ふと、微かな気配を感じてマサオミは
薄く目を開いた


いまだに意識は睡魔に支配され


微かにしか開けない目であっても





室内が薄暗く 明け方の時間帯らしい事は
ぼんやりと理解する事が出来た







外からの音も削ぎ取られた静かな空間


深海にも似た深い沈黙の中に漂う
何かの気配にマサオミは目にやや意識を凝らす





それは…彼を見つめる何かの影から
発されている気配だった





見下ろす相手の姿は闇に包まれていて分からないが


知っている何かだと、マサオミは
どうしてか強く確信していた





『…ん………ユ…』





影が何かをささやいているが、僅かな断片しか
聞き取る事が出来ない





その内に舞い降りてきた睡魔が


マサオミの意識を夢の中へと引きずり込み…







再び彼が目を覚ますと、辺りはすっかり
明るさとそれなりの騒がしさに満ちていた











〜「彼誰刻の視線」〜











「ふあぁぁ〜…何だったんだろ、あれ」







大きな欠伸と共に伸びをして まだ眠い頭を
目覚めさせようと緩く首を振るマサオミに





ヘーイ、起きるのずいぶん遅くない?』





快活に半透明のキバチヨが声をかけてくる





「んーおはようキバチヨ 結構明るいけど
今って一体何時?」


『もうモーニングってよりアフタヌーン近いよ
珍しくお寝坊さんだったね』


「うぇ、マジでかー…」







頭を掻きつつ、ふと寝ぼけ眼で見た
あの光景が頭を過ぎり





「そう言えばさ、明け方…いや多分あれ
夢なんだと思うんだけど」


え?何、どうしたのさ?』





マサオミはその出来事を語り始める







「いや実はさ、明け方っぽい時に枕元で
オレを見つめる何かがいてさー…」


『何ソレ 新しいホラーを語るなら
時期的にまだ早いよ?ほら顔洗ってきなよ!』





途中で打ち切られ、渋々マサオミは顔を洗いに
洗面所へと向かった









…それから何度か キバチヨへ夢の話を
しようと試みてみるも







『それよりもオヤツ食べたいよ〜降神してっ』





ソーリー、今この漫画いいトコだから」





『ごっめーん聞いて無かったよマサオミくん』







必ず合間で、理由をつけて中断される







「…なぁキバチヨ 挙動がいつもよりおかしいぞ
心なしか目も泳いでるみたいだし」


『そう?気のせいなんじゃないの?』





あっさり否定されるも、話の前後で挙動が
怪しくなっている事に 彼は気付いていた









聞いてくれないので、式神に話すのを諦め





「やぁリク」


「あ、こんにちはマサオミさん!」







どうしても話をしたかったから


彼は自分の知り合いに、出会いがてらに
その話をしようと思い立った







「ここで会ったのも奇遇だし、ちょっと
話に付き合ってくれないか?」


「どんなお話ですか?」


「実は、昨日見た夢の話なんだけどさ…」





しかし語り始めようとした所で





『マサオミくーん、コゲンタがジェラシー
視線で睨んでるから少し離れたら?』


『うっ、うるせぇテメェ!!』





キバチヨのささやきによって挑発された
コゲンタが騒ぎ出し、話をうやむやにされ







「あのさタイザン、ちょっと聞いて欲しい話が」


何だ こう見えて私は多忙の身なのだが?」


「いや時間は取らせないよ、昨日見た夢が
印象的なんで誰かに話したいかなって」


「…ヒマそうで羨ましいな さっさと済ませろよ」





今度こそ腰を据えて話せると思いきや





『あれタイザン オニシバは?』


「知らん」


『あっれ〜いつもセットなのにどうしたの?
ひょっとしてケンカでもした?』


「ちょっとキバチヨ、オレの話が先っ!」







始終ちょっかいを出されて、結局時間が切れ
一言も話したかった事を語れずに終わったり









とにかく夢の話をことごとく邪魔され







「何でオレの話の邪魔ばっかすんだよ!!」





頭にきたマサオミが叱り飛ばすが





べーつーに〜?
僕は悪くなんかナッシングだもんね』





頬を膨らませ、そっぽを向いて
拗ねたように突っぱねるキバチヨ







「まったく、今日のキバチヨはおかしいよ」





イラだったように顔を背けてマサオミも黙り込む







頭の中では今朝からのキバチヨの行動が
順繰りに反芻される





夢の話を慌てて遮ったり、かと思えば
誰かに話すのを邪魔したり…


一貫してキバチヨの行動は"夢"に過敏反応していた


まるで その事を話されるのを恐れるような…







「……あ」







小さく、聞き取れないほど小さくマサオミが漏らす







記憶を手繰る内 夢だと思っていた出来事を
ハッキリと思い出したのだ









静かに不機嫌そうな式神へ顔を向け





「なぁキバチヨ」





マサオミは、笑みを交えて問いかける







『…何、マサオミくん』


「ひょっとしてさ…今朝の夢での視線
あれ お前だろ?





瞬間 キバチヨが零れんばかりに目を見開く





えっ!?なっ何イキナリ!!』


「惚けたって無駄だぞ、全部思い出したんだから」


『えぇっ…じゃああの時起きてたの!?
絶対寝てるんだとばっかり思ってたのに!!』








その一言が、全てを物語っていた





「…やっぱりあれは現実だったんだな」







慌てて口を押さえ キバチヨは悔しげに
マサオミを睨みつける





オゥ、シット!嵌めたねマサオミくん』


「失礼な事言うなよ…お前がオレを見つめて
何かを呟いてたのは覚えてるよ」





言いながらマサオミの目が、挑戦的なものに変わる





「なぁ、何て言ってたんだ?」


『そ…それは…ノーコメントで』





途端に視線がそらされる





半透明の薄青いその顔に、さっとが吹いた







「答えられないのか…じゃ仕方ないな」







ため息をついて 神操機を手に構えると


マサオミはキバチヨを降神した







「え、何で突然降神したの?」





戸惑う式神に、彼は身を寄せて言う





「迷惑かけたのにちゃんと質問に答えないなら
せめてお詫びとして、キスしなさい」


「…えぇっ!?


「嫌ならちゃんと答えること、どっちがいい?







拒否する事を許されず キバチヨは逡巡した後







「うぅ…じゃ、じゃあ…キスで」


「オッケー 勿論口にするんだぞ?」


「まあ、アメリカじゃ挨拶だしいいけどさ…」





おずおずと身体を近づけて マサオミの唇へ
自分のそれを重ねた









この時きっと、気付いていなかっただろう





口付けを交わしながら彼が心の中で







"…マサオミくん、アイラブユー…"







ささやいていた言葉の中身を思い出し
こっそり口の端を緩めていた事








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:マサキバで甘ギャグを書くか、と思い
書いてみたけど…ギャグが無いね


マサオミ:まぁアンタのギャグって全部ヘボいから
無くてもいいんじゃないの?


キバチヨ:だよねぇ 大して甘くもないし


狐狗狸:相変わらずの苦言をありがとう(悔)


マサオミ:でもさ、何でキバチヨは夢の話を
聞かなかったり邪魔したんだよ?


狐狗狸:聞かなかったのは恥ずかしいからで
邪魔したのはそのまんまジェラ


キバチヨ:シャラップ(矛突きつけ)


狐狗狸:…イエッサ




何ていうかマサオミの一人勝ち的な?(意味分からん謝)