入院を余儀なくされた須藤老人と


昨日の血の気の多い者達の動向を気にかけていた
"ASSの会"代表の懸念と不安は





まさに最悪の形で的中していた





「連中とはまだ連絡がつかないのか!」


「はい、電話にもSNSにも反応ありません…
まさか昨日の今日でこんな事になるなんて!」





ネットの犯行予告を鵜呑みにするほど
彼は愚かではなかったが


見過ごせない情報と 穏やかではない単語


周りの反応と書き込まれた煽りや過剰な非難


そして会員による"電凸""突撃"予告などを
SNSで見た瞬間 血の気は引いていて


慌てて会員全員へ連絡を取り

予告をした者達の他にも数人から
何一つ返事が無かった事を知った瞬間





代表者たる彼は しかるべき所に通報していた







「通り魔被害に憤る気持ちは分かるが、昨日といい
今日といい 少し結論を急ぎすぎやしないか?」


「だな、あの犯行予告…まさか会員の誰かが
証拠を作るために流したものじゃ?」


「そんな!我々"ASSの会"の中に
そのような卑劣な事をする人間がいるとでも!?」






必死で否定する派手作務衣をなだめる
金髪リーゼント軍人のすぐ側で


似たような金髪の青年は端正な顔立ちを歪めて呟く





「何にせよ、あからさまな情報操作をしてまで
を陥れる目的は何だ…?」





浮かび上がる最悪の事態を振り払い、彼らが
包囲されている家へと到着するまさにその直前





『ぎゃああああぁぁぁぁぁぁ!!』


けたたましい悲鳴と同時に


威勢よく玄関先に突撃した数人が 天高く吹っ飛び

重力にしたがって次々と落下していくのが見えた











第十訓 げに恐ろしきは人心なるかな











転がる数人とどよめく衆人環視へ向けて


作務衣姿の銀時が、声を張り上げる





「はい本日お集まりいただきありがとうございます
えー皆さんに伝えなければいけない事があります」





合間に残る二人は手際よく


開きっぱなしの玄関から白い布に覆われた祭壇と
椅子三脚、"想霊未詳 特別記者会見会場"と書かれた
三角プレートとマイクを用意して着席する





「実はあの小説の本当の主人公は、オレなんです!」


「あの話は一般受けするよう誇張して書かれた
スピンオフみたいなモンなんです!」


「ヒロインは霊子じゃなく、アタイなのさ!!





まばらな携帯カメラのシャッター音が響く中


先ほど吹っ飛ばされたダメージから回復した連中が
起き上がりざまに祭壇の三人へ詰め寄る





「ふざけた事言ってないであの女を出せ!」


「人殺しかくまうなんて頭おかしいんじゃないの!?」





一旦距離を開けた周囲の野次馬達も


彼らの勢いに便乗し、玄関口へと殺到するが
祭壇と万事屋三名が邪魔でそれ以上進めないようで





「本当なんでずぅぅ、嘘や偽りバアァァ
マッダグッ!まっだぐぅううありまぜんんんん」



泣いて誤魔化そうったってそーは行くかぁぁ!
てか古い上に二番煎じの政治時事とか受けねーんだy」


「グッズの少ないメインキャラの気持ちなんて
あなだには分からないでしょうね」


急に開き直りやがったぞコイツ!てゆうか
知らねーよテメェの人気事情なんざ!!」


「私がヒロインなんでずぅぅぅぅぅぶびぃぃぃ」


「せめて目薬は見えないように差せえぇぇ!!」





あからさまに嘘100%の号泣記者会見に苛立っていた





「こいつらも殺人犯の仲間に違いない!
まとめて制裁してしまえ!!





誰かの言葉をきっかけに


石や空き缶、ゴミが家屋や祭壇へ向けて投げつけられる





「いだっ!くさっ!おいテメェ今何投げたぁぁ!


「ちょっとウ○コかすめたネ!」


ひるんだぞ!今だつっこ」


ぼとり、と落ちてきた球状の物体


突撃しようとしていた者達と、祭壇にいた万事屋三人は
硬直し…素早くその場から退避する







祭壇と玄関の戸が弾け飛び


もうもうと立ち上がる煙を挟んで眺める
銀時達と、暴徒の群れとを見下ろして





「同じ人間同士で争って何になると言うのだ」


屋根の上から桂が厳かに宣言した





「いやアンタ争いに文字通り火種投げ込んだよね!?
まとめて諸共吹っ飛ばそうとしてたよね!!」



「お、おいあのアンチ何とかしろお前らの仲間だろ!」


「知らねぇよあんな危険人物!!」





周囲の言葉を一切無視して


残骸の上へ華麗に着地した桂は動揺しまくる
暴徒の群れへつかつかと近づいていき





「譲れぬモノは双方あろう、だからこそ
矛先を間違えてはならんのだ」






内部対立と爆弾を放り込んだテロリストに対して


逃げ腰になった群れの一人の肩へ 力強く手を置いた





そう、最大の問題はこの国の体制にある!

全ては将軍の仕業!というワケで諸君
ここは一致団結して攘夷を起こそうではないか!!」


「ここぞとばかりに勧誘すんなぁぁ!」


「今こそ腐った幕府を倒し、新たな時代を作ろうぞ!
オレと最初の一歩を踏み出すのは君だ!」



「一人で踏み外して落ちとけぇぇぇ!」





哀れな一市民を引き剥がしざま桂を

目にも止まらぬ早業で祭壇の残骸へ叩き付けた
金髪の男を皮切りに


人垣を縫って現れた異国の軍人達が


玄関口や窓などを包囲し、壁となる





「さて邪魔者は消えた…お前達は
自分が何をしているのか、分かっているのか?」


「外人どもはすっこんでろよ!」


「そうだこれはオレ達の問題なんだ!!」


「血気盛んなのは結構だが、お前達のような
未熟な力と思考で何かがなせると思ったら大間違いだ」



そうとも!ただいたずらに力を振るうなら
それは単なる暴力にすぎん!」





訓示を垂れる金髪の隣で
リーゼントも力強くそれに賛同し


力強く自らの胸を叩いて、彼らへ告げる





どうせ力を持て余すんだったらウチの軍に来い!
身体も心もみっちり鍛えてやるぞ!」


「「そっちも勧誘ぅぅぅ!?」」


「こっちはそんなもんどーだっていいんだよ!」


「そう言わずにどうだ?数日続けるだけで憧れのボデーに!
男子諸君はモテモテ、女性もシェイプアップして更に美しく!!
今なら無料で体験できるコースもあってお得だぞ?」


後にしろぉぉ!何にせよ往来でバカ騒ぎ
起こしといて無事帰れると思うなよ」





玄関付近へ集まっていた野次馬達は


背後の真選組へ呆れと安堵が混じった視線を寄越す





「やっと来たよ無能警察、早いトコ
ここん家にいる凶悪犯捕まえてくださいよぉ」


「安心しろ、テメーら全員仲良く
片っ端からブタ箱にぶち込んでやっから」


はぁ?通り魔を捕まえんのがアンタらの仕事だろ!」


「何で善良な一般市民のオレ達を捕まえるのか
意味わっかんね、死ねよ税金泥棒」


「カッコつけてるくせに味覚最悪なんだよ」


「ニコチン中毒者はくたばって地球に貢献しろー」


「よーしテメェら今すぐ斬り殺されてぇらしいな」





血管浮かせて鯉口を切りかける土方の剣幕に
勢いを削がれた暴徒達の


作務衣姿の数人へ、派手な作務衣の男が駈け寄った





何をしているんですかあなた方!
これでは通り魔と何ら変わらないではありませんか」


「し、しかし会長も見たでしょうあの殺人予告!」


「それにあの娘には前科が」


「たとえそうだとしても、こんな乱暴な手段で解決なんて
人として恥ずかしいとは思わないんですか?!」


「うるせぇよ邪魔だ派手ジジイ!」


会長を突き飛ばした若者へ


作務衣姿の人間がつかみかかり その頬を張り飛ばす





「貴様会長に何をするぅぅ!!」


ケツアナ会が暴力振るってきたぞ〜見てましたぁ?
プライバシー侵害だけでなく実力行使とか最低ですよね」


「それなら貴様らは勝手な中傷で面白半分に
"総霊未詳"と作家の人生を狂わせる下種だろ!!」


「沸点低すぎww天人もどきの人でなしを崇めてる
奴らはこれだから、天人マンセーでちゅかぁ?」


「そうやって論点をすり替えるのは敗北を認めてる証だ
ああ貴様らのような下種なダニには難しすぎたか」


「はいはい、そういう争いはブタ箱でやっとけ」





暴徒同士の口喧嘩へ仲裁を入れつつ
手錠をかける土方だが、彼らは止まらない





だからなんでオレらが捕まるんだよ!


「おかしいでしょう!この最低な野次馬連中は
ともかくどうして被害者の私達まで!?」


「そーだそーだー どうせ捕まんなら
土方の野郎を殺っちまおうぜぃ」


「アンタに至っては何の勧誘!?」


「甘いな、志の低い勧誘が市民に響くとでも?」


「立派なお題目は結構だが 時代は気軽さを求めてるんだ
それを満たせない勧誘などもはや押しつけだな」


「何言ってんでぃ、こういうのは目立ってムカつくやつを
標的にしときゃ丸く収まるって相場は」


「「「いらんコラボを起こすなぁぁぁぁ!!」」」





三人分の絶叫は
会員と野次馬連中の乱闘の怒号にかき消され


"総霊未詳"はオワコン!
"総霊未詳"はオワコン!!


あんなくそつまんねーラノベ読むやつは死ねえぇぇ」



「ならテメーが面白い話書いてみろや
いやなら見るなくそアンチぃぃぃ」



大騒ぎになった玄関口へ人々の目と意識が偏っていく







その隙間を縫って裏口から


影のように黒い作務衣が駆けた





おい逃げたぞ!追いかけろ!!」





数人の野次馬達が反応するも
あっという間に の姿は小さくなってゆく











…昨夜の"犯罪予告"によって


間を置かず、ひっきりなしに鳴り続ける
家の電話や携帯を丸無視し





『いいか?もし昼まで何もねぇならこのまま
プランE(エス○ー)でここを出るぞ』


テーブルに置かれた 五千万円が入りそうな
バッグを指し示しつつ銀時が言った





『いくらさんでもその中に
全身入れるのはキツすぎやしませんか?』


『大丈夫だって坂本のバカも入れたんだし』


『極限まで骨を折りたためばヨロシ
後は気合でどーにかするネ』


『了解した『了解しちゃうの!?』







結局 予想よりも早くに突撃が行われたため


三人を囮にが家を離れ、どこか安全な場所へ
逃げ込む方針へと変わったワケだが





とにかく逃げる事に専念してください
手を出すのも極力避けた方がいいでしょう』


『うぬ、代理人殿も何もせぬ方がよいと言っていた』


『私達が時間稼ぐから、ここ出て
どこでもいいから逃げこんどくアル!!』





槍の使用を全面的に禁じられた彼女は
依然として窮地に立たされていた









追っ手もまた追撃の手を緩めることはなかった





いた!相手は丸腰の女一人だ、全員でかかれ!!」





屯所の門前まであと数メートルの所で


鉢合わせた"ASSの会"のメンバーだろう
作務衣の数人が取り囲み、捕獲しようと手を伸ばすも





ちゃん!早くこっちへ!!」





その腕をかっさらって 山崎が安全な場へと誘導する





「かたじけない月見里(ヤマナシ)殿」


「違うぅぅぅぅ!山崎!」


全力で訂正しながらも、彼は少しだけ安堵して





「ぶぎゃっ!?」


気が緩んだその瞬間に 縋り付いた会員に
足をつかまれて顔面から路面へダイブした







屯所の門前へ集まる野次馬を見て、は踵を返し
知人の屋敷へと向かうが


曲がり角から飛び出した 茶色く臭い手の平に反応し


身を引いた直後、足を引っかけられて転ばされ
いやらしい笑いを浮かべた男達に身柄を抑えられる





「おい上手い具合に転んだぞこの女」


「よくやった、てかその手近づけんなウ○コくせぇ!」


「へへ抵抗すんじゃねぇよ…ぼさっとしてねぇで手伝え!
手早くマワして撮った写真公開し、ぎゃああぁぁ!?


降り注いだクナイが不埒な者達をすんでで撃退し


起き上がったは 頭上のさっちゃんを振り仰ぐ





「全く、休みの時くらいは銀さんと静かに
愛を語って過ごしたいのに目障りったらないわ」


「すまぬな あやめ殿」


「はいはい私はこれから銀さんへ
猛烈アタックしに行くから早く行きなさい」







細い路地と大通りを縫い歩きながら、スナックや吉原
外人基地など候補となりうる場所を目指す


その度、妨害によって逃げ込むことを阻止され
様々な奇禍に見舞われていたが





助ける見返りに局部をさらしてくる変態を





「か弱い乙女を食い物にしようだなんて最低のファンね」


「全くじゃ、男の風上にもおけん○○○は
ここで切り取ってしまおうか「い゛やああぁぁぁぁ!!」


地上と地下最強の女が代わって撃退したり





「逃げる当てはおありなのですか?」


「いくつかは、しかし追っ手を振り切らねば…」


ならこの段ボール使ってくれ!ちょっとニオうけど
いざとなったら連中の目をごまかせるかもしれないし!」


渡された段ボールが急場をしのいでくれたりなど





「何するのよ!服に醤油がついちゃったじゃない!!」


「あん?聞こえんなぁ〜試運転中でな」


「その機械止めろクソジジイいぃぃぃ!!」


道中で出会うのは、追っ手だけではなく





「紛らわしい恰好してたら斬りたくなるじゃない」


通り魔じゃなく辻斬りだろこれぇぇぇ!
警察は何やってんだっ!!」


「公務執行妨害で試し切りしとこうかな「お助けぇ!」


見知った顔も直接、あるいは間接的に彼女の逃亡を
手助けしてくれていたので


はどうにか捕まる事を回避し続けていた







「流石に、走り通しは辛いな…」





変わらぬ無表情に汗を浮かべ嘆息しながらも
周囲を警戒しつつ角を曲がり


二階建ての建物に自分を探しているであろう人影が
ないのを確認して 階段へ向かい





万事屋まであと数歩といった所で


気配を感じて、彼女は振り返った





「やっと会えましたね」


「っ…お主、どうしてここに





少女と目の前にいる、同じ色の作務衣を着た
黒い三つ編みで緑色の目をした人物は


にっこりと楽しそうな微笑みを浮かべていた





「どうしてだと思います?」











―か細い悲鳴を聞きつけて


作務衣の会員が携帯を閉じ、路地へと駆けつければ





「いやあぁぁぁっ、助けっ助けて…っ!!」





ぷんと鉄錆に似た臭いが鼻を突き


血染めの包丁の側でひきつった顔でへたり込む
やや短めの黒い三つ編みで、黒い作務衣の女性へと


おぼつかない足取りで歩み寄るがいた






「やめろこの人殺し!!」





男の一声に示し合わせたようにファン・アンチ問わず
数人が集まり、素早く少女を取り囲んでゆく


ひざを折る少女に構わず人々は


その小さな体を地面へ叩き付けると





「やっぱりあの予告は本当だったんだ!」


この女は人殺しだ!今のうちに殺しておこう!」


「そうだそうだ!須藤さんや
被害を受けた人達の痛みを思い知れ!!」






凶悪な顔を向け 冷たい言葉を浴びせて


一斉に、拳や足を振り上げて―







「人ん家の側で何やってんだい!」





駆け付けたお登勢の浴びせた一括が その動きを止めた





「それ以上そいつに何かしてみろ
全員仲良く額にケツアナ開けてやらぁ





間を開けずやってきた銀時達に気圧され


血の気が引いた一団へ
すごい勢いで駈け寄った神楽が食ってかかる





「お前らが何したっていうアルかあぁぁぁ!」


「し、しかしこの女 さっきそこの人を殺そうと」


「よく見ろ、刺されてんのはコイツの方だ」





神楽を引き離した銀時が 冷めた目で指摘した通り


横たわるからは今もなお血が流れ出しているが


包丁の側にいた女は 手の平と服の一部だけが
申し訳程度に赤く染まっているのみ





瀕死の小娘 数人がかりでぼこって英雄ヅラか?
大した勇気ある市民だなオイ」





突き放すようなその一言が 男達の戦意を完全に奪った





「出血がひどい…早く救急車を!


「了解しました」





あわただしい応急処置が行われている間


銀時と神楽とキャサリンに佇む男達の監視を任せた

お登勢が、カタカタ震えたままの女へ凄む





「アンタ あの娘に何したんだぃ?」


「あたっ、アタシ、迫られてこわくて
だからそれで それで胸を、胸を」


「ぎっ…銀さん!さんの脈がっ





さっと青ざめた顔をする新八へ





「落ち着け新八、いつもの三途日帰りツアーだろ
手当すりゃいつもみたく持ち直すって」


気のない様子で答える銀時だったが、その頬には
冷たい汗が一筋流れていて


程なく到着した救急車で少女は病院へと運ばれたが





…意識が戻ることはなかった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ファンとアンチのコラボによる逃亡劇
その顛末はここで終了となります


長谷川:え、このまま終わるの!?ちゃんは!?


東城:こうなるならば、外聞を無視してでも
柳生道場へお連れしておけば…!


妙:…いくらなんでも 妨害や先回りが多すぎないかしら


桂:全くだ しかし連中ファンであるなしに関わらず
興奮していてこちらの話を聞きやしない


銀時:テメーは論外だが、せっかくセットまで作って
やった演説も無視されたしな


沖田:せっかく警察の膿を出すチャンスも連中
不意にしてくれやがったしねぃ


土方:当たり前だ、あとテメーら罵倒合戦参加してたろ
絶対ぇ許さねーからな?


のぶめ:暴徒惨殺無双が出来ると聞いて


神楽:どっからの情報アルか




少女はなぜ、刺されてしまったのか…?


様 読んでいただきありがとうございました!