第1話 [拠所→狂騒1]










―かつて


ある一人の大物によって、生み出された組織があった





一定年齢の"子供"を適切に保護し 育成し守護する事に全力を注ぐ
"眼鏡がトレードマーク"の組織は


上記の遂行のため時に有望な人材をスカウトし

また子供に害のある存在を秘密裏に排除し続けている





今回もその例に漏れる事無く





引き取った少女…三絵の願いを叶えるべく


彼女を害し、その姉を監禁している富穣という男の
素性と足取りが総力をかけて調べ上げられ


その情報が 三津子へともたらされた







「山田先生 情報ありがとうございます」





微笑む山田へ丁寧にお辞儀をして

三津子は傍らに佇んでいる三絵を視線で示す





「これから決着をつけに行きますので
しばらくの間この子を頼めませんでしょうか?」





それは子供を護るという理念を第一に考える
組織の人間ならば、妥当かつ確実に選ばれる提案


従って留まれば彼女の安全は保障される





けれど三絵はその場を動かず、三津子の服の袖をつかむ





「私も行く」





視線を合わせる形で少し頭を下げ 困った顔のまま三津子は言う





「これから行く場所はたいへん危険と思われますよ?」


「それでも行く ううん、行かなくちゃダメなの





覚悟を決めた三絵の表情をじっと見つめて


山田は静かに口を開いた





「本来なら 私としても行くのは反対なのですが
彼女はなにか感じる所があるのでしょうか」





軽く眼鏡を指先で直し 微笑みを崩さず山田は続ける


「以前 アナタは 彼女は絶対に守ると言っていた気がしますが
その辺はどうなのでしょうか?」


「それを言われると中々厳しいのですが…」





少女の安全を護りたいが、少女の意思も尊重したい





相反する思考に挟まれ しばし悩んだ三津子は


じっと答えを待つ三絵の視線を受け止め、問いかける





「三絵ちゃん おねぇさんを見つけても
安全を確認できるまで飛び出さないと誓えますか?」



「うん、大丈夫!」







気合十分、と言わんばかりの返事を受け取り





「…仕方がありませんね」





無理に預けても抜け出すかもしれず

その方が危険だと判断した三津子は覚悟を決めた





「山田先生、そういったわけですので
もしもの時の対応の準備だけお願いします





その言葉を聞いた三絵は一瞬で
花が咲いたような明るい笑みを浮かべていたが


自らやるべき事を思い出してか すぐに表情を引き締める





「分かりました、何かあった時の準備はしておきますが
必ず三人で帰ってきてくださいね

いや 共に行く人も合わせると五人ですか」





信頼を言葉に乗せて伝え


山田は、自らが成すべき事を行うべく
その場から立ち去って行った







「おねぇちゃん、ありがとう」





自身を見上げる三絵の言葉や表情からは
内側から静かに燃え続けるやる気が見て取れて





仕方がないなと思いながらも


敢えて隠さず表へ現し、三津子は優しい手つきで
二つ結びにした茶色い頭を撫でる





「えへへ……」





たまらずに顔を緩ませた三絵に釣られて

笑みを浮かべながら、三津子は改めて心に誓う





この笑顔を無事に護ること


その隣に、彼女の姉が並んで笑う光景を実現する為に
出来る限りの事を行うことを








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―かつて


"双剣"と呼ばれた魔女の血を引いた子孫であるが故

"イルミナティ"と呼ばれる魔術組織に属していた男に生み出され
腹違いの姉に虐げられた"試作品"
がいた


からくも逃げ出した少年は、自身を拾い改造し直し
"人"と見てくれた組織へ青春を捧げ


一つの事件での出会いを期に 組織を抜けて日本へ渡った





…当時と違い 類似の事件での被害は軽く

出会った妻は三十年も前に鬼籍へと入っていたが


妻の面影を持つ少女を放って置く事など 彼には出来ない相談だった







年季の入った裏戸から僅かな物音さえもさせずに
するりと学が店内へ入り込んでいたが





「センセイ、ノックぐらいしてくれよ」





長年の付き合いから気配を察していたシズルは


動じることなくボロになった調理器具片手にそう言った





「ったく、ホント損な性格してんなぁ」


「かもね でも迷うつもりはないよ」





三津子からの連絡を受け、今の今まで彼が行っていたのは


戻れぬ決意をも秘めた"身辺整理"である





家族(ファミリア)を大事にする
今も昔も僕はそうやって生きてきたつもりだ」


家族、ね 別に血が繋がってるわけでも
結婚したわけでもねぇだろうに」


変わった物を見るような視線を受けて

シズルは少し得意げにニヤリと笑って見せた





「血が繋がってるだけが家族じゃない
イタリアの男ってのはそーいうもんなんだよ」


「はぁ、そうかい…まあ、俺にはわからんが
アンタには大事なことなんだろ?」


「アンタにも分かる日が来るさ、きっと」





真面目な顔をした学へそう返しながらも


一転して、ちょっとおどけたような顔でシズルが続ける


「その前に 溜まってるツケは払ってもらわないと
ロクに調理器具も買えないからな

だから戻ってきたら覚悟しとけよ?学センセイ





…けれども腐れ縁とも言える付き合いの学には


真っ直ぐに返された鳶色の瞳が 真剣なままだと気づいていた





「だったら、俺は
アンタが帰ってこれないように祈っておくか」


だからこそ同じようなおどけた口調で憎まれ口を叩き


調理器具を置いて出ていくシズルへ背を向けていた







見慣れたツナギ姿が 店の裏戸の敷居を越える寸前





「……帰って来いよ
アンタがいなきゃ、俺がつまらん」






静かにこぼれた呟きを、彼はしっかりと拾う





「分かってるさ…他ならぬ家族(ファミリア)の頼みだ」





背を向けたままで ひらひらと手を振る学の姿に
勇気づけられながらも


"家族"の為に全力で戦う覚悟を胸に シズルは駆けだす








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―かつて


忌子として一族に迫害され、集落を追放された
一体の大きく強力な妖怪
がいた


大怪我で死にかけた彼は その身を幼き少女に助けられ

少女と二人で旅をする日々に心を救われた





…少女の死後、雨の日に出会い連れ帰った
"生き写しの 心を閉ざしていた少女"

一井江 守に認められ出来た居場所も


成り行きながらも助けた三絵との約束も 全て護るため


三津子からの連絡を受けた彼は その前日


少女と共に一井江屋敷へと泊まり込み…夜が更けるのを待った







「凪の奴は寝たか…
たく、気持ちよさそうに寝てやがらぁ」





隣ですぅすぅと安らかな寝息を立てる凪の頭を
普段よりも数段加減をして撫でながら、雨野は言う





悪いな凪 勝手だけど今からちょっとやんなくちゃいけないことがある

…まぁ軽くこなしてくるからよ、安心して待ってな」





その呟きが聞こえてか いまだ夢の中の凪は返事を返す





「海斗―…置いてくな―……」


「ああ、置いてかねえさ」





名残惜しそうに寝顔を見つめた雨野が部屋から出て
屋敷を後にしようとして







「いくのか?」


「おやっさん」





廊下の奥で佇む守に呼び止められた


全てを理解している様子に 隠し事は無意味だと悟って
雨野は守の方へと数歩歩み寄る





「まぁな 凪を置いてくのはしのびねぇけどよ
どうにも俺が必要みたいなんでな」


「俺達を頼ってもいいんだぞ」


出し抜けに吐き出されたその台詞は
いつもとは打って変わって穏やかで





「お前の為ってなら、他の奴等も文句は言わねぇ」





端的な言葉と佇まいから滲む"一家の長"としての姿に
改めて頼もしさを感じながらも





「…今回の敵は割とやばい奴かもしれねぇんだ

それこそ俺が本当の意味で"化け物"にならなきゃ
倒せねえぐらいには、だからよ」


大事だからこそ、雨野は後の事だけを守へ任せる





「もしそうなっちまった時は凪のこと 頼んでもいいか?」







あくまで自分だけで決着を付けに行く覚悟を理解しながらも





「断りてぇ所だが、それでお前が思いっきりやれるって
言うなら引き受けてやる」





真剣な面持ちで告げ 一拍置いた守は


口の端をニヤッと吊り上げて続ける





「だが、俺らが親代わりじゃ碌でなしになっちまう」


だから帰って来いよ、と 見慣れた大親分の顔で応えられ


無駄に張りつめていた気を削がれて





「これでも大分人間らしくなったと思ってたんだがなぁ
やっぱりおやっさんには敵わねぇな





やや大きいため息と共に雨野は頭を掻いて


困ったように笑い返した





わかったよ約束する 絶対帰って来るってな
だから、今日は馳走の準備でもしてくれや」





それだけを言って今度こそ 雨野は屋敷を後にする







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辺りがすっかりと宵闇に包まれた、人気のない県境の土地


そこに忘れ去られたように立つ巨大な建物の
錆びれたプレートには


"富穣第一研究所"の文字が刻まれている





長らく誰も訪れる事のなかったその研究所の入口を見上げ

三絵は、少し震えているようだった





「三絵ちゃんは 私のそばにいてくださいね」


「うん」





そっと声をかけた三津子へ小さく頷いた彼女の耳に
徐々に大きくなる羽ばたきが聞こえ





「白熊のおじちゃん!」





呼び声と羽ばたきに反応して三津子も上空を仰ぎ見れば


変化を応用し、生やした翼で空を駆けた海斗が
二人を見つけて軟着陸する





ここに富穣の奴がいるんだな?
へへ、やっとぶん殴れるぜ」





翼をしまい 彼が自らの両拳を打ち付けて気合を見せた所で


一足遅れて、ツナギ姿のシズルがやってくる





「遅いぜシズルさん、何やってたんだよ」


「いやいやこれでも急いだ方だよ?
この歳になってツナギでトレッキングはキツイって」


「作業服よりも動きやすい服は他にあったのでは?」


「いやまあ、どうせ汚れたりするからツナギでいいのさ」


買い替えも安上がりだから、という経済的理由を
飲み込みつつ彼は優しげに三絵へと語りかける





「さて、君のもう一人の家族を助けに行こうか?」


「ツナギのおじちゃん ありがとう」


どういたしまして
将来いいメイドさんになれる笑顔をありがとう」





お互い笑顔で返すそのやり取りに、ついつい雨野が口を挟む





「その呼び名でいいのかアンタ」


「分かりやすくていいじゃないか、僕らの目的が
富穣ブチ倒して三絵ちゃんのお姉さんを助けるってのと同じで」


「…別に俺は三絵ちゃんの姉さんのことはそこまで
気にかけちゃいないんだが」





三人の視線が集中していくのと反比例して

言い返された雨野の視線は 徐々にずれていく





「前にも言ったが富穣って奴は個人的に気に入らないんでな
そのついでだ ついで






ぶっきらぼうな、人によっては気分を害する事も
考えられる態度を取っても





「白熊のおじちゃん よろしくお願いします」





少女が誠意をもってお辞儀を返すので


ますますもって雨野は据わりの悪さを感じてしまう





「あんなこと言ってますけど
ちゃんとお姉ちゃんのこと心配してるんですよ」


だからついでだっつの!それに、子供にまで手をかける奴なら
もしかしたら凪にまで被害が及ぶかも知れないからな
それなら、根元から断つのが一番だと思っただけだ」


「素直じゃないな海斗君は」





ことさらニヤニヤと口元を緩ませるシズルと三津子へ

顔面の熱さと共に浮足立つようなムカつきを覚える
雨野の頭の片隅に


"もっと素直にならないとダメよ"


昔、自身を助けた少女からの助言が浮かんで消える







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彼ら四人の到着と侵入を、富穣は既に察知していた





「やはり乗り込んで来たか…まあいい、出向く手間が省けた」





白衣を身にまとう科学者の手には一冊の本





「随分と前倒しになってしまったが
こちらの計画に支障はない、欠陥品邪魔者
この機に全てまとめて片付けてしまえばいいだけだ」





側にあるのは、床に大きく描かれた魔法陣と
素人目には意味不明な品物…呪具の数々





そして陣の中央には

天井まで届くほどの木の根に縛られた一人の少女


左側へサイドテールにするほどの長髪は茶色であり


固くまぶたを閉ざしたその顔は…三絵に似ていた









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研究所の内部は、その大きさに相応しく
いくつかの区画に分かれている


事前の調査によって見取り図を入手していた彼らは


富穣がいるであろう場所を 内部を探索する事で
割り出す方向で行動指針を固めた





「前の時みたいな木の人形は近くにいないみたいだけど
何があっても油断しないようにしてくれ

特に、富穣とかいう男は魔術にも長けているようだし」


「おう…てかヤケにきっぱり断言するな」


「アレは魔力で動いてるみたいだったからね」





二人の後方で、三絵を挟んで殿を務める三津子が
赤渕メガネの奥にある瞳を少し見開く





「分かるんですか?」


「一応は、ただ昔ほどの精度は無いから
海斗君の鼻や三津子さんの勘の方が鋭いと思うよ」


「まあアレだ 富穣がおかしなマネしてきても
何とかなるって事だな」







人気もなく薄暗い研究所の廊下を
警戒しながら歩いて、四人はまず資料室へと入った





名前に違わず 部屋の八割を埋めるようにスチール製の書棚が
上から下までを資料用の書架やファイルを
ぎっしりと詰め込んで所狭しと並んでいる


うっすらと埃が積もり、天井の隅にクモの巣があるのが見て取れる





「内部に私達以外はいないみたいですね」


「とりあえず、おかしなモンが無いか調べるか
棚に並んでる資料はひとまず無視だな」





人が隠れていた、もしくは移動した痕跡などが無いかを探るべく


三津子が三絵を連れる形で
三人は手分けして室内をざっくりと見て回る







「一通り見たけど、特に怪しいモノは見当たらないかな」


「俺も似たようなモンだな」





少し離れた位置からの雨野の声を聞き、後は三津子の方に
何も無ければ空振りかと思いつつ


近づいたシズルを 少し手前にいた三絵が呼び止める





「ねぇ、ツナギのおじちゃん
あそこのカベ なんだかちょっと変に見えるの」


「え?どれどれ?」





少女が指差したのはすぐ側の壁際
構造上、支柱があるのか少し大きく張り出した部分で


あまり気にも留めていなかった箇所だったのだが


近づいて よくよく調べたシズルは

壁面の一部分が巧妙に擬態されている事に気づいた





「あー…確かにコレ、他の壁と少し違うかも
ひょっとしたら仕掛け扉になってるのかな?」


マジか じゃあ近くに開ける仕掛けでもあんのか」


「言われなかったら見落としてたな、ありがとう三絵ちゃん」


「エラいですよ」





皆の役に立て、更に三津子から頭を撫でてもらえたので
三絵はとてもうれしそうに頬を緩ませた





程なく仕掛けを見つけて開いた壁の向こうには
重要書類を護る為の金庫が鎮座していたが


変化した雨野の怪力の前では いともたやすく中身を晒し


保管されていた一つの資料は、三人へと開示された







[赤来家"赤来"の血を引く「葉子」を母
一般人の「健吾」を父としている

恋愛結婚であり婿入りはしていないが"赤来"の苗字を名乗る


実子は長女の真子(まこ)と次女の紗枝(さえ)の二人


長女は成績優秀であり能力値が高く、次女は
長女に能力値では劣るもののコミュニケーション能力が高い]





資料は赤来家の四人についての事細かな詳細だけでなく


紗枝についての研究結果も まとめられていた





[思考実験の一環として会話を行った所、長女に対して
コンプレックスを持っている模様


特に成績の話で優劣を定められる事に強い抵抗が…]







無論その研究結果を目の当たりにした三人は

嫌悪感と富穣へ対する敵意を一層募らせる





「悪趣味極まりねえな 燃やすか


「気持ちは分かるけど時間ないから後にしよう」


「でしたら私が責任を持って処理しておきますので
お預かりしておきますね」





内容を一切三絵に見せる事なく 資料は三津子の預かりとなった








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あとがき(解説やら雑談やら)


狐狗狸:キャンペーン最終話の1回目です


成長でメイドさん さんは「長髪」の日常と「幼子」の拠所
そして「マルチタスク」

雨野さんは「翼」「フェニックス」

シズルは「裏の顔:魔術」「ガーディアン」取りました


後、せっかくの最終話なので捏造部分マシマシかつ
順番も辻褄が合うように入れ替えて進めてます 申し訳


今回も光り輝くメイドさんの出目が初手から安定


他のTRPGで語ったり、三絵ちゃんからオッさん二人の
呼び名を相談したり 雨野さんがツンデレになったり
初っ端の死亡フラグに加え 中々に波乱のスタートと相成りました


山田先生ついてきてたら 三絵ちゃんと真子ちゃんだけは
助かるとの事…組織ヤバい




富穣を探して研究所内部を探索!奴の狙いは…


読んでいただきありがとうございました!