めろアンタらぁぁ!!






余計なボケ合戦の合間に


そそくさと退散しようとする貸本屋の
作務衣姿を視界の端に捕えて





あっ!待たぬか本屋!
まだオレの話は終わっておらぬぞ!!」



小柄なオッサンを追っかけていく桂を見送り





「…まだ遠くにゃいってねぇだろ
こーなりゃしらみつぶしに探すぞ」





銀時の言葉をきっかけにして


三人はこの近辺にある旅籠の周辺を歩き回り







ほどなくして…スーパーのビニール袋を
持っているを見つけた





「お主ら、何故ここに…!」


「パシリご苦労さん ヅラがオメーの姿を
この辺りで見かけたっつーからよぉ」


「羽振りがよさそうで何よりアルな
どーアルか?兄ちゃんの本の売れ行きは」





嫌味交じりな挨拶にも、彼女は
構わず真顔で即答する





「辰馬殿のおかげで、兄上の本は
宇宙進出もするそうな」


「いつの間にそんな話が!?
てか翻訳どーすんの!!」



「私には分からぬ 内容がいいから
売れるから任せろ、との一点張りで」


お頭が幸せなモジャモジャはいいから
兄貴呼んで来いよ、いるんだろ?」





くい、と側の旅籠の玄関先を差す銀時へ







「それは無理だ」





返されたのは 否定の言葉だった





「無理って言われても、僕らどうしても
話したい事があるんです」


「ご託はいいからさっさと当人出せヨ当人」


「無理なんだ神楽…兄上は今
とても警戒されている」





穏やかでない台詞と、真剣な様子と

緑眼の下に出来たクマに気づき


万事屋トリオは顔をしかめる





「…お前、睡眠取れてんのか?」


「これしきの事…兄上の不安を
取り除く為なら 毒見も寝ずの番も厭わぬ」


「そんな どうして…」


言いかけて、ハッと新八が気づく


同時に小さく頷いた彼女は





「この間の騒ぎといい、どうもこちらの
素性やあの本の噂が漏れているらしい」






声を落として…銀時達へこう続ける





「家にいた時分も 兄上宛の手紙に
脅迫まがいな作品批判が


静かな それでていて強い一言が

作務衣少女の口を閉ざす







妹同様クマを作っている


キツイ目でつかつかと、妹の側へ近づき





遅いよ、何もたもたしてるの」


「すっ…すみませぬ兄上!





無表情のまま、それでもぺこぺこと
謝り倒すの手を取って


三人を無視し旅籠へ取って返そうとする





挨拶もなしたぁ偉くなったな売れっ子作家」





その背へ、銀時が呼びかけた







「いいご身分じゃねぇか、徹夜で
金ヅルとケツ掘り無双でもしてたのかい?」





足を止め…彼は振り返らずに続ける





僕も忙しい身なんですよ…以前みたく
気安く会えると思ったら、大間違いですよ」


「薄情だねぇ、こっちはテメェも儲かる
おいしいコラボ話持ってきたのに」


あんなやっつけコラボはどーでもいい!
それよりドラマの件なんですけど」





自分の要件を喚きだす三人に向けて


聞こえよがしに大きくため息をつき


 これをお渡しして」





彼は…三人に見えないように
懐から財布を出して彼女に言う





「あ、兄上…しかし!「いいから」





戸惑いながらも…はやがて
ゆっくりと振り向いて


銀時の手の平へ、札を数枚握らせる





「おい…これどーいう意味だよ」


何ですか?足りないんでしたら
後で請求書でも送ってくださいよ」





身もふたもない言い草に 神楽が苛立つが





止めてくれ!
兄上に手を出さんでくれ!…お願いだ」





つかみかかろうとした矢先に抑えられ


悔しげに歯噛みして 足を止める





「それじゃ僕はこれで…行くよ、





答えを待たず、は背を向けたまま

旅籠の中へと入っていった









[£月$日 : ドラマ化の話が着々と進んでる


刷り上がってる脚本には一応目を通したけど

正直、もう全くの別物だ


僕は丁重にお断りしているのに


編集が勝手に話を進めてて、後は
撮影を待つばかりになってしまっている


…続編への催促に混じって


嫌がらせの手紙や、電話も編集部へ
来ることが増えたという話を聞く


妹も神経過敏になっていて、その態度に

イラついてはキツい事を言ってしまう


変わり映えのしない部屋の中で閉じこもりきり


これじゃ…あの頃と一緒じゃないか]








旅籠からさほど遠くない路地にて


短い悲鳴を聞きつけ、近くを巡回していた
真選組の隊士が駆けつけると


そこに後頭部を抑えて倒れる男と、奥へと
遠ざかる小さな人影が見えた





「何だ一体…おいとまれ貴様っ


人影をすぐに追いかけたものの

曲がりくねった路地にはもはや誰もおらず


舌打ちし、引き返した隊士は倒れていた
被害者らしき男へと訊ねた





「おい…どうした?何があった」


「分からん…いきなり後ろから
"お主はあの本を読まれたか?"と聞かれて」





ハゲかかった男の後頭部には 何かで
殴られたような痕がうっすらついていた





とにかく手当を、と男を抱え起こし


隊士は…男の下敷きになっていた本に気づく





激しく損傷しているソレはまさしく
人気沸騰中の小説 "想霊未詳"だった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:柳生道場の人気っぷりは、多分
恒道館と混同されてるからでしょうね


新八:多分て何!?あとサラッと流してるけど
さんが家出って、何があったの!!


神楽:あんま話してくれなかたケド、確か
兄ちゃんが勝手に部屋入ったのが原因アル


狐狗狸:そこでなんかマズイ事でも
起きたんでしょうねーきっと


九兵衛:適当極まりないな


東城:わっ若!?何故私をそんな冷たい瞳で
見ているんですか!!アレは別に接待を
受けて許可したんじゃないんですって!!


銀時:コラボの利権は頑なに拒否ってんのに
何だって坂本(バカ)とは商談成立してんの?


狐狗狸:腐っても商売人だからってのと
陸奥さんも間に立って交渉したからでしょう




豹変した彼…そして不穏な事件が、幕を開ける!


様 読んでいただきありがとうございました!