[×月●日 : 別の星からの流行ウィルスのせいか
数日の記憶が定かじゃないけど


妙な夢を、見た気がする


その夢の中では僕は 世紀末覇王のような厳つくも
恐ろしい容姿の拳闘王としてこの世界に君臨し

妹は、有能な秘書として傍らにいた


今考えると身の毛もよだつほど恐ろしく
ツッコミ所しかない内容で


見知った人達も、普段とはありえない感じに
様変わりしていたのだけど


夢だからか 僕を含め全員が


その違和感だらけの世界を
疑いなくすんなりと受け入れていた]








喫茶店に移動した男が 差し出した名刺には


大手出版の名前と、とても偉そうな肩書きが
本名の横に添えられていた





「ボク、こー見えてかなり腕利きでね
同期に集英社の編集長とかいるんだよ」


「そうなんですか 愛読雑誌の編集さんが
こんなエネルギッシュなお方なんて驚きです」


うれしぃねぇ〜YOUみたいな
素敵なレディも、ボクと仕事したなら
他の作家や有名人とお近づきになれるかもよ?」


「とても良いお話ではありますけど、あの
せっかくですがぼ…私には興味が」


もったいないよ!これだけのお話
寝かせといていつ出すの?今でしょ!!」






やや時代遅れな流行語を口走りながら


ヒゲ面男が日記の表面をパンパンと
力強く叩くのを見て


対面しているが、笑顔をひきつらせる





「パッと見いかにも!な壮大な作り話だけど
妙にリアリティがあるキャラにビビっと来てさ」





荒削りで素人丸出しだけれども
光るものはある!
などと


かなり熱心に見当違いの褒め言葉を耳にして


自分の後ろの席から、吹き出したような
小さな笑い声
が聞こえたけれども


…ソファ越しに吹き付けたの殺気が
瞬時に彼らを黙らせたので


彼は、ちょっとだけ溜飲を下げる





特に"妹"ちゃんがいいキャラしてるよ!
モデルいるならぜひ会ってみたいくらいだね」


それアンタの目の前にいるから、と


だけでなく 背後の万事屋三人が

心の中でヒゲ編集に、見事シンクロした
クワトロツッコミを浴びせた





…だが よくよく考えてみれば


荒唐無稽すぎて"壮大な作り話"にしか
思えない日常へ 頻繁に関わる"妹"が


ノーリアクションで話を聞いているなど

普通は、夢にも思わない





あまつさえその"妹"…


横にいる兄のため 日記を取り戻そうと


たまたま近くに転がっていたマツイ棒を
槍として代用し その上"飛ぶ斬撃"という
必殺技を生み出して乱発していただなんて


現場にいて目撃していなければ、絶対に
信じられはしないだろう











第二訓 毎度サブタイとか考えるの面倒で
単純に"第○○話"とかで済ませたくなる












「あの、そろそろソレ返していた「ボクは
YOUみたいな逸材を探してたんだよ!」



そっと日記へ伸ばした手を両手で掴み


テーブルへ身を乗り出し、編集は
より一層の情熱をもって語りかけてくる





「ぜひともこの作品で一大センセーション
世間に巻き起こしてやろうじゃないの!!」








"自分の日記"による勘違いを正そうか
かなり葛藤していた


先程のビルでの修理費請求やら何やら


よぎった現実を加味して
高速で思考を回転させ…結論を出す





「そこまで仰っていただけるのであれば
こちらこそ、よろしくお願いします









[▲月◇日 : 妹は、あまり頭がいいワケではない
平たく言えばバカの部類だ


修行一筋だったせいか

それともこれまでの境遇のせいなのか


まっとうな常識を学べてはいない


…でも、何も考えていないワケじゃない


必要な事を知ろうとし、自分の頭で
何をすべきか考え 失敗しながらも自力で
学んで行動に移している


今だって、昔苦手だった洋風の道具や調度に
ちょっとずつ慣れてきている


家の機械を壊す割合も


一緒に住み始めた頃に比べて二〜三割減った


余計な知識を覚えてくる事もあるけど

妹は、はちゃんと成長している]








かくして熱心な編集に恵まれ


は、自らの日記を苦心ながらに
原稿用紙へ書き起こして行く





「兄上!私に出来る事があれば何なりと!!」


「ありがと、とりあえず今夜の夕飯
買い出しに行ってちょうだい」


「承りました!」





エコバックを持ち、無表情ながらも
嬉々として駆けていく作務衣姿を見送って


彼は再び 自室の机で日記や用紙とにらめっこ





「次の部分は…ああそうそう、この時
巨人族が襲来してきたんだっだっけ」





兄妹はほとんど関わっていなかったが





そよ姫のツテで神楽が巨人族の王子を
彼氏にし、あまつ結婚しかけた事


保護者代わりの万事屋二名と


はるばる星を超えてやって来た
本物の保護者(実父)


結果的に彼らの地球侵略をすんでで食い止めた





…というとんでもない顛末を 他ならぬ
当人達から聞いた際の驚きを


改めて思い出しながら、は手を動かす





「えぇと、TVを見ていたらとてもよく知った
銀髪のちゃらんぽらん男が」


「そこは"銀髪を颯爽となびかせた凛々しい
イケメンが"
じゃねぇの?」





ぴたり、と彼は動きを止める







油が切れたブリキ細工のようにギギッ
首を…動かすまでもなく


肩越しからぬっと現れた銀時らが


書きかけの草稿と、広げた日記を
ジロジロと眺めまわしていた





「不法侵入でも入室ぐらい声かけてください
警察呼びますよ?てか訴えますわよ」


「薄汚ぇストーカーゴリラが率いる警察が
役に立つかよ、ついでにオレぁ弁護士どころか
お奉行や看守にも顔が広いんだぜ?」


「あら、お話のネタ提供ありがとうございます
お礼に私もそちら側の方を紹介しましょうか今度」


「何ダーティーな会話繰り広げてるんですか!」





にやけ面の雇い主と美しすぎる笑顔の
嫌味応酬へ割って入り


非礼をわびた新八に免じて、彼は
取り出していた携帯をしまう





「で?ウチに来た用件はひやかしですか?」


「珍しくパチ大勝ちしたから差し入れがてら
執筆活動に協力してやろーと」


「ひやかしですね分かります」





断りなく読まれていた日記を奪還した


きっと彼らは、少なくとも天パとチャイナは
が家から出るのを待ってやって来たに
違いないとアタリを付けていた





「あと、私が危うくあのドS皇子に
葬られそうになったトコ 騙し討ちして
逆にアイツ葬ったコトにしといてヨ」


「捏造記事書かせようとしないで!」


「あの死ぬ死ぬ詐欺、結局はテメーの
自業自得じゃねぇかオレら巻き添えにしやがって」


「知っててほっといたならお二人も同罪です
あの時、僕もも本気で悲しんで」


「わかった悪かったアル」





バツが悪そうに謝ってから、神楽は
どんな風に彼が作品を作っていたか訊ねる





「ネタ自体はおかげさまで豊富だからね
基本は、添削と構成の繰り返しだよ」







苦笑交じりの兄は、編集との打ち合わせでも





『YOUはまだ世間的には無名だからねぇ

よりインパクトのある展開とキャッチーな
セリフで、客の目を引き付けなくっちゃね!』





ごくごく当たり前かつ、売り手としての
シビアな意見をもらっていたので


その部分を念頭に置いて


日記から使えそうな記述を抜粋しているのだ





「さすがにそのまま書けないトコは
ぼかしたりしますけどね、実名とか」


「ああ…そりゃそうですよね」





他でもないその"日記"に書き連ねてある
事件や日常は全て事実で


多少なりとも自分達とも関連がある


返事をする新八は、改めて理解しつつ
もののついでに訊ねる





「ところで、本の題名は決まってるんですか?」





そこで彼は 首を横に振った





「題名どころか、ぼかす妹の名前も考え中
なんせ初めての創作活動だからね」


「普通に妹日記と妹でいいだろ?別に」


「そんな直球で本が売れれば苦労しませんよ」


鬼妹日記にして実名で出せばいいヨロシ」


「いつの流行?それにさん別に
鬼っぽい要素ないじゃん」





無論、実名で出せばあっという間に
身元が割れるので神楽の案は却下された





「題名しかりキャラ名しかり、適当に
中二くせぇのつけときゃいいんだよ」





面倒そうに、かつ無責任に
鼻をほじくりながら銀時が口走る





「普段使わねーような小難しい漢字
ふんだんに盛り込んだり、カタコトネームで
"ヴ"とかつけたりな ここのバ管理人なんざ
HNマエストロ狐狗狸だぞ?いかにも中二全開」


「いくらメタでもそれアウトおぉぉぉ!」


「…別にそれは自分で考えときますから
アナタ方は適当にくつろいで帰ってください」





流れが怪しくなったのを見て取って
あしらいだしただったが


彼らが止まるコトはなかった





「カマ○(ピー)太郎日記でいいじゃねぇか
で、妹はピーマ○子「発刊禁止くらうわぁぁ!」


「なら孤高のカマティカP日記と
冰倚滿恋(ぴいま○こ)で行くヨロシ」


読めるかぁ!そっちから離れろぉぉぉ!」


「キャラや本の題名よりも、まずは
肝心要の中身を仕上げるのが先であろう」





役に立たない名づけ談義に、勢いよく
襖を開けて桂が現れ





「では協力して四人ともお帰りください」


「初めての執筆活動でお困りの殿に
参考までにとオレがあらすじを考えてみた」


拒否の言葉を吐く間もなく桂は


広辞苑ほどの分厚さの原稿用紙
ばさりと彼の机へ置く





「未来ある少女が真に日本を憂う攘夷志士と出会い
彼の薫陶を受け成長し 共に革命を行う
一大スペクタクル巨編!これは売れるぞ!


「「ほぼお前の願望じゃねぇかぁぁ!」」





"妹"がいかにして桂の志に感銘し


読めばすぐ銀時達だと分かる仲間と
ともに、攘夷志士として日本を変えたか





…そんなバッキバキの啓蒙活動作文


書いた当人ごと排除しようとして
窓を開けた銀時と


逆さまなさっちゃんの目が合う





「着眼点は悪くないけど話は筋よりキャラよ」


「今回は外で待ってみた的な趣向?ソレ」


「主人公キャラを引き立てるのは、強力な
ライバルや魅力的なサブキャラだわ」





髪の毛ひっつかまれても構わず 彼女も
机の上に自作の原稿用紙を叩きつけた





「ドSカッコいい銀髪侍とラブラブな美人忍者の
甘くドロドロな新婚生活をアクセントに」


「「ただれすぎて胸焼けするわぁぁ!!」」





サイドストーリーとしては容量オーバー過ぎる
妄想文も当然駆逐される





しかしながらロン毛二人は諦めず


触発されるようにして神楽や銀時も


好き勝手に願望中二妄想押し付けては
ツッコミ却下を食らう攻防を繰り返し







そこに、彼の携帯から編集の着信が





『やぁちゃ〜ん、原稿進んでる?』


「え、ええ順調です」


『そりゃ何より トコロでYOU
本のタイトルと妹ちゃんの名前決めといた?





雑誌での宣伝に必要だから、と言われるが


この状況で言えるワケもなく





「後ほどおかけ直ししますので、その際に
お伝えしてもよろしいですk『悪いんだけど
今言ってくんない?ボクこれから接待でさ〜』



先延ばしにしようと放った言葉を
相手の一方的な都合によって否定され


口ごもった一瞬に、銀時が茶々を入れる





「決まってねぇならテキトーに誤魔化しとけ
仮性包○子とか「「それもう名前じゃねぇぇ!」」





これには電話していた当人さえも思わず
新八と同時にツッコミせざるを得なかった







…しかし電話越しの声は





『仮想霊子?いいねぇ〜それイタダキ!』


一際明るく かつ嬉しそうに


電話越しの誤謬(ごびゅう)を了解してしまった





『じゃタイトルもこっちで決めとくから
また何かあれば連絡するよちゃん』


は!?え、あのちょっ…」





呆気にとられたの耳には


通話が切れた事を示す音と
いまだ喧しい闖入者たちの騒ぎと





「兄上の御前で騒ぐな!!」


怒りに満ちたの怒号が届いていた







[○月И日 : 編集さんは熱心だったけど

僕には正直、本が大コケする予想しかない


それは妹が新たに編み出した技で
不法侵入者を撃退した部屋の修理費で
今月が火の車であるのと同じぐらい


確かで 確実な予想だった]










名前騒ぎから幾度かの打ち合わせや修正を経て

ひとまず形となった初稿を


帰りしな、印刷会社から受け取って
自宅に持ち帰った男が呟く





「やれやれ、あの編集(アホヒゲ)…
仕事じゃなくて休み増やせってんだったく」


ねぇ?それなぁに?」





にこやかに笑いかけてしなだれかかる
女性ファッション誌から抜け出たような声の主に


ベットでくつろいでいた彼は


残業続きで倦み疲れた顔で用紙を示す





「ああ、頼まれてた例の新人の原稿だよ」


「読ませて読ませて!」





親しげにせがむ相手へ、彼はためらいなく
真新しい紙の束を手渡し


愛嬌のある顔がパラパラとページをめくり







…真剣な顔で半分ほどを読みふけって


ハッとしたように顔を上げた





「何コレ、面白いじゃない!


「んーまぁ…あのヒゲ、口と腰は軽ぃけど
作家見る目と腕は悪くないんだよな」


言いつつ、原稿を印刷できる状態へ
データ化する"DTP担当"の彼は


やや誇らしげにしなやかな両指に挟まれた


"想霊未詳"と題打たれている

""という新人の作品へ視線を送った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:執筆活動の一端を書き上げました
彼は"形から入る派"なので、手書きです


銀時:版元、普通に集英社でいーじゃねぇか
どうせこれ捏造100パーのフィクションだし


新八:銀さん そこは触れないで置きましょう


神楽:DTP担当て何アルか?


狐狗狸:完成原稿を印刷出来るようにする人だよ
今だとPCでレイアウト変えたりね


新八:そういうのって編集の人が
やるんじゃないんですか?


狐狗狸:場合によってはね、けど編集の仕事
製本までの全工程 意外と多いから


桂:世界観を共有しているあの者と
お主との関係が それに近しいようだな


狐狗狸:だいたいあってる


さっちゃん:私も銀さんに全てを担当編集


銀時:あーオレ結野アナ専属だから




果たして、彼の処女作の出来はいかに…?


様 読んでいただきありがとうございました!