日が沈み、辺りを闇が支配する


その度 オレは誰にとも無く溜め息をつく







小さな頃は、
夜になるのが待ち遠しかったはずなのに





今は、沈んでゆく太陽を恨めしくさえ思う







「…アル 悪い、ちょっと出てくる」


「うん 気をつけてね」







心配そうにこっちをみるアル





理由は何も聞かれない いや


うっすら気付いていて、敢えて
何も聞かないでいてくれている







肌にまとわり付くような生温い空気を
振り払うように





なるべく人通りの少ない場所を目指す








〜messenger from night〜








やがて、程なくオレの足は
裏通りのある店の前で止まる





古びた骨董屋に並んだ仕掛け時計が
刻む針の音の他は、何も聞こえない







時刻は もうすぐ十時に差し掛かる









路地の死角にわだかまる闇から
滲み出るように、アイツは現れた





こんばんは、おチビさん」


「チビって言うな」







ゴメンゴメンと悪びれたように言うけど
絶対に悪いと思ってなんかいない


コイツは元々そういう奴だ





憤りと呆れの混じったため息を吐いて
オレは本題を切り出す







「…なぁ いい加減こうやって会うの
止めにしないか?」


「またその話?しつこいね君も」





エンヴィーがゆっくりとこっちに歩み寄ると
オレの肩に手を置いて、近くの壁まで押しつける


背中を擦る壁の痛みに眉をしかめる





「別にいいじゃない 僕らって
持ちつ持たれつの関係なわけだし」


「どうせお前らに必要なのは、"オレ"じゃなく
"人柱"の存在だろ?」





突き放すようにそう言うと、
エンヴィーはスゥッと 眼を細める





「そういう反抗的な態度は嫌いだな」







低く呟いて、オレの唇を自分の唇で塞ぐ







ひどく一方的な口付け


息継ぎをする事すら容易に許されず
徐々に頭が酸欠を訴える





引き離そうと腕で押し返したら
コイツは唇に噛み付いてきた





鉄の味がじわりと滲み、微かに痛みが走る







「…おチビさん、ちゃんとご飯食べてる?
血の色が少し薄いんだけど」


「こちとら何処かの性悪に血ぃ流させられて
慢性の貧血になりかけてんだよ」





目の前に浮かぶのは、悪魔に似た笑み





「ひどいなぁ 君が生きている内に
なるべく会いに来てあげてるのに」


「お前にとっては、単なる暇潰しだろ?」


まぁね 君とこうやって会うのも
からかって苛めてやるのも楽しいし」







本当に この男はどこまでもえげつない








ケンカの反撃で、八つ当たりで、
或いは単に楽しみの為に





人の身体に様々な暴行を加えて痛めつけ





出来た色んな生傷を眺めては
嬉しそうに、オレを抱き寄せる







…勿論 黙って耐えてたわけじゃない





戦って反撃することもあった







でも、







「大人しくしねぇなら テメェに関わった
人間みぃんなブチ殺しても構わねぇんだぞ」






オレの首を絞めながら


ガタイのいい軍人に化けて言うコイツの眼は
どこまでも暗く 本気だった









それからはずっと、





夜中にこうして会って 一方的な行為を
含んだコイツの暇潰しに付き合っている







一度すっぽかした時は





アルが眼を離した一瞬の隙に拉致られて
半殺しの目に合わせられた







「君が約束を破るのが、悪いんだよ」





オレの頭を踏みつけながら言うエンヴィーに
あの時本当に殺されるかと思った











パン、と乾いた音がして左頬が熱を持つ


少し遅れて 叩かれたのだと気付く





「人が話してるのに、何別のこと
考えてんだよ あぁ?





機嫌悪そうに吐き捨てられ、次の瞬間
腹を蹴り上げられた







肩を強く押さえ込まれているせいで
倒れこむことも出来ないまま 息を吐く







「…ほら、何考えてたのか言ってみなよ」





鼻を食い千切られそうな程近くにある
エンヴィーの眼には


オレどころか、光さえ映らない





辺りに潜む闇と同じ 底知れない
深さだけを湛えている







こうして人を痛めつけて何が楽しい





じわじわといたぶり続けて、
オレの心が折れるのを望んでいるのか?







それに負けないように、黙って
視線を返し続ける







「おチビさんが構ってくれないなら
そうせざるを得なくしようかな?」


「…そんな事をしてみろ」


「冗談だよ、シャレが通じないんだね」





押さえつけていた肩から圧迫感が消える







変わりに、エンヴィーはオレを
包むように抱きしめる







「僕は君のこと好きだよ エドワード」







まるで今までの行動が、全てウソだと
思えるくらいに優しい









この表情は果たして本物なのか


こうして抱きしめられているのは
現実に起きていることなのか







オレを"好き"だと言ってくれているのは





コイツの…エンヴィー自身の本心なのか?







人を今の今まで傷つけておきながら





こうやって優しくするなんて
一体、何のつもりなんだよ…









名残惜しさなんか微塵もなく
巻きついていた腕がするりと離れる





「それじゃあ また明日ね、おチビさん」







口元を吊り上げて笑うと


来た時と同じように エンヴィーは
路地の闇に滲んで消える









与えられた痛みに顔をしかめて


さっきまでいた場所を少し抜け出せば





辺りは街灯が辺りを照らし
酒場で騒ぐ活気に満ちた声が響き渡る







「……エンヴィーの野郎、
本気で噛み付いてきやがって」







口元の血を拭うと、オレは
アルの待つ宿へと来た道を戻る









いずれは敵同士になる相手に
"好き"だと言われ続ける理由も







これだけヒドイ目に合わされても





どうしてか、アイツのことが
頭の隅にちらつく理由も







どこか理解していながら 口には出来ず







けれど全てを終わらせることも出来ないまま









今日もまた 奴の現れる夜を歩く








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:前回、ギャグなエンエドだったので
シリアスな感じにしてみました


エド:シリアスっつーかひたすら暗いじゃねぇか


エンヴィー:しかも、某サイト様の影響
モロに受けてるよねぇ 謝ってきなよ今から


狐狗狸:今からですか!?


エンヴィー:あぁ?何 口答えすんのか?


エド:お前それ、えげつないっつーか柄悪い


狐狗狸:エド君 いいこと言った座布団一枚


エド:っしゃーあと一枚でハワイ…
じゃねぇよ!何小ネタにつき合わせてんだ!!


エンヴィー:とかいいつつおチビさん
結構ノリがいいじゃない


エド:チビは余計だこの野郎!!(怒)


狐狗狸:君だって充分柄悪い…




色々問題な話で スイマセンでした
今日はコレにて退散しておきます


読者様 読んでいただきありがとうございました!