[γ月ω日 : 今日も妹は恒道館道場へ行く


新八君の兄弟子に当たる人から
ビームサーベ流を習得したいとか言っていた


継いだのは槍術の流派なのに、刀を使う剣術
しかもビームなんか学んで何と戦う気なんだろう


相変わらず思考回路は不明だ


…そういえば、毘夷夢星って名前を

昔どこかで聞いた憶えがある


昨日 あの人からちょっとだけ聞いた
"火種屋"って単語も引っかかってる


戦争を引き起こすのを目的とする組織…


ふと今、歩執守の内乱に"あの七兄弟"が
関わってたらしいと妹づてで聞いた話を
思い出  (以下空白)]








"想霊未詳"が無事に店頭に並びだし


発売当初こそは、さほど目立つことなく
細々と売れていたのだが





「何コレ、作者天才じゃね?」


「どんだけ妹ハイスペなんだよ!」


"新しく出たラノベを衝動買いしたんだが
割と面白かった件について"
…と」


口コミやネット上での評価が徐々に広がり


あっと言う間に 人気にがついた





『えー現在売れ筋一位の小説
"想霊未詳"ですが、人気の秘密は何でしょう?』


『そうですねぇ〜実際の事件を元にした部分も
見受けられますが、リアルな人間描写と
コミカルな日常を巧みに描く事によって』


ブラウン管の向こうで、にこやかに


ハードカバーの本を持つ花野アナと
評論家のやり取りを眺めながら





マヨ特盛の丼片手に土方が問う





「…おい、何だこれ」


「近頃 流行の小説らしいですぜぃ?」


言いながらシレッとデスソースを丼内へ
混入しようとしながら沖田は続ける





「何でも主人公がで、妙ちくりんな
棒の腕前で江戸を騒がしたり しみったれた
日常垂れ流したりするオチのねぇ話だとか」


「よくあるラノベと変わらねぇな」


「ま、オレらにゃ関係なさそうですねぃ」


当然だ そんな軽薄で下らねぇモン
真選組にゃ要らねぇからな、もし買ってる奴が
いたら直々に切腹言い渡してやる」


「オレぁ人づてに聞いただけなんで」





ソースから己の昼食を護るかたわら


土方は、"妹""棒"の単語に
何とはなしに頭痛を感じて眉をしかめる





『デビューした覆面作家・もまた
経歴は一切謎に包まれていて』





画面の向こうでは、やたらと呑気な声に
合わせて本の表紙が大写しされ

作者名が嫌でもはっきりと目に入る





アレ?確かって
ちゃんのお兄さんの芸め」





思考に同調するような山崎の呟きへ


間髪入れずに、切腹を言い渡そうと
振り返った土方の発言は





『なお、作中に出る舞台のモデルとされる
店や建物に訪れるファンも多いようです』


映像がLIVE中継に切り替わり


スナック"すまいる"前で大々的に


"想霊未詳"の舞台となった店だと
宣伝しているキャバ嬢達とファンの歓声





『お妙ざーん!』


そして聞き覚えのあるだみ声に遮られる





カメラは、お妙に殴られたらしい近藤と


そのゴツい手に しっかと握られている
特徴的なハードカバーの本を捉えていた






カメラ越しの局長の醜態に、彼の
開いた口が塞がらなくなったのも


…無理からぬ事では無いだろうか











第三訓 とどのつまりお話ってのは何でもアリだ











[@月〜日 : 服のカタログを眺めていると

時折ふと、視線を感じることがある


そういう時は大抵、妹がうらやましげな
眼差しでこっちを見ていたりする


僕が目を向けると慌てて視線を逸らすけれど


その後でこっそり、自分の胸を
見てため息ついてたり


放っといたカタログ盗み見してるのを知っている


も女の子らしい格好ぐらい
気兼ねなくすればいいのに


僕に気をつかってか、中々思い切らないようだ


今度 お妙さんか西郷さん辺りに
相談しようかな?]








"実話をもとにしたフィクション"の体で
売り出されているの小説は


世間一般では概ねライトノベル紛い
扱いを受けながらも


実体験さながらの生々しさが
奇妙に織り交ざっている作風が受けて

上々な評判となっていた





「まさか、あの日記がベストセラーに
なっちゃうなんて」





半ば呆れ気味に、店頭に飾られている
"想霊未詳"完売の告知を見て新八が呟く





「どーせマグレ辺りのヒットだろ?
どいつもこいつも踊らされちまってまぁ」


「ホント、巷の流行にはついてけないヨ」


彼のちょっと前を歩きながら


小バカにしたように、銀時と神楽が
せせら笑っているのだが





「…じゃあなんで僕ら余所行きの格好
してんですか?しかもそんなモノ持って」





三人は 普段の着物やチャイナ服でなく


業界人と張り合えるくらいパリッとした
スーツやドレスに身を包んでいた


おまけに神楽が抱える紙袋の中には

容量一杯のサイン色紙が詰まっている





あん?ベストセラーなんてモンは売れりゃ
やれ実写ドラマ化だ、コミカライズだで
延々と利益が出てくんだろーが」


「今のうちにサインもらって
ネットで高く売りつけようて銀ちゃんが」


汚っ、転売目的でゴマすりに行くんですか」





メガネ越しの軽蔑の視線を感じても





「その程度でこんな手間はかけねぇよ」


汚い大人は、計算高そうな光
ずる賢そうに細めた瞳に宿して続ける





「さっきも言ったが売れ線の小説は
ブームになりゃ別の媒体に移るだろ?」


「まあ、小説に限った話じゃないですけど
それは確かに…」


「だろ?そこで、知り合いで作中の
モデルっつーコネ使って先に独占契約しときゃ
悪路木夢砕デビューで オレらも印税生活だ!


「人の褌でドジョウ捕る気満々!?」


「もしくは私の日記をスピンオフとして
名前借りて売りつければガッポガポアル!」


「ほとんど海賊版じゃねぇかぁぁ!!」


「有名作品にゃ偽物二次作品はつきもんだろ
銀魂の自炊やらかした奴だっているわけだし」


それマジでいつの話ですかぁぁ!
てか知ってる人がどんだけいるんです!!」






今までの経験からいって新八は


金と欲にくらんだ銀時の行動力と
飯のために従う神楽を


言葉だけで止められるワケない、と知っている





かと言って進み続ける二人を野放しにも出来ず


仕方なく並んで歩きながら、難点を
指摘して彼らの抑制を図る





「よしんばゴマするにしても、僕ら
さんの本 一ページだって
読んでないじゃないですか」


「んなもん道中でパラパラっと読みゃいい」





言いながら銀時が取り出したのは


書店でも売り切れ続出中の "想霊未詳"





「銀さんいつの間に買ってたんです?」


「オレのじゃねーよ、ババァが買ってたから
ちょっくら借りてきたんだよ留守中に」


それほぼ窃盗!バレたらヤバいですって」


「後で返しときゃ大丈夫ヨ」





いい具合に兄妹の自宅もほど近くなったので


勝手口を見張れる位置の電柱に身を寄せて


真新しいハードカバー本を適当にめくって
ひらいたページを、三人は覗き込む





「こーして本見るの メメ子ん時以来アルな」


「あのリアル黒歴史製造ノートの話は止せ」







[…次々と立ちはだかる敵の軍勢を
相手にしても霊子は決して下がろうとしない


先に逃げたであろう 仲間達を護るため





「傷つくのは、構わない…だが」


長い棒を正眼に構え、己が敵を定める妹からは





「傷つけるのは 許さない」





常としている冷徹さや、仲間内から
揶揄され嫌う"亡霊"のあだ名よりも


程遠い激情と 相応しい覚悟が見て取れる





「小賢しいわ死にぞこないの小娘が!
まずは邪魔な貴様を殺してくれるぅぅ!!」



「三途を渡りきらせるつもりか…
やってみるがいい」]



「こんなシーンと主人公あったっけぇぇ!?」





一ミリも記憶にない描写をきっかけに


万事屋トリオは、活字をしっかり追って
内容の大半を黙読していた







大まかな事件の概要は正しいのだが


どうもモデルとなっている自分達の

名前どころか、活躍が意図的にぼかされ


引き換えに、の活躍が大幅な誇張と
捏造を加えて増やされているようだ





「オレが主人公だろうがぁぁ!」


「銀さん!それお登勢さんの本ですから!
破るのは止してぇぇぇ!!





その上 次のページにあった挿絵の霊子は
凛々しい絶世の美女で描かれており


バストは 豊満であった





「「誰この女ぁぁぁ!!」」





そして"妹"自体も…キャラ設定に
盛大な誇張捏造がなされ魔改造されていた





[霊子はどんな死地をも華麗に潜り抜け
決して、膝に土をつける事などなかった]



嘘っぱちもいいトコね!アイツ自身が
死亡フラグで一日一度は倒れてるアルよ」





[霊子はどんな動物とも心を通わせ
目を合わせるだけで自由自在に操れた]



どこの猛獣使い!?あの人そこまで
奇天烈な能力持ってませんから!!」





[霊子はどんな棒でも武器にできた
腕くらいの長さがあれば何でも彼女の武器だった]



「どこまであの槍バカ万能化すんだよ!」


「それは真だぞ」


「「「マジでか」」」





声をそろえてからトリオは
ようやく振り返り

すぐ後ろに佇む、作務衣姿の少女を認めた





「近所で騒がしいから何事かと思ったぞ
して、その恰好はどうしたのだ?」


「ちょっくら兄貴に用事があんだよ」


「済まぬが後日にしてくれ、兄上は
次回作のご構想をされていて忙しい」


「妄想日記が売れたからって
もー一端の大作家気取りかぁ?





僻み交じりのチンピラめいた皮肉にも


の無表情は崩れない





「兄上を支えるのは当然の義務だ…失礼」


断りを入れ、彼女が取り出した携帯には
異三郎のメールが届いていた





["想霊未詳"読んだお〜


主役の妹のコ、たんですよね?
作者がお兄さんだって聞きました!!
作家デビューでブレイク ギザすごす!!(@▽@)ノシ


今度お祝いしに行くね♪(^0^)


追伸:サイン欲しいからお願いしても]





無理やりに携帯をもぎ取った銀時は
速攻でメールを消去する





「何をするか、まだ読んでいる途中」


「下らねぇファンレター対応はいいから
減らされたオレらの出番について説明しがやれ!


妹美化しすぎな捏造箇所についても
関係者として物申すアル!!」


「そこら辺は編集さんの改変ですよ」





答えたのは、憮然とした表情のだった





「その方が売れるらしいですし…まぁ
事実とかけ離れてた方が都合がいいので」


「黙認したってワケか、売れるためなら
何でもアリたぁ浅ましいこって」


「銀さんソレ僕らが言える事じゃないです」





新八の呟きに触発され


ちらりと緑色の瞳を三人と、神楽の持つ
紙袋の中身へと走らせ


彼は万事屋トリオの来訪理由を察したようだ





「サインなら構いませんが、出演料とか
利権が絡むモノの交渉はご遠慮願いますよ」


「…何かあったんですか?」





こくりとが頷く





「本が出てすぐ、妙殿が
出演料を寄こせと家へ来た事があってな」


「姉御がすでに直談判してたアルか」


「ええ、なので"本の舞台となった場所"として
店を宣伝する事を提案してみたんですよ」


まさかあの話が爆発ヒットするとは、と
は複雑そうにそう結んだ





「おいおいぱっつぁん、何自分達だけ
おいしい汁先にすすってんの?」



「いや僕だって初耳ですよそんな取引!」


青い顔をして新八が首を振った直後





"想霊未詳"を手に、通りを見比べていた
女らしい通行人が





「あ、あの!さんですよね?





言いながらへと駆け寄っていき





それを皮切りに、どこからともなく


目を輝かせた人々が 彼の側へ集まってくる





「この近所に住んでるって話 本当だったんだ」


「私 "想霊未詳"のファンなんです!」


「すごい美人!
本当にアナタがこれ書いたんですか?」



「新人ってのは嘘で、実は有名な作家さんの
ゴーストライターだって聞いたんですけど」





唐突なファンの登場と質問攻めに
戸惑う兄に変わり


妹が両者の間へ立ち塞がった





「お主ら、いきなり何のつもりだ





が、ファンとて負けじと二人へ詰め寄る





「そっちこそ何なんだよ!」


「こちらの台詞だ それに何故
本の作者だと断ずる」


「信頼できる情報と、本の文章を元に
割り出したんだよ!」



「つか、この女なんかTVで見た事あるよーな…
まあいいやそんな事よりどけよ!」


本人だったらサインください!本名は?
付き合ってる人とかいます?」





側にいる約三名をガン無視


もはや作者確定で呼びかけるファンの一人が
サイン色紙とペンを押し出して





「はいはーい押さない押さない、ほれ
額に入れて大事にしとけ」


横から割り込み気味に色紙を奪った銀時が


"悪路木夢砕"のサインを書きなぐって
ファンの手元へと返した





「何だよこの落書き!?」


「落書きじゃねぇサインだっつーの
いずれ実写映画化する漫画原作者のだから
そこのピーマン作家のよりレアだぞ」


しねーよ!それ元ネタの話ぃぃぃ!!
何と張り合ってんですか銀さんんんん!!」



「はーいサイン欲しい方はどんどん並んで〜
今なら握手も無料ですヨ〜」


「いらねぇよ!つか誰だアンタら!!」


便乗して布のかかった台とイスと
"悪路木夢砕サイン会"の垂れ幕を用意した神楽に


ファン達は半ば無理やり並ばされる





「って今アンタ、この人作家っつったよな!
やっぱこの人が"想霊未詳"の作者」


ファンの一人が気づいて顔を向けた時には


兄妹の姿は、こつぜんと消え失せていた





「しまった!逃げられた!!


「くっそこの近くにいるはずだ!!」





バラバラと人々が散って行って







…サイン会会場周辺に人がいないのを
確認し、二人が呼びかける





「いなくなったみたいですよ」


「もう出てきて大丈夫アル」





台の布がめくれ、そこから

ゆっくりとが這い出てきた





「おかげで助かりましたが…どこから
こんなモノ出したんです?」


「そいつぁ企業秘密ってヤツだ」


ペンとサインを握ったまま、銀時は笑う









[Θ月Å日 : ファンの行動力と執念は恐ろしい


僕に関する情報は伏せといたはずなのに


かなり事実を曲げてぼかした小説から
身元を割り出されたので、旅籠に避難する


ほとぼりが冷めるまで帰れそうにない


滞在が長いようなら経費を編集持ちに
してもらうつもりだ


担当が "次回作のいいネタになる"と
事態を余計に面白がってるけれど

僕とにしてみれば 堪ったもんじゃない


…しばらく、外出は控えておこう]








江戸で評判の小説 "想霊未詳"を手にして





「面白い話やねぇ、一度作者に会えんべか」


「にしては浮かねぇ顔だね」


「…今度の仕事ぁ江戸たい あっこには
アタシの縁者もいるらー」





行李を担いだ小男が、似たような格好の
中年へ渋い顔で答える





そうして本の表紙をもう一度眺めて


大層面倒くさそうな…不機嫌極まりない
言いたげに顔をしかめた








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ビームサーベ流では道場通い
→九ちゃん・近藤さんらと戦艦凸してました


新八:そっから!?あと何してるの姉上ぇぇ!


妙:本を買ったお客様に、ドリンクサービスと
追加注文をどしどしおススメしただけよ?


神楽:抜かりないアルなー姉御
あと冒頭の兄貴の日記 やけに意味深ネ


狐狗狸:多分、書いてて"田足一族"のコトを
思い出して 理由に気づいたんでしょう


山崎:武器商人でしたからねーあの連中


銀時:はいはいフラグ回収乙
てか原作主人公差し置いて夢主無双とか
露骨すぎるわー 面白味なし、はいボーツ


狐狗狸:勝手に没ネタ扱い止めてください
残念ながらこれ まだまだ続きますから




彼の事などお構いなしに膨らむ
"想霊未詳"ブーム…はよくないモノも呼び寄せ!?


様 読んでいただきありがとうございました!