忙しなく世界を圧し包む蝉の音と


高く済んだ空にギラギラと輝く陽の光が
鮮やかにを謳いあげる


拙者の心が少しばかり急いて揺らぐのは

この眩くも刹那的な時期のせいばかりではない





「さて…あの男に何を贈ろうか」







鮮やかで、眩く刹那に彩られた現世に
生れ落ちた 派手好きでどこか儚いあの男





多くの人には"狂犬"と渾名され


その生を恐れと共に疎まれる事が多く

当人もまた自らの生誕などに頓着せぬが


承知の上 敢えて拙者はそれを祝おうと思う





…が、問題はどういう風にそれを示すかだ











「真心で包むのが一番の逃げ道」











相手はお世辞にも真っ当でない道を

曲がりなりにも、私兵を率いて邁進しており


実家も不自由がない程には裕福で


財力に関しては潤沢で 拙者の稼ぎなど
比べ物になりはしないのだ





「下手な物を贈ったら斬られそうでござるな…」





鬼兵隊の一員として手を組んでいるとはいえ


隠れ蓑代わりの表の仕事が繁盛しているせいか
存外、言葉を交わす機会は少ない





それでも色々と拙者の役割は多く

まめに足を運ぶようにもしてはいるが


アレは自らの本心を 早々明かしはしないのだ





…となれば身近な相手に聞くのが好手







晋助様にプレゼントォ?お前また
抜け駆けする気っスか万斉先輩ぃ!!」


「落ち着きなさいよまた子さん
…それで、私達に何を聞こうというのです?」





短気を起こし銃を取り出す金髪の彼女を

抑えながら 淡々と武市殿は言う





「何、贈り物をするに当たっての
情報リサーチの一環でござるよ」


「ああ、その手の相談ですか」


そうですねぇと相変わらず何処を見ているか
分からない眼を虚空に向け、考え込む武市殿を


丸無視し また子が険の強い視線のまま言う





「ぶっちゃけお前が一日姿を見せない
誓約書とかどーっスか?」



「冗談にしては性質が悪いでござるよまたちゃん」


「私は至ってマジっス、てーか晋助様が
お前ウザイって言ってたの聞いてるんスよ」





…全く、ほとほと素直じゃない男でござる





「そう言えば 以前一度だけ…
"ゆっくり昼寝をする時間が欲しい"と言っていた様な」


「偉く抽象的でござるな…もう少し何か
具体的な案は無いでござるか?」


万斉さん、情報をリサーチするのなら
色々と視点を変えて問うのも一つの手ですよ?」





なるほど…この男、少女趣味の変態ではあれど
策略家としての能力はやはり高いな


「変態じゃありませんフェミニストでっす」







拙者と立場を同じくする、他の相手として


つい最近同盟を結んだ春雨の師団の
ある男を訪ねる事にした





「まぁ面倒で物騒なすっとこどっこい上司
持ってるってトコは不本意ながら認めるが…」


顔を突き合わせた無精ヒゲで黒い服と
コートをまとった夜兎の男は


冴えない顔のまま、伸び放題の髪を掻きつつ言う





「だからって何でオレにそー言う相談
持ちかけるかなアンタ?オレそんな善人面か?」


「安心なされよ、阿伏兎殿はどこから見ても
立派な破落戸面でござる」


「…嬉しくねえセリフありがとさん」





盛大なため息をついてから、阿伏兎殿は
眉間にシワを寄せつつも口を開く





「贈り物ねぇ…アンタんトコも団長も
妙なトコにしか執着しねぇ自由人だしなー」


「そこは重々承知の上で訊ねているのだが」


「ま、団長は大食いだから地球とかの
ウマい飯屋で散々おごる位で済みそうだがな」


「…晋助はどちらかといえば少食でござる」


「したら芸術品を見せるとか…あとは女か?

とにかくああいうタイプは自分が楽しけりゃ
過程も方法もかまやしねぇだろう」


その点は同意だが、どうもあの男に
しっくりくるモノが浮かんでこない





拙者のそんな不満に気付いてか





「立場云々ってよりかは、やっぱり当人
知ってる奴のが参考になるんじゃねぇか?」


何とも投げやりな調子で阿伏兎殿は呟いた







あの男を知る旧友で、所在の掴めて
話をスムーズに聞けるであろう人物


となれば不本意ながら適任が一人だけいた





で、何でオレ呼び出してんの?
本編じゃ一応れっきとした敵キャラだよなお前」


「それしき、晋助への愛の前では些事でござる」


「いや全然大事だから お互いのポジションに
メチャメチャ関わってくっから!」



ファミレスのパフェであっさり釣られた
白夜叉が珍妙な顔つきでツッコミを入れてくる





…正直、拙者もこの男と因縁がある為

本来ならこうして話などする気は起きない


だが一重に愛のためならその程度我慢して見せよう


「それで晋助への贈り物についてなのだが」


「テメーも酔狂な野郎だねぇ、ボンボンで
無愛想なアイツの誕生日祝おうとは」


何と言われようとも構わぬ いい加減
拙者の質問にまともに答えてはどうか」





んーとパフェをがっつきながら腑抜けた声で
目の前の銀髪侍は返答を返す





「あの野郎もヅラみてーに堅物だからな
手品を見せるなり いー女のいる風俗に
連れ出すなりして息抜きさせたらどうだ?」





…参考にならん、やはりこの男に
聞いたのは間違いだったか







会計へ向かおうと立ち上がりかけ


席に座ったままの相手に呼び止められる





おい待てイヤホンバカ、さっさと
結果出してんじゃねぇよ最後まで聞け」


「ならどういう意味でござるかバカ





死んだ魚の如き瞳が、俄か生気を取り戻す





楽しい一日を相手に過ごさすのも悪くねぇってこった


不恰好だろうが即物的だろうが、テメーを
祝ってくれる努力だって相手にとっちゃ
立派に贈りモンになんだろうが」





……物に拘らずとも 誠意を見せる姿や
楽しき時も贈り物になりうる、



「ぬしは中々どうして詩的なことを
言うでござるな…が、悪くない





口元だけで笑えば 相手もクリーム塗れの
唇をすっと持ち上げ笑う





「それでダメなら、頭にリボンでもつけて
"私がプレゼント"とか言っとけ」


「…それはもう実施済みの上
あやうく抹殺されかけたでござるよ」











そうして、様々な意見を考慮した結果





「……こいつぁどーいう風の吹き回しだ?」


「なに、たまには異国での息抜き
悪くないと思ったでござるよ」





"武器や人員の調達"だの尤もらしい理由をつけ


地球から然程離れてはいない別の星にて
この男を連れ出す事に成功した


事前にこの星の言語や今いる地域の状況は

しっかりと調査を終えてはいる





…ついでに、ここが知る人ぞ知る

隠れた避暑地的な観光名所であることも





「テメェの安金で手配したにしちゃ悪くねぇ
…これでテメェがいなきゃ完璧だが」


「いつも通り手厳しいでござるな

勿論、名目も果すし 江戸と違って
ここなら自由に歩きまわれるでござるよ」





微笑みと共に告げれば、相手は煙管を
吹かしたまま得意の低い笑みを漏らす





「オレぁ、テメェが一日声も顔も出さねぇ
馬車馬のように働く宣言書でも十分だったがな」


「それ…またちゃんにも言われたでござる」





とは言えその発言が出るという事は


拙者の行動の趣旨を十分承知の上

こうして乗りかかった、というのだろうか





そう考えると…浪費した気力や時間や金などは
全く持って惜しくもなくなってしまった







「晋助…おめでとう」


「そいつぁまだ早ぇだろ」


つい零れ落ちた言葉を、唇ごと指で塞ぎながら





「オレが満足するまで、この一日
テメーの働き振りを見せてからだ」



いとも楽しげに この男は眼を細め笑っていた





…ああやはり、素直でない男





「了解…なら今の時間帯は
ちゃんと離れないようにするでござるよ」





釣られて拙者も笑いながら手を取れば
すかさず振り払われるが


そうは問屋が、卸さない


「…って、いつの間にこんな小細工
噛ましやがったこの変態グラサン」


運命の赤い糸を否定するのは流石に
無粋ではないだろうか?晋助」





互いの手に絡む糸もそのままに


やや苦々しい顔でため息をつく相手の隣を
維持しながらも 共に歩き出す








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:誕生日なんで万高にて贈り物ネタを
"ボンボン発言"がそもそものきっかけですが


高杉:オレを見りゃ大体予想つくだろぉ?


狐狗狸:ええ…そうですね、あくせく働くの
アナタには似合いそうもありませんものね


万斉:素直じゃないこの男を楽しませるのも
一苦労だが、それも愛ゆえの苦しみ


高杉:ウゼェ グラサン叩き割るぞ


狐狗狸:あ…煙管ストライクが顔面直撃した
地味に痛そう……(眉間抑えつ)




さり気に鬼兵隊の二人や阿伏兎さんや
銀さんを引っ張り出す、傍迷惑な彼に乾杯


読者様 読んでいただきありがとうございました!