咲き誇った桜も半ば散り


薄紅色の合間から、ちらほらと
緑が目立ち始めた木々の合間を





「昨日の雨がウソのように
すっきりと晴れておるな…なぁ銀時よ」


あー?まぁ普通じゃね?」





なんぞと交わしつつ並んで歩くのは
いい年した 大人の男二人







「なんだ、情緒のわからん奴だな」


「うるせーよヅラァ テロリストが
情緒とか語ってんじゃねーっての」


「ヅラじゃない桂だ」





歩みを止めぬそのままで オレは
呆れを隠そうともせず相手へぶつける





「全く…折角人が甘味をおごってやろうと
いうのに平素と変わらぬだらしの無さは何だ」


「偉そうに言ってんじゃねーぞ、どーせ
攘夷志士だの何だの面倒な誘いを
かける為のエサだろ?そんなん」





ほぼ大半の口実は奴の指摘通りだから
あまり否定は出来ぬのだが…





そうと理解しているにも拘らず


諦めず足蹴く通うオレへ
気まぐれに付き合うその辺りは


こやつも負けず劣らずに捻くれている











「そう簡単に距離は変わりっこない」











「誤解なきよう言っておく、今日はバイト先で
たまたま手に入った券を使いたかっただけだ」


「ウソくせぇな だったらお前の
ペットと行きゃよかったんじゃねぇの?」


「あまり不摂生なモノを多量に食わせて
エリザベスが病気になったらどうする」


「オレはいいってのかコノヤローが」





糖尿寸前のクセに今更何を言うか

というよりあまり唾を飛ばすな









支店拡張だか何だか分からんが


別の土地で繁盛していたその甘味店が
最近になって開き、そこそこ評判らしい





和洋構わず主々雑多に取り揃えた
"スウィーツバイキング"なる形式で


やたらと華美で余計な位甘ったるい品々は
オレにとって眉をしかめさせるだけだが





大の甘党を自負するこの男にとっては


皿や器に乗り切らぬギリギリまで
盛り付けるほどに魅力的らしい







「…まだ食う気か」


「あたぼうよ、何たってタダだからな
全種類制覇しつくしてやらぁ」





こんな時だけ生き生きと目を輝かせおって
まるきり童子同然ではないか





ここにおらぬ万事屋の従業員二人が


今の主の様を見たら果たして何と思うだろう





「あーに笑ってんだよ」


「いや お前らしいなと思ってな」


ああそう、と特にそれ以上の興味を示さず
銀時はさっさと次の品を取りに行く





一度目の配膳に付き合った際 取り分けた
小さな洋菓子がついに皿から消え


手持ち無沙汰になったオレは


忙しなく席を立つ銀時をしばし目で追う







常日頃から金欠だとのたまうこの男


近頃は特にソレが顕著だったようで
日々の食費にすら頭を痛めているようであった


だからオレの誘いだとしても、この甘味
食べ放題は願ってもいない事態だったのだろう





…券を入手した経緯までは真実だが


甘味をおごったのは あくまでこの男を
同士として迎え入れんがための布石


こうして恩を売りつつ徐々に信頼を深め

足元からじわじわとこちらへ引き込むつもりだ







だからそう…奴が菓子にほとんど意識を取られ
オレとの会話が疎かになっていたり


焼きたてのパイとやらを、嬉々として
皿に積んでむしゃぶりついていたり


ソフトクリームを出せる機械へ

何度と無く足を運んでいたとしても





手持ち無沙汰だったり気になったり
寂しくなったりつまらなくなったり
腹立たしくなったりはせぬ


断じて!全くといってせぬ!







…が、あの機械は個人的に気になったので
一度並んでみるとするか うん





「えらくその機械が気に入って
いるようだな、それで何度目だ?」


「いやーコレ結構楽しいんだよ やっぱ
にゅいーんて出るとテンション上がるし」





言う奴の手元には うず高く積まれた
見事なソフトクリーム


うぅむ無駄に手先は器用な奴め…だが


「甘いな銀時、この程度で満足するとは」


あぁ?あに言ってんだ
これでも結構ギリまで盛ってんだぞ?」


「ふふん…まぁ見ておれ
オレはこの手の事は意外と得意なんだ」





顔をしかめる奴の後に続いて機械の前へ立つ


レバーを握り、吐き出される白い物体を
添えたコーンで受け止めてとぐろを巻き


絶妙なバランスをもって段を重ねて行く





お〜…意外とうめぇじゃねぇか」





感嘆の声に気を良くするが、オレからすれば
これまではまだ序の口だ!





六段…七段、八段と渦と段を高めてゆく


うむ案外と調子がいい…ひょっとすれば

これは新記録に到達できるやもしれん!





「いや、分かったからもういいから!
ちょっメッチャ見られて恥ずかしいから!!」


「いいやまだいける!まだあと3センチは」


「無理無理無理無理!もうそれソフトってか
崩壊寸前のピサの斜塔にしか見えねぇよ!!」








あともう少しと言った辺りで、銀時が
無理やりオレを機械から引き剥がし


ついでに集まっていたギャラリーを押しのけ





残っていた菓子を早々に平らげると
急いで店を後にする







「何だ、全種類制覇するのではなかったのか」


「誰のせいだと思ってんだバ桂ぁぁ!」





それがおごった相手に対する態度か、と
憤慨したい所ではあったが


存外機嫌を損ねた相手へやや危惧感が募り
それ所では無くなっている





…どうやら調子に乗って段作りの
記録挑戦なぞしたから、奴のなけなしの
プライドを損ねてしまったらしい


くそう…面倒な男だ


攘夷浪士へ誘い込むための布石に
よもやこんな落とし穴があったとは







如何にして説き伏せんべきか…と思考を
巡らせている最中





横手から後ろ髪へそよぐ、僅かな風と気配





「おぃ 花びら髪についてんぞ」


「おぉすまぬな…」





礼を告げた言葉が口中で途切れる





「オィ、何をしている?


んー?やっぱ腹立つぐらい
サラッサラしてんなーって思ってよぉ」





軽く摘む動きだけであった筈の指先が


次の瞬間には深く髪の中へと潜り込み

頭皮を軽く掠めつつ するりと上下へ移動する





止めんか、と言を放つことも出来たのだが





髪を梳く指がいかにも楽しげで


向ける瞳が店先ほどでないにしろ
輝いているように見えたため


何も言えず されるがままに任せてしまう





「なぁヅラ、どうせならこの毛全部寄越せよ」


断る それとヅラじゃない桂だ」


「じゃあキューティクルだけでも分けやがれ」


「不可能だ…大体髪質を分けられたとて
捩れた性根を正さん限りは毛根も曲がるわ」





呆れ混じりに言ってやれば、勢いよく
後ろ髪を前へと崩された





「始終七面倒くせぇこと考えてる
真面目バカよりはよっぽどマシだっつの」


「っいきなり何をするか貴様ぁぁぁ!





そのまま囃すように笑って駆け出していく
天然パーマの銀髪を


前を掻き分けつつ、追いかけてゆく







…オレ達のこのやり取りが端から見れば
"恋仲"とも見えると気がつくのは


先を行く相手へようやく追いつき


説教交じりの勧誘をあしらわれた、しばらく後








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:とりあえずこの話では、二人が
出来上がってるかどうかは曖昧にしてますワザと


銀時:ウソつけよ つーかどこの中学生だこれ


桂:全く…どうせなら甘味所などよりも
猫カフェーかサファリパークで肉球にまみれ


狐狗狸:なくていいですから(汗)


桂:なんだとぅ!貴様とて猫カフェーに
たまに訪れているではないかぁぁぁ!


銀時:そこで激昂!?つか管理人の内輪ネタ
持ち出してくんじゃねぇぇぇぇ!!




何だかんだで付き合う銀さんと何だかんだで
天然バカなヅラでお送りしました


読者様 読んでいただきありがとうございました!