2月14日・聖バレンタインデー


欧米から伝わった 一応は正式な祝日は


製菓業者の企業戦略によって、ある種日本独特の
文化と意味合いにシフトさせられた





…しかしながら期待して浮き足立つのは


国や時代や流行が違えど 女子も男子も
特に変わりは無いようだ







「あら月詠ちゃ〜ん、そのチョコって誰宛て?」


「ああ…これは教え子からもらったんじゃ」


逆チョコってヤツねぇ ひょっとしたら
本命かもよん?青春っていいわねぇ〜」


「単に流行りに乗っただけじゃろ」





そんなすぐ側のガールズトークを小耳に挟みつつ





全く…毎年飽きずによくやるもんだ」





銀魂高校国語教師、坂田銀八は一つ
ため息をついて職員室の自らの席へと戻る











「踊らされる人は案外多い」











そのまま机の上へ授業用の教材


…ではなく、ジャンプを広げて気だるげに
読みふけっていると





「仕事中に何やってんですか坂田先生」





隣の机に腰掛けつつ、日本史教師の服部全蔵が
前髪越しに呆れた眼差しを投げかけてきた





「ああ、構わず仕事しちゃって平気ですよ
これがオレの教材兼日課なんで」


「そういう問題じゃねーよ…ったくこの時期は
学年末も受験も控えてるってーのに生徒共々
教師も浮かれてんじゃ 先が思いやられるわ」







"嘆かわしい"と言わんばかりにため息をつくが


彼の手に下げられた袋からは チラリと

赤や青などの派手なラッピングの箱が見える





「とか言いながら、ちゃっかりもらうモン
もらってんじゃねーか」


「仕方ねーだろ…ダメだっつってんのに
持ってくるヤツが多いんだから」





適当な引き出しに袋を放り込んで、教材を
用意し始めた全蔵を眺めながら


銀八はやや面白くなさそうな顔をする







勿論 学校という施設だから授業と関係ない
品物は基本的に見つかり次第 没収され


この時期の校内では更に、風紀委員が率先して
チョコの受け渡し禁止令を強いている





なので、持ち込まれたチョコやお菓子は


八割がたが意中の相手に渡るよりも早く
巻き上げられてしまうのだが…







「そうですよねー、いやー年頃のガキの
行動力って参っちまいますよね〜」





と、これまでのやる気の無さを一転し
ジャンプを閉じた銀八が


ハタから見てもわざとらしいくらいに明るく振舞う





「なまじっか生徒にモテるもんだから、オレも
チョコとか渡されまくっちゃって ダメだって
言ってんのに、受け取って欲しいってアイツらが」





常時"死んだ魚の目"で通っており、咥えタバコを
始めとして型破りかつ破天荒な教師として
まかり通っている銀八だが


そんな彼を慕う生徒は、担当クラスの3Zを
始めとして意外と多い





なのでチョコを渡そうと思う女子がいても
別段不思議ではないのだが…





「いやースイマセンね、オレばっかモテちゃって」


「言ってて悲しくなりません?その発言」





自慢たらたらの発言は 真偽に関わらず
人をムカつかせるには十分であった







あ?何ソレ大人の余裕ですかコノヤロー
言っとくけど、オレ結構もらってますからマジで」


「どうせ生徒からの義理でしょ、そんなんで
浮かれるとか単純ですね坂田先生は」


「そー言う服部先生だって 物珍しさ半分で
もらったようなモンでしょ?本命もねーのに
内心浮かれて余裕ぶっちゃって…ぷぷっ


「決め付けてんじゃねーよ、本命だと逆に
問題だろ…ったく自慢するヤツに限って
ロクにもらえないのを隠したがるんだよな」


「そんなに言うなら、テメーは何個もらったか
見せてみろよ!見せれるモンならな!」








半ばキレ気味のそのセリフに、相手は小ばかに
したような笑いを浮かべて引き出しを開ける





その数は…銀八にとって予想外に多く


悔しげな顔をさせるには十分なモノであった





くっ…これぐらいで勝ったと思うなよ!」


「思わねぇから…つーかいるんだったら
一個お裾分けしましょーか?」


「え…ひょっとして逆チョコ?友チョコ?
いやー流石にそれはここじゃちょっと…」


何想像してんだアンタは 単に
生徒からの分を分けてやるっつってんだよ」


「あーあーあー…そういう事か、それじゃ
遠慮なくもらうとしますかね」





期待に満ちた顔つきで伸ばした銀八の手に


ポトリ、とイヤに軽い感じで置かれたのは





「…えーと、服部センセ これ何?


「だからお裾分けですよ、カリカリ梅
生徒から没収したヤツですけど」





透明なパッケージに包まれた 球状の一粒の梅を
メガネ越しにとっくりと眺めてから


我に帰って、彼は文句を言い放つ





「いや普通こういう流れだったらチョコじゃね?
何でカリカリ梅しれっと渡してんの!?


「あんだよ、人が親切にお裾分けしてやったのに
いらねーんなら返せこの野郎!


「あん?一度渡したモンを返せとか
みみっちーヤツだな、返せるかバーカ!



「おまっ、人の仏心をバカとはなんだバカとは!







罵りあいからあっという間に口ゲンカに発展し


通りがかりの松平先生にぶん殴られる形
仲裁されて、決着がついた





「痛ってー…テメェのせいだぞ痔教師」


「人に罪をなすってんじゃねぇよ天パ野郎」


懲りずに水面下で睨み合っていたものの





「すいませーん、銀八先生ー!」


「ったく何だよこんな時に…へいへーい





急な呼び出しをくらい、席を立った銀八は

スリッパをぺたぺた鳴らして職員室から消えた









室内の人影がまばらなのを見計らった全蔵が


徐に銀八の机の 一番下の段をそっと開く





…本来 プリントを詰めるハズのそこには


お菓子がわんさか詰め込まれて、甘いニオイ
プンプンとさせている





「本当に学校を何だと思ってんだ あの天パ…」





常日頃 そのニオイが気になっていたのと
先程の恨みとがない交ぜになって


主が不在のこの隙にお菓子を廃棄するべきか
校長辺りに密告するかを考えて…







そこで全蔵は、奥の方に設けられたスペースに


紙袋と ラッピングが施された様々な箱や
包みが数個雑多に置かれているのに気がついた






それらにはご丁寧にカードが挟まっており


"銀八先生へ"と 女子と分かる字で書かれている





「…なぁんだ、虚勢じゃなかったのか」





興味なさげに見下ろしていた彼は


一拍の間を置くと 奥に置かれた箱へ
片腕を伸ばして……









相変わらず騒がしくはあったものの


特に事件らしい事件も無く、銀魂高校の一日は
終わりを告げようとしていて





すっかり暗くなった廊下で


二人の教師が、互いに顔を合わせた







「服部先生これから帰り?」


「それ以外の何に見えるってんですか…
じゃお疲れさんです お先に失礼します」





会釈を済ませ 全蔵は教員用の昇降口へ
向かうべく彼の横を通り過ぎる







…その、すれ違い様の一瞬


片手で腕を掴んで相手を止めた銀八が

笑みを含んだ唇を 彼の耳元に近づけて





「…チョコ、あんがとさん」







―即座に開放された勢いでかなり距離を進み


慌てて振り返った全蔵が、片耳を押さえて
気だるげな白衣の教師を睨みつける





だが…先程の低いささやきの効果
現れた顔では いささか気迫に欠けている







やがて、ため息をついた彼は短く返す





「単に流行りに乗ったまでだ、じゃあな」





言い捨てて踵を返したスーツ姿を、銀八は
やや嬉しげに笑って見送った


白衣のポケットの中には…一つ増えた
チョコレートの箱が入っている








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:一応、友チョコでなく本命チョコです
ついでに出来上がってる?設定だったり


銀八:久方ぶり…つーかこっちでの絡みは
初なのに、何で甘くねーんだよ!


狐狗狸:これでも甘い方ですよ?私にしては


全蔵:基準が分からん てーかカリカリ梅とか
渋いモン食ってる生徒いんのか?


狐狗狸:いてもおかしくないと思います
だって、銀魂高校だし


銀八:何ソレ、新手の免罪符?




ウチの銀全はどっちであっても張り合ったり
嫉妬したりケンカする仲悪し仲良しカップルです


読者様 読んでいただきありがとうございました!