「痛たたた…」





私は背中を擦りながら 身を起こした


まさか地下が存在したとは…





先程落ちてきた所を見やると 側に梯子が
付いていて、まさしく地下への入口そのものだった





それを確認した瞬間 ぽっかり開いた
入口の天井が


音も無く まるで機械仕掛けのように閉じた







「入口が…」





呟いて閉じられた天井を見ても、まるで
最初から入り口など無かったかのようだった







この店は 一体どうなっ…て…


「なっ…何だ ここは!?





目の前に広がる光景に 私は愕然とした







ゴチャゴチャとした機械が部屋を占領し


大きな液体の入った容器の中に 何かが蠢いている




一体何なのだ この場所は









くくく……とんだネズミが入り込んだもんだ」


「誰だ!」


弾かれたように声のした方向を見る





部屋の奥の影から すっ、と男が現れた











第七訓 時々は足元の確認を











端正ながらも何処か鋭い顔立ち


その右目が包帯に覆われており、


派手な着物を羽織り、キセルをふかして
こちらをじっと見つめている





何処となく 危険な雰囲気を纏ったこの男





……もしや、







「…お主 もしや狂犬と名高い高杉晋助か?」


「ああ、巷の奴にはそう言われるなぁ」





噂には聞いていたが この男がそうだったとは







……この場所といい、高杉がいる事といい
この店は 何か危険


早くここから脱出しなければ





「マズイもんを見られて、ただで帰れるとは
思っちゃいねぇだろう?


…何故 その名を」







ゆらり、と高杉が一歩 動く


釣られて私は反射的に 槍を組み立てて構える





「攘夷戦争で途絶えた槍術 有守流の使い手
裏稼業にいるって聞いたんでねぇ」







言いながら 高杉はスラリと剣を引き抜いた





「この店は 何かお主に関わりがあるのか?」


「お前、攘夷戦争で父親を無くしたらしいな
…この腐りきった国に復讐しようと思わねぇのか?」


「…真面目に答えろ!





言い知れない恐怖に 私は突きを繰り出す


しかし、軽やかな体裁きでかわされ





冥土の土産ぐらい落ち着いて聞いとけよ
なぁ… 





途端 信じられない速さで刃が唸る







相手の刃を辛うじて槍で受け流すが、
態勢を崩されてしまった





急いで態勢を立て直して反撃に―出ようとして


刹那 腹に大きな灼熱感が生まれ、急に息が詰まった





身体がくの字に曲がり、自然とそちらに視線が向く





高杉の下駄底が 鳩尾を的確に捕らえていた


ぐ…っ!


「残念だが オレはお前の相手をしてる
ヒマは無いんでねぇ」





間近に歪んだ微笑が近づき 衝撃と共に
視界が急に暗くなる







「もう少しゆっくり寝ておくんだな、
江戸がぶち壊れるその瞬間まで な」







遠くに聞こえるその言葉を最後に 意識が
闇へと消えた







―――――――――――――――――――――







オイオイオイ 何だってんだこの人だかりは?」





三人がたどり着いた時には 店の周囲を
野次馬がぐるりと取り囲んでいた







「なぁオイこれ どーみても事件っぽいよな?
やっちゃったか、あの女ついにやっちゃったか?


不吉な事言わないで下さい!まださんと
決まったわけじゃないでしょーが」


スイマッセエェン!ここ通してもらうアル!」







人込み掻き分け 三人が最前列に来ると





「あーはい 関係者以外は立ち入り禁止…
おや、万事屋の旦那





沖田を初めとして 真撰組の面々が
一般人を抑えていた





「あの…これ、なんか事件があったんですか?」


「いやね、前にターミナルぶっ壊した
えいりあん いやしたでしょ?」


銀ちゃんパピーが退治した奴アルな」


アレと似たようなタイプの奴高杉一派
手に入れようとしているっつー情報があったんでさぁ」








どうやら先程会った時の"別の件"とは
その事に関係していたようである





「売人と仲介をしてた奴の目星は付いてたんで
ひっ捕らえたがだんまり決め込んでてねぇ」





言いながら沖田が 淡々と言葉を続ける


「で、前から怪しい噂のあったこの店を
抜き打ちで御用改め―


「オイ総悟!何 一般人にベラベラと
オレ達の極秘捜査しゃべってんだ!!」






怒鳴り声と共に 沖田の背後から土方が現れる







「所で税金泥棒、私達の依頼人がこの店に
来た筈だけど 見なかったアルか?」


「あの女か、生憎だが 店内にはそれらしい奴が
いなかったみてーだ…って誰が税金泥棒だコラ」


「え、いないってそれって…本当なんですか?」


「まだ店の捜査が全部終わったわけじゃねーから
なんとも言えねぇけどよ」







銀時が頭をポリポリ掻きながら 一歩身を引く





がいねーんじゃ仕方ねぇ…オレ達も
別の場所に行くとするか」


「え ちょっと銀さん!」





新八と神楽も戸惑いながら 銀時の後に続こうとし、







「お前等にちょっと言っておく事がある」





土方の声に 万事屋三人が怪訝そうに振り返る





「あの女…絶対屯所に来るように言っとけ
幾つか聞きたいことがある


あん?何だ聞きたいことって?」


「いやーオレ知りやせんでした、まさか
土方さんにロリコンの気があるたぁ」


「違ぇよ!テメーは黙ってろ!!」





少しイラっと来た心を静めるように、
土方はタバコを咥えて火をつけ 続ける





「オレも思い出してな って苗字…
随分昔の新聞記事に乗っててな」


「…やっぱり!」





新八が思わず声を上げる







「確か、天人の富豪 田足が殺された時
兄貴が最有力容疑者って事でマークされてたらしい」





土方は タバコの紫煙を細く口から吐いて





殺された時 家政婦が血塗れで逃げていく
兄貴を見ていたって記事に載ってたな」


「じゃっ じゃあ…さんは…」


「どうやら兄貴が逃げた時には もう既に
いなくなってたらしいですぜ?」





付け足すように 沖田の言葉が滑り込んだ







「大方 先に逃げたんじゃねーの?
犯行目撃するかなんかしてよぉ」


「けれど銀さん、そしたら何でさんは
お兄さんを見つける事に拘ってるんですか?」





新八の疑問に答えるように 神楽が口を開く





銀ちゃん!きっとはビビって逃げて、
それを後悔したから、兄ちゃんを説得―」


「どうだか、意外とあの女がやったんじゃねーか?





切り捨てるような土方の言葉に
沖田が茶々を入れた





アンタに言われちゃオシマイですがねぇ、土方さん」


「それどー言う意味だ あん?」







土方と沖田がメンチ切りあってケンカを始めた中、





万事屋三人は途方に暮れていた







「…どうしよう銀ちゃん 結局の居場所が
分からないアル」


「そうですよ これからどうしましょう?」





だが銀時の返答は 至って素っ気無かった





「…知るかよ そのうち戻ってくんじゃねーの?
あー悪ぃ、オレちょっと小便いってくらぁ」


「ちょっと銀さん!どこいくんですか!?」







新八が止める間も無く 銀時はふらりと
何処かへ消えた









「銀ちゃんちょっと薄情アル、新八
こうなったら私達だけの行方を探すアル」


「…そうしようか ここでジッとしてても
しょうがないし」







調査の続く店の前では まだ土方と沖田の
ケンカが続いている








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:話もそろそろ中盤に差し掛かり、高杉も
予告通り出ましたが…


高杉:くく…随分展開が早足になってるじゃねぇか


狐狗狸:どわぁっ いつの間に背後にいたんですか!
てか万事屋三人組は何処行った!?


高杉:銀時の野郎に邪魔されたくなかったんでね
テメーもと同様拉致らせて貰ったんだよ


狐狗狸:怖っ!つーか強制ですか!?あの、それで
杉様…今後の展開の方は?(恐怖のあまり様付け)


高杉:先に触れてると思うがオレには時間がねぇ
を奴等に引き渡したら、あの店に用は無くなる


狐狗狸:…するってと まさか(汗)


高杉:大体の荷は船に積んだからな…あの場所で
最後の花火が上がるのも近いかもな(妖笑)


狐狗狸:(頼むからその怖い笑みを間近で
やらないで下さい/怯)




次回からの過去話がちょこちょこ出てきます
そして…色々とアレな事実が明らかに(何)


様 読んでいただきありがとうございました!