毎年こんくらいの季節ばなると、うっすら
汗ばんで来るっちゅーんが普通じゃのに


異常気象か知らんが今年は季節がぐらついちょる

…あ、火山噴火じゃったかも知れん


まぁ どっちでも変わらんか!アッハッハ!





けど温かい時ゃー温かいから
桜もすっかり葉っぱだらけになっちょって


新入生で浮き立っとった校内も


少ーしずつ落ち着きを取り戻しちょる





窓から見える校庭にゃ、野球部が新入りば
シゴいとるのが見えた


うーん元気があっていいことじゃき!


ワシも若い頃は散々慣らしたモンじゃ
まっこと懐かしいのぉ〜







っと、思い出に浸ってる場合じゃないき





「…さて、職員室はどこじゃったかの〜
誰か案内はおらんがか?」











「周囲と共に頭も何か浮かれるのが春」











この高校で働いてそれなりの年月は
経っちょるが、未だに構造がよー分からん





通りかかった金時や他の先生

あとは生徒の誰がしかに場所を聞いて


それでもロクに辿りつけんで


やっぱり通り縋った金時達に
世話になる始末





ワシは普通に歩いとるつもりなんじゃがなぁ





「全く不思議なもんぜよ…」







首を傾げつつ右へ折れた角ば曲がって


階段の手前で 左目ぇに眼帯しとる
赤シャツの生徒とかち合った





「…、坂本っ」


「おぉ〜おんしはえーと…」





名前を思い出そうとワシが記憶を
必死に探る最中にもかかわらず


相手は背中ば向けっと廊下を
勢いよく走り出すもんじゃから


慌てて駆けつつ呼び止める


「ちょ、ちょっと待つぜよ高島田!」


「誰だソイツぁ!高杉だ!!」


「おーそうじゃった、高杉じゃ!
すっかり忘れちょったアッハッハッハ!」





ワザワザ足止めて教えてくれるとは
親切な奴じゃの〜





「…普通忘れるかぁ?こんな目立つ男を」


「いやぁスマンスマン うっかりしてたき
この通り謝るから許してもらえんか?」





手を前に持ってきて頭を下げりゃ

見る見るうちに渋ーい面が和らぐ





「ちっ…」


「あぁっと、何処行くぜよ!
折角じゃから職員室まで案内してくれろー」


はぁ?誰が案内なんかするかバーカ」





何か急いじょるのぉ〜そんなに
急いでどこへ行くつもりじゃ?







と、何となーく相手の狙いが見えた





「ははぁ…おんしもしかせんでも
これからサボるつもりがか?」


「だったらどうだっつーんだ?あぁ?


「そげん肩肘張らんでもチクったりせん
ただちーと職員室の道ば教えて欲しいだけじゃ」


な?と告げつつニカっと自前の笑みを見せる


大抵はコレで事がよか方へ流れると
経験でわかっちょるから





…お、薄緑の鋭い片目がすーっと細まったき


おまけに向こうの世界を匂わせる
不敵な笑いもセットでついて


中々どうして堂に入った姿じゃ、と感心





今日のオレを見逃す、って誓うなら
手前まで連れてってやってもいいぜ?」


「おぉ〜!何じゃそんなんでええんか!
それ位ならお安いご用じゃき!!」






おぉ?答えた途端に顔がちぃと崩れた





「坂本…テメェやっぱりアホじゃねぇのか?」


「そうがか?正直に答えただけじゃが…
どうしたんじゃ眉間にやたらシワ寄せて」





声をかけて、返ったのは深ーい溜息


相手に浮かんどったのは笑みでなくて
出会い頭の渋面





「裏切ったら承知しねぇぞ」


「アッハッハ、ワシって信用ないのぉ」





さしもの前向き思考もやや折れかけた









「…つーかよ 坂本テメェこの高校で
曲がりなりにも教師やって長ぇだろーが
普通迷わねぇだろこんなクソ狭ぇ校舎ん中で」


「アッハッハ、金時にも言われたき〜ソレ」


「銀八な "ん"しか合ってねぇから」


そうじゃったがか?まぁ細い事は
気にせず行くぜよ!」


「だからテメェはウゼェんだよ」





案内の道中、口を開けばこの男

人を抉る悪口しか叩いちょらんが





「オィそっちじゃねぇよ、こっちだ」





それでもちゃーんとワシを導いてくれる


「ああ、スマンの〜」


「ったく案内しろっつったのテメェだろ
たったの数分で忘れんなバカ本」





そんでもって、口はすこぶる悪いが
ワシの言葉に返事をくれる







…高杉はいわゆる"不良"っちゅー奴で


他所とケンカは起こす、授業はロクに来ん


タバコもカツアゲも平気でこなすってモンで
先生方からも鼻摘みされとる





…しかし、しかしじゃ


こーしてワシの隣にいるこいつは

周りが言うほど悪ガキにゃー見えん





案外、根が厚いっちゅーて不良仲間ウチじゃ
慕われとるかもしれんの







「…何にやにやしてんだ気色の悪ぃ」


「いやぁ、おんしの面構えがあんまり
美人に整ってたから見とれてしもうた」





冗談半分で口にしたら、間を置かず
二歩ほど距離ば開かれる





「テメェ…オレにその気はねぇぞ」


アッハッハ照れるな若人!
ウソじゃと思うなら鏡を見てみぃ?」





目に付いた水道口んトコ指差したら


脛を思い切り蹴り飛ばされた


痛ぁっ!な…何するぜよ…!」


本格的にウゼェ!お望み通り職員室
連れてってやるから黙ってろ!!」





襟首掴んで引きずるとは、ずいぶん
荒っぽい案内じゃのー







力任せにズボンの裾と靴底とを
削られながらも


…ちらと見えた横顔が赤かったから





精一杯の照れ隠しなんじゃろうな、と
声に出さず、小さく笑った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:大変無謀ながら初の坂高(しかも3Z)
そして坂本視点に挑戦!してみました…


高杉:で、見事に失敗ってかぁ?


狐狗狸:話の展開はまぁ通常通りgdgdで
アレしてるんですが、土佐弁が所々ウソ入ってて
その辺り申し訳ないって言うか…


坂本:アッハッハ 細い事ば気にしちょったら
大事はなせんぜよ!


高杉:細かくねーよ、つかテメェの事だろ
本当空気の読めねぇウゼェ毛玉だな


坂本:アッハッハ、泣いていい?


狐狗狸:大の大人が泣かないでください(呆)




よく考えれば両方名前呼んでねぇ…不覚!
坂本嫌いじゃないんです、本当スイマセンした


読者様 読んでいただきありがとうございました!