その日は、朝から彼の周囲に異変があった





「おはよーみんな〜…アレ?





元気よく挨拶をしたにも関わらず


同じように返す隊士がおらず、真撰組局長
近藤勲は眉根を寄せる







「今日も気を引き締めて頑張ろう!」





気を取り直し 再び元気よく声をかけるも


返って来たのは、普段よりも
テンション低めな返事のみ





「…あれ?何か元気ないぞお前ら
悪いモンでも食ったか?」





問いかけに しかし返答は全く無く





それが彼にとっての疑問の始まりだった











「うっとおしくても結局頼りにする
お父さんってのはそーいうモンだ」












始めは己に何か異変があったのかと思い





「なぁ、オレの顔に何かついてる?」





何人かの隊員に尋ねてみるも







「いえ…いつもの局長の顔です、失礼」





あっさり即答され そのままそそくさと
自分の前から離れられた







洗面所に駆け込んで散々調べても





「いつものナイスガイなオレしか
映ってないし 異常も無さそうだよなぁ…」





鏡の中の自分に向かって 近藤は唸りを上げる









さり気なく聞き出そうと思い、隙を見て
隊員に声をかけてみるも





「見回りご苦労さん」


「あ、ありがとうございます…」





同じようにいそいそと自分から離れていく







仕事に追われる忙しさとはまた違う
微妙な素っ気なさを感じ







"あれ?オレって嫌われてる?"





脳裏に浮かんだその言葉をきっかけとして


色々昨日の事やその前の記憶について遡り


そこから周囲の雰囲気の原因を
滅多に使わない頭をムリヤリ駆使して推理するも





数秒持たずに内部で思考が破裂して







「ねぇトシぃぃぃ!オレ昨日マズい事とか
やらかしちゃったっけ!?」






たまたま通りかかった土方へたまらず問いかける





うぉ!?何だよイキナリ…」


「いやだって朝から皆オレにちょっと
冷たい感じだし、何かやらかしたかなーって!」


「アンタが不祥事やらかすのはいつもの事だろ」


「ちょ!トシもいつも以上に冷たくね!?」





涙目になる上司に、ため息を一つつき







「…安心しろ近藤さん 今日が終われば
またいつも通りの屯所になっから」





宥めるように土方はそれだけ告げて立ち去った







しかしその一言によって
益々混乱と不安の度合いが深まったらしく







「総悟〜今日なんかあったっけ!?
大事な式典とか、そーいうスペシャルな用事!」






次に近藤は 縁側で寝ていた沖田に訊ねる







赤いアイマスクを跳ね上げつつ
気だるそうな声音で彼は答えた





「あー…ひょっとして気付いてねぇんで?」


やっぱ何かあったの!?あ゛ぁぁぁマズイよ
当日までそんな用件忘れてたなんて
オレとっつぁんに消されるかも!どうしよう総悟!」


「落ち着いてくだせぇ、そんな大したイベントでも
ありやせんし とっつぁんも忘れてまさぁ」


「え゛ぇぇぇぇぇそれどういう事?!
全然わかんないんだけどせめてヒントぉぉぉ!!」






うろたえる近藤を面白そうに眺めながら





「まぁその内嫌でも分かりまさぁ
楽しみにしていてくだせぇ、近藤さん」





クツクツと笑い、沖田もどこかへ引っ込んだ







いよいよパニックが高まって





「おぉぉーい山崎ぃぃ〜!」







視界に入ったミントン練習中の山崎へ
事情を問い詰めようと接近する





が、近藤の姿を認めた瞬間


目を大きく見開いたかと思うと
山崎はきびすを返して遥か彼方へ駆けて行く





「ちょっと聞きたい事が…って何で
逃げてくの!?早っ!地味に早っ!!









何一つ答えを見つけられぬまま


仕方なく町内を巡回する近藤だが
頭と心のモヤは晴れない







「何だってんだよ今日は…」





辛気臭いため息を吐いた所で







あぶないアルよぉぉ〜!





ドップラー効果をかもしつつ甲高い声と
鈍重な足音が迫り







「えっ何…ぎゃあぁぁぁぁぁ!!





振り返った近藤は、神楽を乗っけた定春に
跳ね飛ばされて路地に転がった





「だからあぶない言ったネ
大丈夫アルか〜ゴリラ〜」


大丈夫じゃないから!立派に人身事故だから!
裁判沙汰になるよ人によって!」


「甘いネ、定春は犬だから
そんなの適用されないんですぅ〜」


巨大犬で人にぶつかるのも人身事故ですぅ!
お陰でデッケェコブになったよコレ!!」


身を起こし指差す近藤の頭には
確かに見事なコブが一つ





定春から降りぬままそれを睥睨しつつ
神楽は口を開く





「元はと言えばそっちの不注意ネ…
でも今日はこの辺でカンベンしといてやるアル」


唐突に上から目線!?
普通許す立場はオレの方だよね!?」


「ついでに慰謝料代わりにありがたくコレを
受けとっとけぃ」


「人の話聞いてる!?ってか、え…
ねぇ 何この酢昆布一枚


「釣りはいらねーぜ、そんじゃな〜」





止める間も答えもなく
定春は進行方向を走っていく







「…何だってんだ一体」





コブを擦りながら 近藤は早速
もらった酢昆布を噛み締めていた









先程のやり取りで幾分軽くなった心持ちで
志村家の軒下に潜んでいると







「ああ、やっぱりいたよ近藤さん」





屈んで軒下を覗き込みつつこちらを伺う
新八と目が合ったので、挨拶をする





「おぉ新八君お邪魔してます…あ
お妙さんには黙っててくれよ」


「…今日も姉上の機嫌が悪いみたいですから
止めといた方がいいですよ?」


「ご忠告はありがたいが、そうもいかん
オレはお妙さんを何時いかなる時も
守る騎士でありたいんだ」





"騎士は床下に潜らねーよ"
ツッコミたいのを堪え


新八は懐から取り出したものを近藤へ差し出す





「じゃあ止めませんけど…せめてこれ
餞別に持っていってください」







言って渡されたのは、湿布薬と絆創膏







「え、あ、ありがとう新八君」





思わぬ施しを戸惑いながらも受け取り
近藤はしっかりと己の懐にしまい直す









…それからものの五分もしない内に
守るべき相手に見つかって瞬殺され





渡された餞別を使いつつ


力尽きて公園のベンチに身をもたせかける近藤へ







「オィオィ、何サボってんだよ税金ゴリラ」


「いや混ざると意味わかんないからその悪口」





ジャンプ片手に死んだ目をした銀時が話しかけてきた





「今日は妙にウザサが少ねぇじゃねぇか
去勢でもされたか?ついに」


ついにって何だよ!…いや、今日は
屯所の皆が微妙に冷たいってか素っ気ないってか」


「あーそれ嫌われたんじゃね?
部下達に見放されたんだよ、ダメ上司として」


「やっぱそうなのかな!?何が悪かったんだろ
ゴリラっぽいのがいけないのかな…」


「そこはしょうがねぇだろ
アンタがゴリラなのは生まれつきなんだし」





銀時に反論しようとして







不意に気付き 近藤は声を上げた





「そういや今日、オレの誕生日だったっけ…
すっかり忘れてた」


「あ、そーなんだ ふーん
そいつぁまぁ…おめでとさん」


「何それ お祝いの言葉にしては
やる気が全然ないんだけど」


「バカ言え、三十路のゴリラを祝う気なんか
こっちにゃ更々ねーんだっつの」







端的に吐き捨てる相手に苦笑を漏らし





「でも祝ってくれてありがとな、万事屋」





ベンチから立ち上がり 近藤は歩き出す







「…そんなんで満足してもらえんなら
別にいいんだけどよ」





彼の後姿に呟く銀時は


うっすらと笑みを浮かべていた











「いやー忙しいからすっかり忘れてたなぁ
にしてもオレももう三十路かぁ…」





しみじみと言いつつ屯所へ戻ると







「あっいたいた!
どこ言ってたんですか局長!!」






先程は何も言わずに逃げたはずの山崎が


逆に近藤へと近づき、彼の腕を取って
スタスタと引っ張っていく





えっ、ちょ何ザキ何慌ててるの!?
痛たたたたた引っ張るなって!!」


「少し前から皆もう待ってたんすよ!
さ 早く早く!!」








くるりと後ろに回って
自分の背を押す山崎に導かれ





ある部屋の前にやってきた近藤が


恐る恐る襖を開けると…







『局長!誕生日おめでと〜!!』







沢山の唱和と派手な破裂音が
部屋の中から飛び出してきた








いつの間にやらデコレートされた室内に


手に手にクラッカーの残骸を持った
隊士達が ズラリと中に並んでいる







ポカンとしたままの近藤へ





後ろにいた山崎が笑いかける







「驚きました?
実はこれ沖田隊長からのアイディアなんですよ」





言葉を引き継ぐのはパーティー帽を被った沖田





「そろそろ三十路だし、一度くれぇは
皆で盛大に祝ってやろうと思いやしてね」


「オレに面倒な作業ほとんど押し付けといて
偉そうにしてんじゃねぇよ」


「局長にバレないように色々大変だったんすよ」







優しい微笑みに取り囲まれて





「お、おばえらぁぁぁ…!」





ようやく全ての事態を理解した近藤の目から
ボロボロと涙が零れ落ちた







「あじがどう゛!オレはお前らのような
いい仲間をたくさん持って幸せだぁぁ!!」



「ったく大げさだな…ほら涙拭けよ
今日はアンタが主役なんだから」





手渡された土方からのハンカチに
顔を思い切り擦りつけ


ついでに勢いよく鼻までかんで







「おう、ありがとうトシ 総悟 皆!」





普段通りの晴れやかな笑みを浮かべて
近藤は快活にそう言った







「特注でケーキも頼んどきやしたから
一番先に取ってくだせぇ」


「お〜なんだか悪いなぁ〜、どれどれ?」





言われて沖田に連れられた先には


美味しそうに作られた大き目のケーキが





おほぉ〜うまそう!じゃ早速…」







笑みを浮かべて側にあったケーキナイフで
切り分けるべく 近藤がケーキへ入刀





した瞬間、鈍い音がした







主役も含めほぼ全員…何が起きたか
さっぱり分からなかっただろう







数秒遅れて土方が ケーキが唐突に破裂


吹き飛んだ破片が近藤さんの顔面と
周囲の隊士達や自分の顔面に直撃したと理解する





「おー、思ったより上手くいったもんでぃ」


「総悟…テんメェェェぇぇぇ!!








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ちょーど更新が誕生日だし、近藤さんが
総受けで何か書けたらなーと手を動かしたら


土方:こんなショボイ話が出来上がったと


沖田:どの系統でもテメェのダメッぷり
絶好調だねぃ(呆)


狐狗狸:言うなよぉ…完成させた私も
「いつも以上に甘くねーなコレ」って思ったもん


山崎:てか万事屋の旦那方も、ひょっとして
局長の誕生日知ってたんじゃ…


神楽:ファンブック読めば一発アル!


新八:メタな発言は控えようよ…


銀時:しっかし皆好きだね誕生日ネタ、オレら
サ○エさん方式で年取らねぇのに


新八:ちょ!それもなるべく言わない方向でぇぇ!


近藤:あのー…これ、オレが主役なんだよね?




何気に皆に愛されるお父さんポジションで
いてください、ハッピーバースディ近藤さん!


(めでたい感じでごまかしてスイマセンでした!)


読者様 読んでいただきありがとうございました!