それは本当に魔が差したっつーか
ささいな、非常にささいな出来心だった
「…やっぱルデのか?コレは」
存分に海の風景を堪能して船室に戻れば
珍しくそこにルデの姿は無くて
便所にでもいってんのか、何ぞと考えつつも
やれ船の揺れが気にくわないだ憂さ晴らしに
術を試させろだとグチグチうるせぇのがいなくて
とても清々しい気分でベッドに寝転べば
隣のベッドの間に据えつけられたサイドボードに
ちょこんと置かれたガラスビンが、目に入って
次の瞬間 大波が着たのかバランスを崩し
ゴトン、と横倒しになりゴロゴロと転がって
床へと落ちかけたソレを咄嗟に受け止める
「ふぅ…」
なんぞと安堵のため息つきつつ、改めて
そのガラスビンを見てみれば
フタの部分がえらく個性的な形である以外は
ボトルメールに使えそうな容器の中で
うす青い色の液体が光を透かして揺れている
アイツの目の色にひどく似たその青は
少なくとも、コレまで見てきた怪しげかつ
とんでもねぇ薬を差し引いても
素直に―キレイだと思えた
「しかし一体、何なんだろうなこの薬は…」
あの腹黒緑頭のこったから、どーせ
マシなもんじゃないんだろうな
手にしたこのシロモノが"一滴で象でも
ぶっ殺せる猛毒"だったとしても俺は驚かねぇ
それにしてもこーいった材料類を置き去りに
しとくなんて奴らしくねぇな、と思いつつ
ふと…俺の脳裏にある考えが過ぎった
〜No'n Future A 「turn over A」〜
「薄青い色の液体が入ったガラスビンを
探してるんだけど…誰か見かけてないかな?」
船室を出てからしばらくして
ルデがあちこちで、カルロスや他の船員達とかに
そう声をかけるのを見かけた
途中でやっぱり俺にも声をかけてきたけれど
「知らねぇよ どっかに置き忘れてるだけだろ」
興味なさげに言いつつデッキのヘリに
移動して海を眺めれば
それ以上の追求はやってこなかった
「…にしてもこの銃に、こんな使い道があったなんてな」
小さく呟いて俺は ポケットから取り出した
虹色の宝珠へ視線を落とす
"これが無くなれば、ルデはどんな面をするだろう"
それは本当に魔が差したっつーか
ささいな、非常にささいな出来心だった
中身を捨てるとか、わざと床に落として
ビンを割るとかを最初に思い浮かべた
けれどソレをやると高い確率でバレる上に
奴の仕返しがシャレにならないだろうと
俺の心が警鐘を鳴らして 危うく止める
なら何処かに隠しておくか、或いは
自分で隠し持っとくっつー手も浮かんだが
コレも見つかる確率とか、中身がもれて
二次災害が起こりそうでためらいが生まれて
そんな時…アイツがカバンを出したやり取りが
唐突に記憶の中から掘り起こされて
"見えなくしちまえば…どうだろう"と
イメージして弾丸を撃ち込めば、見事に
ビンは"ある"のに"見えなく"なった
効果がいつ切れるかは知ったこっちゃないが
探し物はキチンと奴のベッドに置いておいたから
見えるようになればスグに分かるだろう
「ミョーにシンケンだったニャ〜…今日のルデメ
一体ニャんのエキタイだろニャ?」
「知らねーよ、アイツのことだから
ロクでもないモンだろ」
声をかけてきたシャムにそう返せば
"それもそうだニャ"と納得された
この調子じゃ、案外本気で困っているようだな
でも…いつもやられてる被害を思えば
俺のやった事なんざそれこそガキの
ささやかなイタズラで済まされるだろう
「お、ニャんで笑ってるんだニャ石榴」
「そらまーいつもアイツに困らされてっから
奴が走り回ってんのが面白くってな」
「のん気に構えている場合じゃ無いですよ」
咎めるような静かな口調は、背後から
やって来たシュドが放ったもの
「ルーデメラさん曰く、とても危険な毒だそうで
早い内に見つけ出さないと…と仰られてました」
「どっドク!?」
「んなもん、ほったらかしとくなよな…」
"ほらな、思った通り"と胸の内で呟きつつ
あくまで隣と調子を合わせて頭を抑える
「僕はこれから別の場所を当ってみるつもりです
お二人もソレらしきモノを見かけたら よろしくお願いします」
ペコリと一礼して、船内へ入っていく金髪を
見送れば 隣の奴もぐっと伸びをする
「しょーがニャいか オイラも探してみるニャ
石榴はどうする?」
「もう少しここにいるわ、あんま大勢で
色々やってもしょうがねーだろ?」
不思議そうに首を捻ってはいたものの
「そうか…じゃ行って来るニャ」
オレンジ色の髪と尻尾を揺らして
シャムもまたその場を離れていった
……ま、時間が経てば見つかるだろうし
モノが毒でもあの場所だったら多分平気だ
それに"見えなくなった"程度なら仮にバレても
奴からの仕返しは比較的軽くて済むハズだ
「…って、やられる前提で考える辺り
俺も終わってるよな」
はー、と深いため息をついた所で
「やはり…お前がやったのか?」
隣に現れささやいたのは、この海賊船の船長だ
「…いつ気付いたんだ?」
「いつものお前なら、困っている相手が
ルーデメラであろうと探し物に参加しているだろう」
「やっぱカルロスは鋭ぇな…奴に言うのか?」
問えば 相手は首を横に振る
「しかしいずれは感づくだろう…その後の結果も
目に見えている それに気付かんお前ではあるまい」
「まーな」
「ならば何故、そんな事をした?」
それもそうだ…どう転んでも面倒が降りかかるなら
最初からしでかさない方が明らかに得なのに
何だって俺は こんな事をしたんだろう
「…さーな、アイツが困る所を
見てみたかったのかも」
思ったことを素直に口に出してみれば
「ならお前の願いは叶っている…稀代の猛毒
"ツェルノブ"が消えて半狂乱だからな」
それだけを口にし 背の高い銀髪も俺へ背を向けた
「……まさか君にハメられるとはね、クリス君」
程なくして現れたコイツの顔に浮かぶ笑みに
滲んでるのは ふてぶてしさではなく悔しさ
なるほど、これは本気で困ってるらしいな
「負け惜しみはそれくらいにしとけよ
それで、探し物は見つかったのか?ルデ」
「見つけていたら"ツェルノブ"で悶死していると
思わない辺り、本気でお気楽だね君は」
「最初から俺に使うつもりなら 捨てるぞアレ」
言うと、途端にルデの面から笑みが消える
「…アレは研究に使ってただけさ
君に使うことを考えたつもりは、ないよ」
俺が本気で中身を捨てるのを阻止する為についたウソだ、とか
何の研究なんだ、とか言いたい事があったのに
どうしてだかルデが戸惑ってるように見えて
何も言うことが出来なくなった
…あのルデが、こんな顔をするなんて
目の前にいても信じられない
普段のアイツなら胡散臭ぇ笑みで俺を煙に巻くのに
「……仕返ししねぇって条件を飲むなら
タネ明かししてやるよ」
思わず、そう答えていた
「分かった…今回は飲もうじゃないか、その条件
その代わり次は無いと思いなよ?」
「ヘイヘイ」
何やってんだろ俺…こりゃ絶対アレが戻れば
ひどい目に合わされんな、なんて
どこか他人事のように考えながら正直に白状した
……後日ルデがビンを取り返した後
"その一件"に関しての報復や、"ツェルノブ"と
呼ばれた毒による災厄が俺に降りかかる事は無かった
――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:順序が思い切り逆なのは今更ですが
やっちゃいました オリジでBL!
石榴:やるなよ!つーかそれ裏ページを
見てる奴しか分かんねぇから絶対に!!
ルデ:しかも相変わらず時間軸がいい加減だしね
狐狗狸:はい苦情は聞きません!とりあえず
テーマは"立場逆転"です、ついでに二人は
互いを意識してるものの出来上がっては
石榴:聞いてねぇよ!(怒)
ルデ:…いい加減、海ネタで僕をいじるの止めてよ
正直不快で仕方ないんだけど(黒)
狐狗狸:いやだってカナヅチ公式設定だし
それに道具の管理はしっかりしてそうだから
うっかりを起こしそうな場所欲しかったし…(涙目)
石榴:泣くな それと話の猛毒って結局
何に使うモンだったんだよ?
ルデ:教える義務も義理も無いけど…少なくとも
本来の用途で使う予定は本気でなかったさ
唯一つの誤算は"ツェルノブ入りのビン"という
台詞を話に練りこみ損ねたことです(コラ謝)
読者様 読んでいただいてありがとうございました!