四方を肉の壁に囲まれ 触手が体の自由を奪おうとする


私は触手を引きちぎりながら、奥へと目指す





その間にも身体の力が徐々に奪われ
槍を持つ両手に 力を込めるのが難しくなる







それでも、私は諦めなかった








今度こそ 今度こそ兄上を助ける!









やがて 触手の塊に埋もれかけた兄上の顔を見つけた





「兄上…今、お助けします!」





私は槍を振るって 兄上の身体を引きずり出そうともがく









周囲の触手が 肉の壁が


内部の私を取り殺そうと、迫ってきた…











第十二訓 悲劇のヒロインは結構しぶとい











相変わらず 神楽を中心に迫り来る
餓鬼椿の触手を、力の限り退けつづける三人







―必ず 兄上を助け出すから―







の言葉を信じ、三人はあれからずっと
彼女が出て来るのを待っていた







しかし、一向に弱る気配のない餓鬼椿の猛攻に


三人の顔に 疲れの色が見え始めていた









が取り込まれてから 大分経つアル…」





神楽が ぽつりとそう零す





「銀さん これ以上はもう僕らが持ちませんって!」





新八も耐えかねたように叫ぶ







さしもの三人の胸にも、不安が募り
諦めそうになった…その時





「おい!さっさと出てきやがれ!!」





堪り兼ねて 銀時が餓鬼椿に
向かって吼えたその瞬間





"餓鬼椿"の表面から


一本の槍が飛び出してきた







槍が一旦中に引っ込むと、すぐさま表面が
切り裂かれたかのようにバラバラに崩れる







そこから出てきたのは 触手が絡みついたまま
ぐったりとしたと、





を引きずった血深泥の







――――――――――――――――――――







暗い筈の基地が 明るく感じる





外に出たことで、息苦しさが少し薄らいだ







さん!」


!大丈夫アルか!!」





新八殿と神楽殿が 餓鬼椿の触手を払いながら
こっちに近づいてくるのが分かる







兄上を早くここから助けたいのに





絡みつく触手と体力の低下のせいで


身体が もうまともに動かない







「もう…力が……あ、兄上を 頼む…」





絡みついた触手が 私を中へ通し戻す





もう、外に出る体力が…





せめて、兄上だけでも 外へ……









「「「うおおおおおおおおお!!」」」





裂帛の叫びと共に、銀時殿が


私と兄上にまとわりつく触手を次々と切り払う





間髪いれず 新八殿と神楽殿が
私と兄上を力ずくで外へと引っ張り出した





『エエエエエササササアアアア、カラダッ
ワレノカラダガアアァァァァァァァァァ』








餓鬼椿が、悶えながら触手を四方八方に伸ばし
基地のそこかしこを壊していく





暴走しているのか 私達がいようといまいと
お構いなしだ







「うおっ 大怪獣並に見境なくなりやがった!」


「この場所は危険アル、一旦奴から離れるネ!」


さん 僕等の肩に捕まって!」









三人と私達は 餓鬼椿から離れた位置に避難する







「ったく どうするよ、あのガンモドキ
よりによって出口に陣取りやがったよ」


「そんな事より、あいつ暴れながらこっちに
近づいてきてますよ」


「こっちに来るのも時間の問題アル」









三人の呟きと餓鬼椿の叫びと破壊音が入り乱れる中







私は 兄上に必死に呼びかけた











「兄上…兄上…!」







ずっと呼びかけているけれども
閉じられたまぶたは 開かない





「兄上…!」









お願いだ…目を覚まして 兄上…!









私の祈りが通じたのか、それとも
体力がまだ残っていたのか


兄上が、目を開けた





「…?」









ようやく再会した兄上の姿を見て、涙が零れた











生きていてくれてよかった…









でも、全部 私のせいだ







私が未熟だったばっかりに









あの時の罪を押し付けただけじゃなく





兄上をこんな、危険な目に合わせてしまった












「兄上…ゴメンなさい、私の…私のせいで…」







止め処なく溢れる涙に構わず、私は謝りつづけた





許してもらえないのが分かっていても
私は謝るしかなかった











頬に触れた手の感触に 私ははっと目を開ける







「いいんだよ……」







兄上が弱々しく微笑んで ささやく





「君は…何も悪く…な…」





言葉半ばに 兄上が目を閉じる


そのまま、兄上の身体から力が抜けて…





「兄上…?兄上っ 嫌だ、死んじゃやだ…!!





私は泣きながら 兄上の手を強く握る







このままじゃ 兄上が…!











肩を叩く感触に、私は顔を上げる







待っていてください さん」


「今 あのデカブツ片付けるネ





新八殿と神楽殿がそう言って、私達を守るように
餓鬼椿の前に立ちはだかった







そうだ、私は兄上だけでなく この三人にも
迷惑をかけてしまっているのだ


私も 戦わなくては






「私も…私も 戦う…」





立ち上がろうとしたけれども、力が入らない


こんな肝心な時に…!





「その怪我じゃ無理ですよ」


「足でまといになるだけアル じっとしてるネ」





「心配すんな、お前の兄貴は絶対ぇ助ける」







いつの間にか一番先頭に立った銀時殿が


振り返らず 力強くそう言った







『エエエエエエエサササササエサ!!』





狂ったように叫び、暴れまわる餓鬼椿に







「餓鬼椿だかガンモドキだかしらねーがよぉ
オレ達の道を塞ぐんじゃねぇデカブツがあぁぁぁ!!」








三人は 武器を手に立ち向かっていった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:長く続いたこの捏造話もあとニ〜三話程?で
ようやく終わりを迎えられそうです


銀時:つかよ、結局真撰組の奴等 ほぼ
参加してね―じゃねーか


神楽:ヅラに至っては いたずらに事態
引っ掻き回しただけネ


狐狗狸:シャーラップ!後少しでこの話が円満に
終わるんだからいちいち水差さないでっ!!


新八:てゆうか 本誌じゃもう竜宮城の話やってるのに
ここだけ時間の流れ遅くないですか?


狐狗狸:そこ的確にツッコまない!




次回 餓鬼椿篇クライマックス!(名前ついたー!?)


様 読んでいただきありがとうございました!