真撰組の屯所の一室で、土方と近藤と沖田は
先程捕らえた男の取調べを行っていた





「テメェに二、三聞きてぇことがある…
アレは何処に隠したんだ」





タバコに火をつけ 土方が詰問をするも





一体何の事ですかな 私にはとんと
憶えがございません」





詰問された事などお構いなしに 男は
いやらしい笑みをその顔に貼り付けるため


土方がタバコを加えながら、男の胸倉を掴む





「しらばっくれてんじゃねーよ、テメェが高杉一派
繋がりがあった事はとうに知れてんだ」


「トシやめろ!」





近藤が土方を諌めると、土方は小さく舌打ちをして
乱暴に掴んでいた手を放す


ガタン、と大きな音がして 男が床に尻餅をついた





「テメェが闇の売人と仲介をしていた事も調べが
ついてんだ、さっさと吐いたらどうだぃ?」





沖田が脅すように低い声音で 男を見つめる







男は酷く狼狽しながらも、口許に笑みを浮かべて呟く





「ククク 遅かったな幕府の犬め、アレはもう
既に売り渡したわ」


『何だと!?』





その一言に取調室の空気が 一気に張り詰める





「いずれ江戸中の奴等と天人どもに
天誅が下る…楽しみだ」







男はそれだけ言うと 狂気じみた高笑いをあげた











第五訓 急いては事を仕損じるとはよく言ったもんだ











「銀時殿 私は夢の中で兄上の声を聞いたんだが
近くに兄上はいなかっただろうか?


「いるわけねーだろ どんな夢だよ」





私は先程見た光景を 思い出しながら呟いた





「不思議な夢だった…幼い頃の私が
兄上に呼ばれていて…」


「そういや、オメェしきりに兄上っつってたな」







銀時殿の呟きに 私は首を縦に頷いて





「大きな川が近くにある花畑にいて
父上が対岸から呼びかけ」


説明を続けていた言葉半ばで





「三途の川じゃねーかあぁぁ!!」


軽く臨死体験してますよそれ!カンオケに
片足どころか両足揃えて突っ込んでるよ!!」






銀時殿と新八殿が同時に叫び出した







…そうか、アレが有名な三途の川だったのか


よかったあの川を渡らなくて







「まぁ 喉に詰めて三途の川に行きたくなる
私の卵焼きがおいしかったのね?」


「どんだけ都合よく解釈してんだあぁ!!
どう転ぼうが殺人兵器だろーが!!





叫んだ瞬間に銀時殿が 妙殿にフクロにされる







「そう言えば聞き忘れてましたけど…さんの
お兄さんって、さんに似てるんですか?」





更に顔がボコボコになった銀時殿は気にしない方向で
新八殿が 私にそう問い掛ける





「いいや 私など兄上の麗しさの足元にも及ばない」


「いや、そー言うことじゃなくてですね
もっとこう 髪の色とか身体的な特徴を」


メガネとか黒子とかヒゲとかメガネとか陰湿とか
目立った特徴教えて欲しいネ」


「何で僕見ながらメガネって言うの神楽ちゃん!
しかも二回も、っていうか陰湿は特徴じゃねーし!!」


「そうだな…兄上も私と同じ 髪と眼の色をしている
それ位しか取り立てて言う事は無いのだが」





言った矢先に 銀時殿に頭を叩かれた





先にそれ言えよぉぉ!
十分手がかりじゃねーか!」



「いやしかし、黒髪に緑色の目の者など
ありふれているではないか」


「ありふれてないから!食玩についてる
シークレット並みの珍しさだから!!」



黒髪に緑色の目 ですって…?」





唐突に 妙殿が声を上げる


神楽殿が不思議そうに 妙殿に問い掛けた





「どうかしたアルか 姉御?」


「最近、この近くに出来た店で
黒髪に緑色の目の女を見かけたわ」







私を含め、皆の視線が妙殿に注がれる


私は、思わず問いかけた





「そ…その方の名は というのでは!?」


「え、ちょっと「知るわけないでしょ?」





ニッコリと微笑んでいた妙殿に 尚も
食い下がろうとしたが







あの店出来てからウチの売上落ちる一方だし
お客様の最近の話題は皆あの女のことばかりだし
正直 口にしたくも無い話題なのよ」





妙殿の顔が、菩薩から仁王に早変わりし





「何が"あの子に比べりゃ他の女は芋ばかり"だぁ
芋はそっちだろうがスケベハゲおやじがぁ!」







余りの恐ろしさに 二の句が告げなくなった


…というよりか、これはもうただの愚痴では無いだろうか

(しかし今それを言える勇気は無い







呆然としていると 神楽殿が肩を叩く





、もう何も聞かないほうがいいネ
姉御ああなったら ごっさ恐ろしいアルよ」


「とりあえず、その店に言ってみた方が
早いんじゃねーの?」


「でも銀さん 姉上は女の人だって…」





私は過去の経験から、きっぱりと言い切った





「いいや、きっと兄上は女に間違えられたんだ


「どんな間違いですか!?」


「間違いではなく事実だ、とにかく参りましょう!







なおも渋る新八殿を押し切って


妙殿に何とか店の場所を聞き出し、
万事屋の人々と共に そこへ向かった











正直言って、まだ信じられぬ気分だ






私は 仕事の傍ら、兄の消息を掴もうと
情報を聞きまわってみたりしていた







 確かお前、兄を探しているといったな?―





その情報が入ったのは 半ば諦めかけていた時だった





―それらしき人物が最近、かぶき町にやって来た
聞いている…探してみたらどうだ?







いてもたってもいられず、探しに行こうとした
私の心を透かしたように 助言までもらった





―お登勢の店の二階に、何でも引き受ける万事屋がある

一人じゃ到底無理だろう そこに頼むといい―









いみじくも言葉通り、私一人では手がかりすらろくに
見つからなかっただろう







…これで本当に兄上がいるのなら、私は











ついに私達は 目当ての店にやってきた





店の前にいた店員が、ニコニコと張り付いたような
笑顔を浮かべ 私達へ声をかけてくる





「いらっしゃいませお客様 当店は指名制と
なっております、どなたを指名されますか?





言いながら 何やらメニューのような物を差し出すが


「そんなヒマは無い、少し失礼させてもらう


「ちょっとお客様 困りま…わぁっ





止めようとする店員を跳ね飛ばし 店に入る









中は薄暗く、羽振りのよさそうな者が
多数を占めていたが

意外と柄の悪い者達も見受けられて


もう馴染んでしまった裏世界の空気を感じながらも
私は店内を散策する







「オイこら!何一人で先走ってんだぁぁ!
まだオレ指名する子決めてた最中だったんだぞ!!


「きっとおトイレ借りたかったアルよ
もう限界だったに違いないネ」


そんな訳あるかぁ!スンマセン 通して下さい!」





何やら銀時殿たちが後ろで揉めているが
そんな事など気にしていられず





私は店内を 隅から隅まで見回して―









奥の席に 誰かを待っているかのように
テーブルに座る従業員が一人、いや





兄上が…いた







「アレ?どうしたネ まさか…
マジで脱糞したアルか?


「無いでしょそれは!女の子なんだから
脱糞なんて言わないの!」








外野の声はもはや耳に入らない









女の装いをしていようと、どれだけ化粧を施そうと





顔にハッキリと残る面影は 紛れも無く兄上だ











「見つけた、兄上…!


『え…えぇぇぇぇ!?』





「兄上………!」





私は兄上にゆっくりと近づく





兄上は、私を見ると 微笑を浮かべ


「あら、可愛らしいお客様ね いらっしゃいませ」





しかしその口から漏れたのは


余所余所しい女の声だった







兄…上…ですよね?
あなたは 私の兄のですよね?」


「嫌だわお客様 わたしの名前は
見ての通り女、あなたのお兄さんではありません





尚も平然と女の声が 私の心に突き刺さる







「そんな筈 無い、私はあなたを一度たりとも
忘れる事など無かった」


「オイ 止めとけっ」





銀時殿の静止の声を振り切って





「兄上っ 私の…
妹のの顔をお忘れですか!?


私は兄上の腕を取り 必死で呼びかける







けれど、兄上は


私の手を振り解き 頬を張り飛ばした





人違いですわ、いい加減にしてください
出て行かないなら警察を呼びますよ?」







叩かれた左頬が…酷く痛い









「困りますよお客様、営業妨害になるんでね
出て行ってもらいましょうか





私は呆然としたまま 万事屋の皆と共に
店員の男達に、店から放り出された








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何とか手がかりの辺りを書きましたー
これから話はあらぬ方に転がりそうです


新八:あの…既に取り返しがつかない方向
転がってませんか?色々と


神楽:新八 人間やってしまったものはしょうがないネ


銀時:そうそう、人間諦めが肝心だぞ?


新八:ちょっと!何で二人して僕にそういうんですか!?
この話の主役は僕じゃなくさんでしょ!?


狐狗狸:新八くん 悪いことは言わない
…吐いて楽になれ


妙:新ちゃん、侍は言い訳はしないものよ?


新八:何このムード!?これ新手の嫌がらせ!!?




今回ネタバレになりそうだし、取り立てて書くこと無いんで
新八弄りで逃げときます(最低)


かなり急な展開になってきました、次回には多分
桂さん出ると思います…まぁ期待しないで待ってください


様 読んでいただきありがとうございました!