夜勤は嫌いだ





私でなくても、型に嵌った仕事を持つ者なら
一度くらいはそう思うだろう







責任の重い立場とはいえ


夜中まで長々と書類とにらめっこをするのは
性に合わないし





第一、そんな時間を過ごすのなら


知った顔の仕事仲間ではなく 妙齢の
女性の方がずっといい







…とは言っても、この部屋にいるのは


私一人だけなのだが







「これは常人の仕事量じゃないだろう…」





机に山と詰まれた書類を見つめて 一人呟く







昼間、同じ言葉を中尉に言った所





「大佐が常習的にサボった部分が
溜まっただけです」






と 一言の元に切り捨てられてしまった







そう言われてしまえば、この事態は
自業自得なのではあるが


せめて少し手伝うくらいしてくれても…







彼女は自分の分の業務を終了させて
早々に帰ってしまい





部下達も自分に類が及ぶ前に上手い事
理由をつけて逃げてしまった







…ああ、そう言えばアイツだけは
見回りの夜勤で抜けていたっけ







引き出しから真鍮で出来た中身入りの瓶を出し





書類をそのままに部屋から出る








〜的外れな奇襲〜








大体この位の時間なら、いるはず…









果たせるかな 休憩室のソファに
ぼんやり煙草を吸う金髪を見つけ







忍び寄ったその横顔に、真鍮瓶をあてがう





「うひゃっ!?」





不意打ちの冷たさに肩を竦ませたその姿が
妙に滑稽で 思わず笑ってしまった







「軍人のクセに弛んでいるぞ?」


「いいじゃないっすか、こっちは夜勤続きで
これが束の間の休憩なんすから」







最近はここも何かと物騒な事件が相次ぐため
夜の見回りも強化されることになった





ハボックはそれに引っ張り出され


ほぼ連日、寒空の街中を歩き回っているのだ







「てゆうか、書類はどうしたんすか 大佐?」


「外回りは寒いだろうと思ってな
気分転換も兼ねて、差し入れにきたのさ」







受け取り、ハボックがフタを少しだけ開けると
中からふわりと洋酒の香りが漂った





フタを閉めて 奴は上目遣いに私を見やる







「仕事中に酒なんか持ってきていいんすか?」


心優しき上官の差し入れが要らないというのか
それなら仕方ないな」





言いながら瓶を取ろうとすると





「あ、要ります要りますって」







ハボックは身を捻って私の手から瓶を遠ざけた









こうして、しんとした休憩室のソファに


並んで腰掛ける二人の男という
なんとも奇妙な構図が出来上がった









「いやー助かりましたよ、外はやたら寒くって
…あ、うまいっすねこの酒」


「下手な世辞はよせ 店にあった中で
一番安そうな奴を買ったんだぞ」


「そりゃ大佐には安モンでしょうけど、
オレにゃ十分ゼイタク品っすよ」





酒が入っているせいか、普段よりも
陽気に語っている







酔っ払いの声はやたらと大きいから
あまり好きではないが





この位は 許容できる範囲内だ







「煙草を控えれば こんなもの幾らだって
買うことが出来るだろう」





言うと、ハボックは露骨に眉をしかめる





そんな殺生な〜オレが煙草を
止めた姿なんて想像付きます?」







少しだけ想像して見たものの、どうも
しっくりこない感じがした







「確かに つかないな」





でしょうと笑うその顔は、心底嬉しそうだ







それなりの付き合いから思うのだろうが





やはりこの男は煙草の煙をまとっているのが
何より似合いの姿だ―









大佐 人の顔見て何ニヤついてんすか?」





指摘され、そこで私は我に帰った







相手が酔っ払っていたからとはいえ
油断していたのか…





何を考えていたのか問われるのはゴメンだ







「…いや、やはり私も一口もらおうかと思ってな」


オレへの差し入れじゃなかったんすか?」





文句は言っているものの、ハボックは
瓶を私へと手渡している





「一口ぐらいで文句を垂れるな
経費削減で暖房が効いてないから寒いんだよ」







大して美味くもない安ウィスキーは
喉を通り過ぎた途端 熱へと変わった







「やはりマズイな」


「一口飲んどいてそりゃないでしょ」





私の手から瓶を引ったくり、グビグビと
喉を鳴らして酒を飲み下すハボック







「そんな飲み方だと身体を壊すぞ?」


「だって酒飲んでんのに、暖まんないっすから」


ウソをつけ 顔が赤いだろ」


それに、大分酒臭い





しかしそんな事は全く聞かずにコイツは続ける







「どうせ人もいないんだし…
もっと暖まること しません?









言葉の意味を理解するよりも早く







私はソファに押し倒された









上に圧し掛かってきた薄い色の目とかち合って
ようやく思考が働き始める







「いきなり何をしようとしている!」


何をって…流石にこの状況で分かんないとは
言わせませんよ?」


場所をわきまえろといってるんだ!」







酒の勢いに任せて、万一誰かにこの事が
露見しようものなら


自分も私も ここにいられなくなる





それが分からないのかこの男は…!







「いいじゃないっすか 休憩交代まで
まだしばらくありますし〜」







退かそうとする腕を取られ、上の方で
両方まとめられてしまった





酔っているせいか
加減もなにもあったもんじゃない







生物兵器って言われてるけど、こうして見ると
ただの優男にしか見えねぇなー」


「冗談言っている場合かっ、上から退け!





身を捩って抵抗をするが 押さえつけられて
いる状態では、大して効き目はない





「あんま暴れっと せっかくのキレイな顔に
傷がつきますぜ、大佐」







文句を言おうと開いた口を、


喰らいつかれるように口で塞がれた







酒と煙草の入り混じる 何とも言えない
ニオイと苦味が、思考をぐらつかせる





さほど経たずに口は開放されるが、







「…大佐」







いつにない真剣なその顔に それ以上
何も言い出せなくなってしまった









この動悸は酒のせいなのか 暴れたせいなのか







…いや、目の前の この男のせいなのか









圧し掛かる重みが増して―











唐突に 身体が軽くなった







身を起こすと、元の位置に座りなおした
ハボックがニッと笑っていた





「…冗談っすよ 大佐」







私は呼吸を整えてから その顔面に
キツイ一発をお見舞いした







「折角部下が身を挺して身体を暖めて
差し上げたっつーのになんちゅう仕打ち!」



「ああありがとう お陰で温まったよ
お礼に消し炭になる位温かくしてあげよう!


「うわっ、ちょ大佐!
発火布はシャレになんねぇって!!」






シャレにならないのはこちらの方だ馬鹿者!


憂さ晴らしも兼ねて差し入れをしたら
思いもしない奇襲を喰らわされるとは







全く持って 不愉快だ







「タチの悪い酔っ払いめ!
勝手に一人で飲んでろ!」








立ち上がり、私は振り向かずに歩き出す









「じゃあこれ、もらっちゃっていいっすか?
オレへの差し入れっすよね?」





少しだけ その場に立ち止まって答える





「…バカを言え さっきの迷惑分でチャラだ
後でその分返しに来い」


「ケチくせぇなぁ…了解 仕事が終わり次第
お宅までお届けにあがりますよ、大佐」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:色々と設定に粗はあれど、ハボロイ
ようやく書き終わりました〜


大佐:粗だらけと言った方が正しいな


ハボック:そうっすよねー大佐はともかく
オレまで連日夜勤は有り得ねぇっしょ


狐狗狸:分かっててもツッコむな大人二人!
てかハボさん、それどっちもどっち


大佐:全くだ…ところでウィスキーを入れる
あのボトルは真鍮瓶と言って良かったのか?


狐狗狸:いや、適切かは分からんけどアレは
真鍮瓶って表現するしかないかなーと


ハボック:ズイブンとアバウトだな


狐狗狸:しかし書き始めはホッペに〜
しか考えとらんかったのに、書き終えたら
あわや18禁突入しかけだもんね(汗)


ハボック:まー別にオレはあのまま
いただいちゃってもよか


大佐:灰になりたいらしいな?


ハボック:アハハ、冗談っすよ
なんで発火布付きでポーズは止めてください


狐狗狸:本当、シャレにならんこと言うよね




いつも通りのヌルい展開でスイマセンでした


読者様 読んでいただきありがとうございました!