夢を、見ていた





――私が犯した罪の記憶





繰り返し、繰り返し


幾度となく夢に見る あの日の出来事









夜中に 屋敷の中で悲鳴が聞こえた


外の小屋で寝ていた私は、その声で目を覚ます







聞き覚えのある悲鳴……あの声は


「…兄上っ!?





私は咄嗟に槍を持って 屋敷に飛び込んだ







時刻が夜中だからか 誰一人いない廊下を走り
悲鳴の元へと駆けつけた





悲鳴は 田足家の主の寝室から聞こえていた







少しだけ開いていた扉の隙間から中を覗くと―







寝台の上、兄上が主人に襲われていた







余りの出来事に しばらく動けなかった


馬乗りにされている兄上は 着物を乱されながらも
必死で主人に抵抗していた





そのうち主人が業を煮やし、兄上の首を
両の手で絞め始めた





「ぐっ あぐうっ!!







苦しそうな兄上 この上なく恐ろしい笑みをした
人でない養い主





――このままじゃ、兄上が
兄上が殺されてしまう!!










無我夢中だった





槍を握り締め、部屋へと飛び込み


主の背に 槍を振るった





恐ろしい悲鳴と共に 赤い血飛沫が舞う







(コイツは 兄上を襲った


(兄上を殺そうとした)


(私も 殺しにくる)








私は何度も穂先を叩きつける





視界は 紅く紅く、染まっていく











「やめるんだ !」





兄上の声が聞こえて ようやく回りが見えた







背を真っ赤に染めて動かない主


赤く染まった槍と私の両腕


呆然と見つめる兄上―






あ…ああ…!





私は急に恐ろしくなり 屋敷から逃げ出した







だが逃げ出す私の背中から、闇が追いかけてくる





闇は口々に囁く





「人殺し」


「お前のせいだ」


「お前が兄を罪人にした」


「自分の兄にを負わせた」







泣きながら 耳を塞いでただ走る私
持っている槍も、耳を塞ぐ両手も赤く染まっている







走って 走って





もう走れずに立ち止まり、その場にしゃがみ込む







辺りはいつの間にか闇に包まれ 目の前には





「こっちへおいで…


血に染まった短刀を握り 兄上が微笑んで―












第八訓 お酢を飲んでも身体は柔らかくなったりしない











目が覚めると、無機質な扉が見えた





見覚えのない 薄汚くて殺風景な、窓のない部屋







よくよく見ると私は、壁に磔の状態で拘束されていた





「確か私は…あの店の地下に入って…」







段々と記憶がハッキリしてきた





状況からして、この場所はあの店の地下
どこかに間違いは無いだろう







恐らく高杉に気絶させられたあの後、
ここに連れてこられたに違いない









手足の戒め等 あの家にいた頃から最早
私にとって珍しい物でもなくなっている





抜け出す事は、容易い





「監視のカメラも無いようだ…」







両の手首から指までの関節を一旦外し
拘束具を抜けてからはめ直す


足も同じようにして外す





…ありがたい事に首には拘束具が無い





腰の辺りの関節を外し そこから抜けると
はめ直して辺りをうかがう











私の母は 身体の関節や筋肉等を自在に
変化できる天人だった





兄上が母上の特性をより強く受け継いでいたが


私も身体の関節ぐらいなら
ある程度は意のままに出来た





裏稼業での潜入や 誤って捕虜となった時
脱出なども、この特性が大いに役に立った







「早く…この場所から抜け出さねば」





一体 どの位ここにいたのかも分からぬが
恐らく銀時殿達が心配しているだろう


…それに 伝えねばならぬこともある







私は部屋の中を色々と探し回り


無造作に置かれていた 愛用の槍を手にした







―――――――――――――――――――――





どうやら真撰組のその後の調べによると、
店内に怪しいものは見つからなかったらしい







神楽と新八はそれだけを聞いて、
一足先に万事屋へと帰ってきた





そして一日過ぎたが 銀時は今だ帰ってこない









「銀ちゃん 何処まで行ったアルか…
遅過ぎアル、なんで帰ってこないネ」


「本当だよ、さんがいなくなったって言うのに
何処で何してんだよあの天パは」


「お前達 こんな所にいたのか」





万事屋の前で悩み続ける新八と神楽の前に
桂が現れた…今度は普段の格好で





「桂さん 何しに来たんですか?」


「銀時に、伝えねば鳴らぬ事があってな…」











話は昨日桂が万事屋の面々と別れた時に遡る







「ククク…相変わらずだな ヅラ」


「ヅラではない桂だ 何のようだ、高杉」





万事屋の面々と分かれたあの後、バイトを続ける
桂の前に 煙管を吹かして高杉が現れた







「いや、単に預かってる荷物がいるから
それを銀時に伝えて欲しくてな」





紫煙を口から吐いて、高杉は顔を歪めて笑う





「兄妹愛ってのは美しいねぇ 何せ
野放しの生物兵器が放置された用済みのアジトに
単身で乗り込む命知らずなんだからな」


「!まさか 高杉貴様!?


「さーな 銀時のヤロウなら分かるんじゃねぇか
オレは忙しいからもう行くぜ…」







ニヤリと笑って 高杉はその場から去った









「やはり睨んだ通り あの店は…」







桂の隣ではエリザベスが





『桂さん ひょっとしてその生物兵器
最近の事件に関わってるんじゃ…?』


と書かれた立て札を持ち上げた





「かもしれん…とにかく、銀時達に知らせに行く
エリザベス お前はここで待て」











「…と、言うわけだ」







桂の話を聞いて 新八と神楽が顔を見合わせる





「そっ…そんな、あの店が そんな所だったなんて」


「事は一刻を争う 急がねばなるまい…
所で銀時の姿が見えんが?」


「銀ちゃん 昨日からまだ帰ってきてないアル」


「何!?銀時は一体何処で何をしているんだ!
よもや腹でも壊して厠の住人に!!?


「何その発想 小学生かアンタは!





その時 銀時が何事もなかったように
皆の前に現れた





「おう、テメーら 遅くなったな」


銀さん!今まで一体何処行ってたんですか!?」


「うるせーな糖だよ厠にいたの それよりヅラ
なんでテメーがいるんだよ」


「当たってた 当たってたよ
何 一日中ずっと厠こもってたの!?






新八のツッコミをスルーして
桂が真顔で銀時に言う





ヅラではない 桂だ、銀時今からあの店に行くぞ」







銀時が真顔で返事を返す





「あの店ってどの店よ エミコちゃんとは
確かにご無沙汰だけどオレ今金ないし」


そっちじゃねーよ!何勝手に大人の店に
行く気なんだよ!?例の封鎖された店ですよ!!」


がまだあの店にいるアル!
早く助けないと何か大変なことにもなるらしネ!!」


「冗談だよ冗談、まったく面倒な女だなアイツ
…そんじゃ 行くか!」





四人は 店へと引き返すことになった













店はまだ封鎖されたままで、野次馬も
相変わらずごった返していた







万事屋三人が野次馬を掻き分け先頭にたどり着き


桂は少し 進むのに手間取っている





「あのちょっと 僕達店の中に落し物したんで
中に入れてもらえますか?近藤さん」


「新八くん、悪いけど一般人は立ち入り禁止だ」


「固てーこと言うなよ、ちょっと中に入って
確認させてもらうだけだからよー」


ダメだって言ってんだろ!
探しものなら後にしてもらおうか」


じゃあトイレ!私トイレに行きたいアル!
貸してくれなきゃここで漏らすぞゴリラー!!」



「じゃあってさっきまで催してなかったよね!?
てゆうかここでするなオイちょこれって新手の脅し!?






万事屋の三人が粘るが 近藤局長は
頑として首を縦に振らない







オイそこ!何やってんだ!!」


「おい 守備はどうだ銀時」






怒鳴り声と同時に ようやく桂が
三人の元にたどり着く





怒鳴り散らす土方と沖田、先頭で
野次馬を食い止めてた近藤局長 そして発言した桂


その四者の目が 合った





「「「「あ」」」」





沈黙は 一瞬、そして


「見つけたぜぇカーツラぁぁぁ!!





沖田が何処からかバズーカを取り出して
所構わずぶっ放した





野次馬達が何人か巻き添えになり 他の人達も
我先にと逃げ出していく







「ちょっ 一般市民の僕達巻き添えですか!?
あんた等本当に警察!!?


総悟ぉぉ!テメッいきなりぶっ放してんじゃねーよ!」


「どこだー桂ー ここかー!」


「何棒読みでオレにバズーカ向けてんだ
桂はあっちだろ斬るぞコラァ!!



局長ォォォ!局長が倒れたアァァァァ!!


てゆーかヅラァ!テメーのせいで
余計なとばっちり受けたぞこのヤロー!!」





もうもうと爆煙が舞う中 色々な叫び声が飛び交う







「ヅラではない!桂だ!!」





煙が収まって 桂はいつの間にか
少し離れた屋根の上に避難していた





オイヅラァ!
何テメッ一人で避難してやがんだよぉ!!」


「そうだそうだァ これでも喰らうアル!!


痛たたたたた!
やっ止めろ銀時、リーダー!!」






銀時と神楽の投石攻撃に 桂はダメージを受けている





「今日こそ捕まえてやる、桂!


「ふん…そう簡単に捕まってたまるか!」







包囲しようとする真選組の面々に向かって 桂が
お手製の時限爆弾を投下する


あっという間に封鎖していた店の前の道路が
この世の戦場へと変わった







「ちょっ桂さん 桂さん!?
あの人何しに来たの!!?



「アイツはほっとけ、奴等を引き付けてくれてるお陰で
店に入れるから結果オーライだ」


「そうそう 税金ドロボー達が表で騒いでる今の内に
私たちは中に入るヨロシ」


「外道ですかあんた等!?」





またもや新八のツッコミを無視して
銀時が声を張り上げた





「よーし、じゃ これより兵長救出作戦
開始するぞ 準備はいいか!?



「万全であります!軍曹ォ!!


「一体何なの突然!なんで突然軍人調!?


「周りが戦場だから景気づけだよ景気づけ、
つーわけで突入!


「新八一等兵も遅れるなァ!!」


「なんで僕一番下の階級なの…全くもう!」









何だかんだ言いながらも


表の騒ぎのドサクサにまぎれ
三人は 店の中へと突入した








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:やたら遅くなりましたが銀魂長編も佳境に入り
ようやく重要なポイントが一つ書けました


銀時:原作の主人公オレなのに、オレの扱い
なんかおざなりじゃね?


新八:てか僕のツッコミが無視され続けって
どういうことですかちょっと!!


桂:オレの出番はあれだけか!?


神楽:いい加減ギャグ要素もネタ切れの方向に来てるネ
もうちょっと予想を裏切るヨロシ


狐狗狸:外野うるさいよそこ!!私だってなるべく
原作みたいに裏を掻きたいけど、無理なのあの境地は!
ぶっちゃけそれだけ空知先生がスゲーの!!


土方:空知称えりゃ逃れられると思ったら
大間違いだぞコラァ!!


沖田:そうでさぁ、いっそのこと土方さんとともに
あの世に消えてもらいやしょうか(特大バズーカ構え)


近藤:トシぃぃ、逃げろォォ!!(ボロボロ状態で叫び)


狐狗狸:うわ危ない ここは早めに逃げよー…


高杉:(影から)ククク 逃がすかよ


狐狗狸:ヒイイイイイ!おまわりさーん ここに
指名手配の凶悪犯がぁギャア!!(斬られ)




次回 ようやく兄貴が出てきます…あんまり裏が
掻けてなかったですけどね(泣)


様 読んでいただきありがとうございました!