券売機の前へ赴けば、うだつのあがらねぇ
グラサンが赤ペン片手に競馬新聞をにらめっこ


いるのは分かっちゃいたから、特に驚きゃしない


片手を上げるだけの挨拶にあっちも視線を
軽く上げるだけで答えて


オレはそのまま歩み寄って 出馬表を覗きこむ





「…何でオレの見てくんの?」


「新聞買う金も惜しいんだよ」


「先行投資なんだからソレぐらいケチんなよ」


「アンタが言ってもなぁ、せめて投資した分
元とってから言えよ長谷川さん」





いつものように柱の側で背中丸めて


集まり始めた客と同じように、オレらは
倍率と名前と数字の羅列を真剣に見比べる







「ちょっ…クセーんだけど、寄り過ぎ」


「仕方ねぇだろしばらく風呂なんて
ご無沙汰してんだから、覗いてんのは
そっちなんだし文句言うなよ」


「マダオのオは汚物のオかよ、えんがちょ」


「アンタ新聞見るかオレをけなすか
どっちかにしろよ!」



「うるせぇなもう、じゃ馬券買ってくるわ」











「ウマが合うのも思し召し」











手堅く一番人気と二番人気馬連でいってみるか





…いや、そう思わせといて大番狂わせが
あるかも知れねーしなぁ





あ゛ーでもオレはアイツを信じる!


オレが信じるアイツを信じる!アイツの眼差しに
曇りは一点もない!その心意気に賭け



おーい銀さん!オレの分も買っといてくれよ」


「あ゛ん!?話しかけてくんじゃねーよ
テメェの負け運うつったらどーすんだマダオ!」



「人を病原菌みたいに言うんじゃねーよ!
アンタだってろくすっぽ当たらねぇだろ」






…今にして思えば


ここで余計なケチがついちまったんだ
きっとそうに違いない







「ウソだろ…そこで差されるかよ一番人気…!





まわりのオッサンの歓喜と落胆の叫びに
オレのつぶやきが紛れてゆく、その隣で





「今度こそ…今度こそ、来ると思ったのに…!」


頭を抱えた長谷川さんのうめき声が聞こえた





チキショーこれいつかきた道だよ


つーかテメェのせいでここまでスッちまったよ

どうしてくれんだ、と顔をひねりゃ


アイツは早くも立ち直って





「いや、まだチャンスはある!最終で取り戻せりゃ
最後に笑うのはオレたちだ!そうだろ銀さん!


持ち前の根性ムダに発揮して、シワだらけの
新聞握りしめてオレに言うんだ





分かりきってる姿だが その言葉を聞く度

オレの中からさっきまでの怒りが吹っ飛んじまう





「だな、今度こそデカいの当てようぜ長谷川さん!





そうしてオッズの高い大穴を狙って


なけなしの金を、全部つぎ込んでパドックを睨む







…が、ここでデカいのが当たるのはジャンプ漫画の
主人公ぐらいってモンだ





「ちっくしょー…あそこで転倒とかアリかよ!


だよなぁ!ジャスタウェイが来ればオレら
負け分取り返せてたのになー」





結局、最終で長谷川さんは所持金全額すっ飛んで


オレは当たりはしたもののトリガミだから
全体で見りゃ儲けどころかマイナス







肩を落とし、他のオッサン達のように
ハズレ馬券の散った競馬場を出て行く





「こうなりゃ次回のレースにこうご期待!だ」


「そうとも、勝負はこれからじゃねぇか
次こそ高配当当ててやんぜ…って、ん?





急に立ち止まったから、どうしたのかと
振り返ってグラサンを見やれば


トシに似合わねぇブリっ子しながらヤツは言った





「銀さんトコに泊めて「じゃまた明日な」





速攻で断って脇目もふらずに歩き出すが





早ぇよ決断早すぎるよ!せめて一晩だけで
いいからぁ!てゆうか話も少し聞いて!」


「イヤです」


「いきなり他人行儀!?さっきまで一緒に
馬券買ってスッてたよしみじゃねーかよぉ!」



「一緒じゃねーよオレ最終当ててただろ」


トリガミならどっこいどっこいじゃん!
連日の風雨が傷んだダンボール通して肌へ
ダイレクトに寒さが刺さるんだよぉぉぉ!!」






歩調を早めても早めても、マダオはムダな
ガッツ発揮してすがりついてくる





「つれない事言うなよぉぉ、一度は
責任取ってくれるって言ってくれたじゃないか」


「止めろあん時の事は思い出したくねぇ!」


てゆうかテメーを万事屋連れて帰ったら、六股の
アレを神楽どもに蒸し返されんだろーが!





「それともアレか?こないだこっそり冷蔵庫の
プリン勝手に食っちゃったの根に持ってる?」


犯人テメェかぁぁぁ!てゆうかお前ら
揃いも揃って不法侵入しすぎだよね!?」


「いやなんつーか勝手知ったるっつーかさ
我が家のように入りやすいし妙に落ち着くし」


「こっちとしちゃどんな時も、不法侵入で
心が休まるヒマがねーんだけど!!」






ストーカーだけじゃなくマダオ将軍
連れこまれる我が家とかイヤすぎるわ!


せめてマダオだけは食い止めてみせる





「無理に万事屋泊まったって隙間風ヒデーし
定春犬クセーし神楽いるしいい事ねーぞ?」


「でも雨風しのげりゃかなり違うじゃん」


「あに言ってんだ、新聞紙があるじゃねぇか」


「いや確かに恩恵には預かってるけど
アレだけじゃ心もとないし、てか湿ってるし」


「知らねぇの長谷川さん、湿らせた新聞紙は
ナイフも防げんだぜ?装甲+1の効果まである
防寒具なんてそう街中に転がっちゃいねぇだろ」


それ厚手のコートでも条件に合うよね?
新聞紙で全て担わなくてもいいよね?」





マダオのくせに屁理屈だけは上手いじゃねーか





「大体ダンボールが傷んでんなら、新しいのに
取替えりゃ済むだろ?お仲間に余ったのを
分けてもらってよさげなの見繕うとか」


「それが出来りゃ苦労しねーよ!アンタだって
神様の件でオレがどん底だったの知ってんだろ!」


あっ…うんまあ、生きてりゃなんとかなるさ」


「その察したような言い方止めろよぉぉ!
てゆか励ましたと見せかけて帰ろうとすんな!」






だからひっつくな!着物伸びるっつーの!





「だぁぁ離れろ!あらぬ誤解を受けんのは
もうウンザリなんだよ!ほら着いたぞ居住区!」



そんな殺生な!お願いだよ銀さん後生だから」


涙声になってる長谷川さんを引き剥がそうとして


かなり強い風が、折れた木の枝やら木の葉やら
ボロボロのダンボールやらを吹き飛ばす


…え?ボロボロのダンボール?





すかさずオレから手を放した長谷川さんが


公園の茂みへと駆け寄り、ヒザからくずおれる





「お…オレの家が…家具が、根こそぎ…」





このタイミングで強制撤去とか、コレ確実に
お泊りルートだよね!?何してくれんの神様!!


思わず上空にメンチを切り、逃げる準備をする





けど…長谷川さんは動こうとしなかった


住処があった場所へ目を向けたまま、ハラハラと
泣きながらそこに取り残されている





"次のレース"に参加するつもりがあったみてぇだし

ヘソクリでも隠していやがったのかもしれない





そう思い至ったのは 万事屋へ戻った後だった







…明日になりゃ立ち直ってんだろ







と、思ってたが あの様子じゃマダオと言えど
無理そうだ、てゆうかヤバそうだ





どっかから拾ってきたダンボール芝に敷いて


そこに体育座りして、虚ろに空を眺めてやがる





あのままじゃグラサンの代わりに闇を
かけかねねーな…ったく







「渡るこの世は鬼ばかり、か」


「確かに鬼ばっかりかもな…けどよぉ
まだまだ捨てたモンでもねーぜ?この世も」





驚いてる長谷川さんにダンボールを渡し


そのウチの一つを組み立てて、上にカップ酒と
ツマミをのっけて対面にかがむ





渡る世間に鬼はなし、とも言うじゃん?」


「…言われてみりゃ確かに」





ありがとな、としみじみ笑顔で言われて


次のレースにケチがつくしな、と返してやった





「じゃ、新築祝いと景気づけに飲むとしようや」


なんだよ銀さん、帰んなくていいの?
神楽ちゃん心配するんじゃねー?」


「一杯ぐらいいいじゃねぇか
せっかく手伝ってやったんだから」





…台替わりのダンボールの裏に貼ってある


ボロボロになった奥さんの書き置きと小銭が
入ってる封筒
は、酔いが覚めたら気づけよ?








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:次回のレースは、きっと公園で並んで
屈みながらラジオに向かって二人で力の限り
シャウトするでしょう(希望的観測)


銀時:要望じゃねーか!えらく久々に書いたと
思えばオレの相手、まさかの長谷川さんかよ


長谷川:いーじゃん原作でも割りと頻繁に
ツラ合わせてるし、オッサン同士仲良く


銀時:したくねーんだよ寄るなマダオ


長谷川:たわらばっ!(蹴られる)


狐狗狸:こっちでは一応CPとして話を
進めてるんですから仲良くして




構図は不器用ツンデレ×不屈のダメンズ
でもどっちもマダオだな、ってツッコミは勘弁


読者様 読んでいただきありがとうございました!