過ぎ行く季節の無いこの場所は 時間の感覚を
容易に狂わせる





あれから、どれ程の時がたったのか







…まぁ、こっちにゃ元々時の感覚なんてのは
さほど意味なんて無いのだが







「味気のない場所だねぇ、相も変わらず」





ころりとその場に寝転んで


幾度目かの呟きをもらす





側に頷く相手など、居やしないが







我ながら女々しいとは思うけれども
他にする事も 出来ることもなく


あっしは、まぶたを閉じて思い起こす







旦那と契約していた時分の色鮮やかな日々を





ひとつ ひとつ











〜「落葉の道」〜











タイザンの旦那とは、幼少の折からの腐れ縁で


闘神士としてはそこそこ長い間
顔を突き合わせていたと思う





気性はもとより、互いのクセも
移ろう季節も 全ての事柄に至るまで





共に歩み続け 乗り越えてきた







表面上は平静を装ってはいるけれど
旦那は案外 情緒的で





四季の節目を目にする度


僅かに和らぐ顔は、昔から何も変わってなかった







最後にそれを見たのはいつだったか…







「ああ そうだ」





あれは…冬を目前にした秋口の終わりの―













音もなく、木の葉が雨のように降り注ぎ


黄金や緋色に色付く道を そぞろ歩く





ひとひらの葉が 前を歩く旦那の肩に落ち


何も言わずあっしは、指でそっと
そいつをつまみ上げる









この道を歩くなら、無論 晴天だ
頃合は昼間から黄昏時にかけて





それが 最も美しい







味気ない見慣れた風景も
鮮やかな葉と柔らかな日差しに彩られ


どこか懐かしいような


それでいて見知らぬ景色と変わり





そこを歩くあっしも旦那も


ほんの少しだけ、


別の場所から来た旅人のような心持ちになる









「キレイなもんですねぃ」


「今のうちはな…
日が経てば、見苦しいことこの上ない」







振りかえる事無く、淡々と言うけれど





旦那の歩みは普段よりもゆったりとしている







「その儚さが この道をキレイに魅せるんですぜ」





なおも言葉を重ねれば、ようやくこちらを振り返り







「貴様も大した詩人だな 通り道でしかない
この場所を、同じように飽きもせずそう称すか」





呆れたような皮肉っぽい笑みを口元に浮かべ
旦那がそう答える







散る際の刹那の輝きが、一番強くて
美しいもんでしょう 旦那」


「季節の上では…な」







そこで押し黙り 再び、旦那は背を向ける









「どれだけ足掻いたとて、何も成せず
終わってしまえば その行為に意味は無い」





人気の無い道に響くのは 旦那の声と
遠くから聞こえる微かな雑音だけ





「私は、終わるわけには行かない
……例え 何を犠牲にしてでも







これも 幾度と無く繰り返された一言


都で過ごした幼少の頃も、成長した折にも





この時代へ訪れてからも











一拍挟んで 旦那がもう一度
こちらへ顔を向ける





但し、今度は笑みを浮かべずに







「私を愚かしいと思うか?オニシバ」







あっしは首を横に振りながら





「…あっしは、旦那の式神ですから
最後まで お供するまででさぁ」


「そうか」







満足そうに呟いて、群青の目が
側の木へと向けられる





散る際の刹那の輝き…か、よく言ったものだ」







夕焼けが 木の葉と道と黄金に照らす







どこか寂しげに微笑んだ旦那の顔も





似たように笑う、あっしの顔も












留まらない時に 落ちた葉の色は褪せ


木々も空を透かす寒々しい姿に変わり果てる





輝きを終え、朽ちて散ったその道を
同じように 揃って歩く







旦那が見苦しいと称した景色とて





互いが隣にいられりゃ


僅かでも会話を紡げりゃ





ぬくもりを共有できるなら





かえって気になりはしなかった







「アンタと共に歩んだ道に…
花は、咲いていやしたぜ」








散り行く際の、あの雪上でさえ





旦那と共に歩んだ道を 一辺たりとも
後悔したことは無かった







今でも、それは変わらない













今までの無茶がたたったのか


最後の戦いで、旦那の身体は強大な力に
耐えることが出来ず





あっしは、負けて







…そうして 今、ここにいる







目を開いていようが閉じていようが
変わり映えのねぇ


時の止まった世界に







「正にこの場こそが、地獄ってヤツかねぇ」







もらした呟きに答える相手もいやしない


こんな退屈な所に あっしは未だ
囚われ続けている





刺された腹の痛みなど


とうに忘れてしまうくらい、長く







…だからこそ





別れた後の旦那の行く末を想い


過ごしてきた過去を繰り返し、掘り起こす







果てしない空白に あの落葉の道の鮮やかさを
交わした他愛の無い会話を





日暮れに照らされた緑髪と微笑みを







押しつぶされる事を 厭うて













再び、誰かに名を呼ばれるまで


必要とされ 闘神士の側で歩み続けるまで







「…旦那と歩んだ、想い出に浸り続けるくらい
バチは当たらねぇでしょう」







虚空に、言葉を響かせて







あっしはもう一度 まぶたを静かに閉じた








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:年始一発目のBLが過去ネタでスイマセン


オニシバ:時期もちぃとずれてる様で


狐狗狸:…そうです、ネタを思いついたの
去年の師走半ばだもん 仕方ないじゃん(泣)


タイザン:オレ達の話なのに、殆どオニシバの
独白になっているぞ


オニシバ:追憶っぽいのなら季節感誤魔化せると
思ったんじゃないかねぇ


狐狗狸:モ・ロ・バ・レ…(爆)


タイザン:それでか、オレの出番が少ないのは


オニシバ:しょうのねぇ狐だねぇ、あっしが
そこまで過去を引きずる男に見えるのかぃ


狐狗狸&タイザン:よく言うよ


オニシバ:え゛、旦那までそう思ってたんで?




切ない→悲恋めっぽく(?)なってしまいました


読んで分かると思われますが、時間軸は
あの戦いの後的なカンジになってます