地上のオレらに恨みでもあんのかってぐらい


高々と照りつける日差しの熱気が
室内やアスファルトの路肩にこもるこの時期は


人は普段よりも割り増しで苛立つらしい





どうでもいいようなささいな理由で

あっさりキレて暴れ出す





…個人的にはこれを


"母ちゃんに店番押し付けられて
機嫌悪いんだ、ジャ○アン"
理論と呼びたい





今更ながら伏字になってんのはコレ
管理人曰く、"検索避け"のつもりらしい







「どうでもいいけどさぁ…いつから
伸ばしてるのん?そのあごヒゲ」


あ?別にいーじゃねぇかオレの趣味だし」





店先で顔を合わせて何気なく話をしてた薫が

脈絡無く、そう言い出した時点で


オレは逃げ出すべきだったのかもしれない











「往々にしてポリシーは理解され難い」











「中途半端にうっとーしいんだから
いっそ思い切りよく剃っちゃいなさいよん」


「いやいやいや、ふざけんなよお前マジで」


大真面目なんだけど?アンタそのヒゲが
無かったら結構イケメンなんだしぃ」


「あのな、これはオレのポリシーで
大事なトレードマークなの!
そう易々と剃られてたまるかってんだ!」





って言い放って、視線をちょいとばかし
逸らしたのがマズかった







「アンタはそれでいーかもしれないけど
こっちは見ててうっとーしいのよぉ!」






正直 仕事で会った訳でも無いし


そこそこ気の知れた同期だからってのが

オレらしくもねぇ油断になってた





「ちょっおまそれ言いがか…か、身体が!





まさかと思い、視線だけを向ければ案の定


どこからともなくバラの花びらを散らし

ニヤニヤ笑いながら女性用シェーバーと
除毛ムース片手に薫がにじり寄る






安心して 痛みも跡形も無くツルッツルに
する自身と腕前は保障してあげるわんv」


それ何の保障にもなってねぇぇぇぇぇ!





なんか言い方もエロいし、いつも通りだけど


てーかこんなトコでなに忍術無駄遣いしてんの!
技に対する誇りどこいった!?


「それとこれとは別問題よん!」





しまいにゃ読心術まで使い出したコイツ!







そうしてオレはろくに抵抗も出来ぬまま





自らのポリシーを、暑さによる苛立ちと

それに起因するろくでもない理由により


無残なまでに奪われてしまった









「くっそ…本当に全剃りしていきやがった…」


ようやく自由になった身体でその場を離れ


人気のない建物の陰で オレはいやに手触りの
良くなったあごをひとしきり撫でて消沈





もう本当気分は限りなく"ジャ○アンの横暴の
とばっちり受けたの○太"だわーコレ


泣きたい…いい年だけど本当に泣きたい





また伸びるまで待つしかないか…と諦めつつ


こんなツラを誰かに見られるのは不快なんで

首元に巻いてるアレで口元を覆う





「季節的にはキツいなーこれ…はぁ





ため息つきつつ、とぼとぼと歩いてたら







「あーもうコレ頭ムレるし、ハゲたら
アイツのせいだ…はぁーあ





通りの向こうから現れたのは
今 最も会いたくねぇ野郎のツラ





…ってアレ?何かあっちもヘコんでね?


つーかそれ以前に、どこの国の人だお前







「…何だよ じろじろこっち見んな痔忍者」


「うっせー、つかお前こそ何その頭
インドにでも行ってきたんですか?」


「あ、知らねーのお前?今期からこれが
流行るんだぜ〜」


「いやいやいやねーだろ、暑苦しすぎだろ
どこの改造好きの異常者だよ」


口元覆ってるテメェに言われたかねーし!
何?今更キャラ付けですかぁ?」





別にこれはそーいうアレじゃな…ちょっ


「何すんだジャンプ侍っ、あ゛ー!!





抵抗も空しく 口元の防御壁は
いとも容易く剥ぎ取られてしまった


何つーバカ力だ、バカだからか?







「ぷっ…何そのツラ!つるっつるじゃん!
お前あの半端なヒゲそったの!?」






指差して笑う奴のツラがあまりにも
腹立たしかったもんだから


お返しにオレもグルグル巻きのターバンを

クナイで散り散りに切り裂いてやった





どわっ、ななな何してくれてんだテメェ!」


慌てて手で押さえても 所々ボッコベコに削られ


妙に丸型になった髪ばかりは隠しきれていなかった







「ぶっ、ははははは!ジャンプ侍テメェ
どうしたいつものウゼェ天パはよぉ!」



うっせぇぇぇ!笑うな見るな指差すな!!」


「何だよ、似合ってるぜその髪型
なんなら今度からそれで行けよ主人公?


「黙れヒゲなしが 若作りしてぇなら
ついでにそのウゼェ前髪もバッサリいけぇぇぇ!」


「んだとコラァァァァ!!」







ひとしきりお互いへの貶し合いと
とっくみ合いの応酬にムダに体力を浪費し





照りつける日差しの暑さに負けて勝負を保留





休憩と人目を避けるのも兼ねて

近くのベンチの日陰で、一休みしつつ休戦







「…で お前そのヒゲ自分でやったワケ?」





流石に疲弊してたからか 問うその言葉に
先程までの嘲りは無い





「なワケあるかバーカ、ついさっき
知り合いにやられたんだよ」


「あぁ、お前もそのパターン?」


も?じゃテメェもかよ」







聞けばジャンプ侍曰く、あのいつも連れてる
ガキのチャイナの方に


その天パ見ててうっとーしいんだヨ!
中途半端に伸びてるぐらいなら、いっそ
潔く坊主にでもするヨロシ!」





とか何とか言われて 朝っぱらぐらいから
散々ケンカしてたそうだ


その時まではあの忌々しい銀髪パーマは
まだ健在してたと本人は語るも





「したら神楽のヤツ、人がソファで昼寝こいた
そのスキにバリカン持ってバッサーだよ」



「…お前んとこも容赦ねぇな」


「ああ…確かにコンプレックスはあったよ?
ストパーになりたいって常々思ってたけどさぁ


だからって、人のトレードマークをワザワザ
こんな無残にしてくってどんな暴君だよ?」





涙声で目頭まで押さえて俯くとは

流石のジャンプ侍も相当こたえてるらしい


…まぁ、オレも似たような立場だから
気持ちは分からんでもないかもしれん





それより気温の高さでイラつく奴ってのは

問答無用でポリシー踏みにじれるモンか?


夏だと"人類みなジャ○アン"になるモンなのか?







と、突然隣のコイツが肩を叩いて言った





「……なぁ、今日はとことん飲み明かそうぜ」


「何でそーなる てゆうか誰がお前と飲むか」


「いーじゃねぇか被害者同士って事でよぉ
ツマミ作っから飲もう、お前ん家で」


な!勝手に決めてんじゃねぇよ
大体飲むなら一人で飲めよ!」


「そうするつもりだったよー誰かさんが
人のターバン切り裂いてくれなきゃな」


…コイツに構わず、さっさと帰りゃよかった





少し遅い後悔なんぞしつつも

オレは 溜息と共に腹を括る





「先に手ぇ出したのはテメェだろが…
分かったよ、おごりゃいいんだろ?」


「いや…気持ちは嬉しいんだけどよぉ
店入りづれぇし、今のオレら」





面倒クセェ奴だな…まあオレも馴染みの店に
顔出しにくいっつー点じゃ一緒か





「それに紅蜘蛛ん時も思ったけどよぉ…

磯村君、お前酒だけカパカパ進めてんだろ
知ってっかーアレ胃に悪ぃんだぞ?」


「それが何だよ、てか服部だからオレ」


「だーから緩和するツマミを作ってやる
っつってんの、任せろオレ料理得意だし」







ほぼ一方的なジャンプ侍の意見に押し切られ





酒はオレ持ち・ツマミはアイツ持ちで
ウチでの愚痴飲みの会が決定した






…まあ、今回ばかりはお互い"被害者"だから


真性ジャ○アンのテメェに付き合ってやらぁ







「料理マズかったら承知しねーぞ」


「本家が唸るよーなの食わしてやるから期待しとけ」





オレはこの会話の少し後、この発言が
奴特有の大口で無い事を身を持って知った








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:個人的には銀さんの手料理までキチンと
描写してみたかったんですがねー


全蔵:どうでもよくね?しかし本当
ヒゲ全剃りは勘弁して欲しかったわー


銀時:誤魔化しようがあるだけそっちのがマシだろ
それより、そのセリフはオレの料理に対する
挑発ですかぁ あん?


全蔵:被害妄想とは悲しい奴だなテメェは
マシなのは料理の腕だけか?


狐狗狸:…あ、やっぱ料理は上手かったのね


銀時:あったりめーだろ!銀さんこう見えて
結構本格派なんだぞ?和洋中何でも来やがれ




やっぱりケンカップルな感じに…まぁ
まったり歩み寄ってるように見えれば幸い


読者様 読んでいただきありがとうございました!