鏡に顔を映しながら 鼻歌交じりに
近藤はヒゲを整える





「ん〜今日も男前だなーオレ」





ニマニマと気色の悪い笑みを浮かべつつ
顔の角度を変えて まじまじと鏡を見る







「あ、この辺もーちょっと剃っといた方が
お妙さんに惚れ直されるかも…」





言って、鼻の下の皮膚にカミソリをあてがい


細心の注意を払いつつ刃を滑らせ…







「局長〜!沖田隊長がぁ〜!!」





叫びながら室内に入ってきた隊員の言葉に驚き





「ぎゃあああぁぁぁぁっ!」







近藤は勢い余ってカミソリ負けをし
鼻の下から盛大に血を流していた











「カミソリ負けは地味に痛い」











とりあえず血を拭き取り、絆創膏を
貼っただけの応急処置を済ませ





隊員達の案内で 屯所の敷地内の現場に
駆けつけた近藤は


開口一番に悲鳴じみた叫びをあげた







ちょ、総悟ぉぉぉ!何やってんの!!」







バズーカを地面に向けつつ、半笑いで
近藤に顔を向ける総悟





「いやーこいつ等が土方撲滅用の罠に
引っかかっちまったモンで、ちょいと仕置きを」


「「助けて局長ぅぅぅ!!」」





涙目で近藤に助けを求めているのは


山崎と原田の二人…の首





身体の方はデカイ穴にすっぽりと入っており


更に彼等は穴の底に落ちぬように
両手両足を突っ張って耐えている







無論、穴の底に一部の隙間も
許されないようにビッシリと





張り巡らされている死を呼ぶ仕掛けのせいだ







「いやコレ落ちたらシャレになんないから!
とにかく、今助けるぞ二人とも!」





穴の淵に向けて駆け寄る近藤に


バズーカをしまって沖田が呟く







「近藤さん それ以上寄ると」







彼の言葉に構わず近藤は穴の方へと進み





急に足元の地面が口を開ける







「うぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」





笑えるくらい無様に落下した近藤は
とっさに両手足を突っ張り


どうにか底の仕掛けまでの到達を免れる


…と言っても、ほんの一寸手前くらいだが







何コレぇぇぇ!何でオレまで
デンジャラスホールの刑ぃぃぃ!?」


「危ねぇって言おうとしたのに」


「なんで穴が二つもあるのぉぉ!?
ひとつで十分でしょ!?」


「よく言うじゃないですかぃ、人を呪わば
玉二つって…あ、穴二つか」





プルプル震える近藤を見下ろしながら
どこかのん気に沖田が言う





「二つどころの騒ぎじゃないって!
ゴリラの棒が穴だらけになるぅぅぅぅ!」



「穴だらけになんのは脳みそじゃ…
ああ、すでにスッカスカでしたね」


そんな事ないもん!ゴリラだって
体デッカイ分アソコも脳ミソもビッ」


「言ってる場合ですか局長ぉぉ!」





近藤の落ちた穴へ向けて原田が
血の叫びを腹からひねり出す







「早く助けてください、オレもう腕が痺れて…」


「耐えろぉぉ 耐えるんだ山崎ぃぃ!
てゆうかオレから先に助けてぇぇぇ!!」









成り行きを見守ってた隊員達によって
三人はどうにか死の穴から救出された







「「「し、死ぬかと思った…」」」


「情けないねぇ、たかが土方撲滅程度の罠で
大の男が値を上げるとは」





本気で呆れているサマを見せる沖田に


もはや涙目から完全に半べそになっている
山崎が情けない声で反論する





「副長より先にオレ等が
この世から撲滅されかけましたよ!」



「そもそも罠を仕掛けるなら仕掛けるで
副長以外を巻き込まないよう
努力してくださいよ!」





そーだそーだ!とここぞとばかりに
周囲の隊士達も賛同する







今は運良く市内見回りの最中だが


ここに土方がいたのなら、


発言した原田を始めとした隊士全員
切腹を迫られていたろう





罠を作った沖田と


ついでに山崎も同様に









「へぇ…じゃ明日土方がくたばるまで
一歩もその場を動かずにいられやすかぃ?」







再びバズーカ構えつ言った総悟の言葉と
真っ黒なオーラに気圧されて







「さーて、そろそろ見回りの時間だ〜」


「書類整理しなくっちゃなぁ 期限近いし」


「近所に聞き込み行かねぇと」







隊士達と被害者の二人は、諦め混じりに
その場を退散する









残っているのは 沖田と近藤の二人のみ





「ったく弛んでやがらぁ…それじゃ
近藤さん オレはこれで」







きびすを返して自室に戻ろうとする
総悟の腕を、近藤は掴む







「何事も無かったかのように戻れると
思ったか総悟ぉぉぉ!」



「うおぉぉぉぉぅ!?」


「オイタする子にはお仕置きだ!」







腕を引きざま近藤は沖田の首を
後ろからホールドし その頬に己の頬を寄せ





ヒゲでジョリジョリと削るように頬擦りする







アダダダダダ!アダダダダダダ!!
痛っ目に入った 痛いってコレ!!」


「どーだ、痛いだろ〜参ったか!





勝ち誇ったように笑う近藤の顔を、沖田は
嫌そうに押しのける





「参った参った やめてくだせぇ近藤さん、
こっちにも加齢臭がうつっちまわぁ」


そうかぁ?オレ昼飯はラーメンだったぞ?」


「年取るとゴリラも耳腐るんで?
加齢臭、平たく言やぁ オッサン臭でぃ」


オッサンじゃないぞぉぉ!
メタボだってまだきてないモンね!」





どうでもいいんでぃ、と吐き捨てながら
どうにか密着状態から離れる沖田







「ガキの頃じゃあるめぇし、いい歳こいて
むさいヒゲ擦り付けんなぁ勘弁してくだせぇ」


「むさいのは今に始まったことじゃないだろう」





ガッハッハとひとしきり豪快に笑ってから







「そう言えばヒゲじょりの刑をやんのは
久しぶりだなぁ」







しみじみと懐かしむように彼を見つめ







「昔っから総悟は 悪さばっかしてたよなぁ」





側にあった色素の薄い髪を、近藤は
万感の優しさを込めて力一杯撫でる







「誰かに構ってもらいたかったんだろ
ぶっちゃけ今でもそうだろ?」


「…アンタの馬鹿さ加減には
本当 驚かされらぁ」





憮然とした顔をして沖田が言う







しかし僅かに浮かぶ頬の赤みの原因は、





どうやらヒゲの刑や寒さだけではないようだ







「お、何だ反抗期か?」







そう言いながら顔を覗き込んだ瞬間





近藤の絆創膏の部分に、沖田の指が
神速の突きをお見舞いした







「痛゛ぁぁぁぁっ!!」


「知った相手とて油断してっと すぐ
足元掬われるんでぃ、覚えといてくだせぇ」





楽しげに笑って 即座に先へと駆け出す沖田を


突かれた部分を押さえながら、涙を湛えた
怒りの形相の近藤が追う







またそーいう悪さばっかりして!
今日という今日は許さんぞ総悟ぉぉ!」


ゴリラの足で追いつけますかねぃ」







二人の追いかけっこは、土方が戻ってくるまで
まったく収拾が付かなかったそうな








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:初挑戦の近沖ですがどっちかってーと
やっぱりグダグダで終わってしまた…


沖田:なんでぃ、消化不良の多い


狐狗狸:てーかぶっちゃけヒゲじょりの刑
されてる所が書きたかっただけなんだ


近藤:だったらあんな罠まで作らんでも


狐狗狸:まぁアレだとお妙さんのトコと
変わらんけど、沖田ならやるかな


沖田:明日 寝入った土方の部屋に隙間無く
地雷でも仕掛けておこうかねぇ


近藤:止めて総悟ぉぉぉ!
下手すると屯所吹っ飛ぶから!


沖田:大丈夫でさぁ、その間 皆で
屯所を出払えば 後は建て直すだけで


狐狗狸:屯所もろとも前提!?




結局、沖田は腹黒であればよし(言い逃げ)


読者様 読んでいただきありがとうございました!