目的地が近くなり オレはスクーターの速度を落とす
計ったように愛機はピッタリと太刀花荘の
手前で止まった
玄関前で佇んでいるリクが待ってたのは
もちろん、オレ
「やっ お待たせ、リク」
「早かったですねマサオミさん」
メットを外して小脇に抱え、スクーターを降りると
リクに近寄って こう言った
「そりゃもちろん、一秒でも早くリクに会いたいからね」
今日はリクとのデートの日
前々から用意周到に計画を練り、どーにかして
最大の邪魔者・コゲンタを抑えこむ事に成功した
「…遅くならない内に帰って来いよ
あと、リクになんかしたら只じゃおかねぇからな!」
恨みがましそうなあの口調は
絶対に、オレに対する妬みがそうさせたに違いない
…まあ こうしてデートが実現することになった今
そんな事はどうだったいい
鬼ならぬ白猫の居ぬ間に、たっぷりと
二人の甘い時間を過ごすことに専念しよう
〜「オレ達サイズの幸せ」〜
「…あの、どうかしましたか?マサオミさん」
考え事をしていたオレを案じて、リクが尋ねる
ああ…その小首を傾げたポーズも
困ったように眉をひそめる顔も可愛いなぁ
「ま、マサオミさん?」
「ん 何だい?」
問い返すと、リクは戸惑ったように
「いえ…今 何だかスゴイ顔をしてらしたので」
ヤバイヤバイ、ついつい考えたことが
顔に出ちゃってたみたいだ
「ゴメンゴメン、つい嬉しくてね
さっ それじゃ行こうか」
言いながら オレは座席から予備のメットを
もう一つ出すと、リクに手渡す
お互いにメットをつけ、
ハンドルを握るオレの後ろに
リクが跨って 腕を身体へ回してきた
「飛ばすから しっかり捕まってなよ?」
「えっ、は はい!」
メット越しのくぐもった声にすら愛しさを感じ
オレは、思い切りエンジンを吹かして
スクーターを走らせ始めた
それなりに眺めのいい所を適当に走り
やって来たのは、近場にある自然公園
そこそこの大きさがある公園の一番上の方は
イイ感じの眺めを堪能できた
「わあっ…いい眺め…!」
「だろ?でも意外とこの公園って
知る人ぞ知る穴場なんだぜ?」
「スゴイなぁマサオミさん、僕でさえ
この公園の辺りのこと よく知らないのに…」
こっちを振り返るリクの目は尊敬に満ちていて
それだけで気をよくしてしまう
単純だと、自分でもそう思う
「ほめてもらえて お兄さん鼻が高いよ」
実はオレも、ついこの間までは
この公園に足を踏み入れたことすらなかった
近所の本屋のデートマップを読み漁って
よーやくこの場所の事を知ったことは、オレと
キバチヨだけの秘密だ
「でも、デートの趣向はコレだけじゃ終わらないぜ?」
さあ、種も仕掛けもございません
一番眺めのいい場所のベンチに二人で座って
颯爽と取り出したるは 二つの袋とその中身
「じゃーん、今日はお徳盛り牛丼のランチです♪」
「いつの間に買ってきたんですか!?」
「ふっふっふー マサオミお兄さんに
出来ないことはないのさ♪」
「はは…スゴイですねぇ」
困ったように笑っているけれども
なんだかんだ言って、リクはオレの渡す牛丼を
一度だって拒んだことはない
「マサオミさん、ご飯粒ついてますよ?」
「えっどこどこ?」
聞きながら、頬をしきりに擦るけれども
ご飯粒は 全く取れない
「ここですよ ほら」
見かねたようにリクがオレの頬に手を伸ばした瞬間
オレの方から顔を近づけて、おでこにキスを一つ
片手でご飯粒を摘み、空いたもう一方の手で
額の辺りを押さえて固まるリクに
「ああ本当だ、取れた」
自分でも白々しいくらいにそう言ってみせた
「だますなんて…ヒドイですマサオミさん!」
「ゴメンゴメン リクがあんまりに無防備だからつい」
「もう!」
しばらく赤い顔でそっぽを向く恋人のご機嫌を
どうにかして回復させて
再びスクーターでやって来たのは、そこそこ有名な湖
「大きな湖ですね マサオミさん」
「そうだなー、デカ過ぎて視界に入んないな」
湖の方を眺めながら、並んで当てもなく
縁に沿って散策を始める
始めは 他愛もない会話を楽しんでたけれど
「楽しそうだなぁ…」
何気ない呟きを、オレは聞き漏らさなかった
紫色の瞳の先にあるのは 湖に浮かぶ幾つかのボート
もちろん、乗っているのは家族や親子
それに仲睦まじいカップルだ
当然オレ達だってデート中のカップルなわけだし
ボートの上で二人…なんてベタながらも
おあつらえ向きのシチュエーションだって楽しみたい
お互いにのんびりオールをこぎながら
湖からの風景を眺めていちゃつけたら言うことなし
…けど、ボートのレンタル代はそんな甘い妄想を
打ち砕くくらいは高い
…スクーターの燃料費も 結構バカになんないしなぁ
懐と相談すると、やっぱり乗れないという
結論に達する現状が ひたすら口惜しい
「ゴメンなリク、もう少し持ち合わせがあれば
ボートに乗れたんだけど…」
「いいんですよ こうやってマサオミさんと
湖を散策するだけで楽しいですし」
柔らかいその微笑みに、寂しいものが混じってる
分かるからこそ 余計に辛い
「そういえばボート部の練習も、最近
結構楽しくなってきたんですよ?」
勤めて明るく振舞うリクが余りにも健気で
オレは泣きそうになるのを堪えながら
ちゃんと彼の話に付き合ってあげた
ゆっくりと、だけど確実に湖を一周して
入り口の辺りに戻ってくる頃には
辺りは夕闇が迫り それなりにいた人々も
ぽつりぽつりしか見かけなくなっていた
吹く風も、太陽が沈んだせいか少し冷たい
「さすがにこの時期になると、暗くなるのは
早いですね…」
上着からでた腕をさすって呟くリク
まぁオレは長袖の上着を着ているから
そんなに寒くはないんだけど
リクはその格好じゃ、ちょっと肌寒いかな…?
そっとリクの手を握ると その手ごと
自分の上着のポケットへお招きする
「えっあの マサオミさん!?」
「温かくなかったかな?」
ニッコリ笑って尋ねれば、
リクは薄闇でも分かるくらい頬を赤くしながら
乙女みたいにうつむいて
「あ、りがとうございます…温かいです…」
消え入りそうなか細い声で、そう答えるんだ
本当なら その身体を抱きしめて温めあいたいけど
まばらにいる人達に見られるのを、絶対に
恥ずかしがるだろうから 何とか踏みとどまる
楽しい時間は 本当にあっという間だ
門限も迫っていたのでスクーターで
リクを太刀花荘に送り届ける
「今日は…本当に楽しかったです」
「オレもだよ」
メット越しにここ一番のスマイルを浮かべて
「また 近いうちにデートしような、リク」
それだけ言うと、顔を赤くし頷くリクに
見送られながら スクーターを走らせた
オレには 大した力も金もないけれど
もし、リクが泣いてるなら
王子様やヒーローにだってなってやるさ
カッコいい車じゃないけれど、スクーターで
いつでも迎えに行ってやるから
その時は あの優しい笑顔を浮かべてくれよ?
――――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:マサリクで甘いの目指して書いて見ました
イメージは某唇美容液CMソングで
マサオミ:だからイメージの曲ばらすのは
やめなって、下手すると訴えられるよー?
狐狗狸:だってしつこく延々ループしながら
書いてんだもん それくらいー
リク:あの…やっぱり良くないと思います
狐狗狸:ガーン リク君まで〜(泣)
なんだよぅ、折角ラブラブにしたげたのにっ
リク:あと、やっぱりマサオミさんがどうやって
牛丼を出したのかが気になるんですけど
狐狗狸:…丼貴公子ことマサオミさんに不可能はな
マサオミ:勝手なネーミング止めてくれよ!
今回もいつものテンションでお送りしました
(最後の方、歌詞もじりでスミマセン…)