秋口に入り、少し蒸し暑さが減って
随分と過ごしやすく感じる





残暑だか何だか知らねぇが


しばらく寝苦しかったから清々すらぁ







降りてくるまどろみに身を任せ…







「晋助晋助晋助」





耳障りな声に、オレは眼を開けると
側にあった煙管を投げつける





それは寝入り端を叩き起こし


尚且つオレの了承も得ず入ってきやがった
万斉のデコに直撃した







「部屋に入るなりいきなり凶器攻撃
ナシでござるよ」


「うるせぇ出てけ」







舌打ちをして睨みつけてやるが





この男は屁でもねぇ顔で投げた煙管を
拾い上げ、そのまま口に





「咥えたら殺す」







間一髪、一歩手前でもぎ取る











「カラオケに入ってない曲ばかり好きになる」











「…ちょっとした冗談でござるよ晋助
そんなムキにならなくとも」


「白々しいんだよテメェは」


そうでござるか?まあそんなことより
今日は晋助に重大な用があるのだが」


「…話だけなら聞いてやる」







オレは定位置に座り直して、奴の次の句を待つ





くだらねぇ用事なら、この場で
刀の錆にしてやる







万斉は背負っている楽器を取り出し


嬉しそうにひとかき鳴らすと





さっき出来上がったばかりの新曲
披露しようと思って来たでござる」





実に堂々と寝言を吐きやがった







そうかぃ、オレぁテメェのくだらねぇ
歌に久方振りの安眠邪魔されたのか







「タイトルは"晋助のためなら死ねr


「そうか、じゃあ死ね」





迷わず抜いた刀の切っ先を眼前に突きつける





「照れ隠しで刀を突きつけるのは
いささか物騒ではござらんか?」


「これが照れ隠しに見えんのか
随分とめでてぇ思考してんなぁ」


「何を今更、拙者に対する晋助の暴力行為は
全て愛情の裏返しでござろう」







…『蛙の面に水』を地でいきやがって





この場合、河童の面か?







馬鹿に付き合うだけ時間の無駄だ


さっさと追い出して眠った方が得だ、と
テメェに言い聞かせながら





何とか刀を鞘に収めて 元の位置に戻り


燻る苛立ちを抑えるため、煙管に
ヤニを詰め 火をつけて一服







、寝言はそれだけか?」


「いやいや、もう一つ重大なものが
ぶっちゃけこっちがメインでござる」





妙に神妙な顔をして、急に畏まる万斉





「……何だいきなり 気色の悪ぃ」


「頼む、晋助」







表情を変えずにじり寄られ、オレは
我知らず固唾を呑む









鬼が出るか蛇が出るか 構えていた所に







「ぜひ曲のプロモを取らせて欲しい」





この男は、先程以上の寝言を吐いた









あぁ?誰がやるかそんなもん」


「それは困るでござる、既にメイド服
チャイナ服などの衣装は手配済みゆえ」







言いながら懐から衣装とやらの写真
一つ一つ ワザワザ見せてくる





…変な所でオレの好みを押さえているのが


余計に腹が立つ







「テメェにいい年こいた男を女装させる
変態趣味があったとはなぁ」


「普段着が女物の着物じゃ説得力に
欠けるでござろう」


「関係ねぇだろ、これ以上寝言吐くなら
永眠させてやろうか?」


「そう言わずに」





尚もしつこく食い下がるこの男を斬ろうと
刀の柄に手を伸ばしかけ







「晋助様〜入るっス!」





甲高ぇ女の声と共に、襖が開く







「ああっ!また来てるっスね!」


「せめて入る時はノックぐらいするもんで
ござるよ またちゃん」





…うるせぇのが更に増えやがった





「いくら鬼兵隊のメンバーだからって
用もないのに晋助様に会いすぎっす!!」


「用ならある、新曲の"晋助のためなら死ねる"
プロモを撮らせてもらうよう交渉中でござる」


「おもっくそパクリじゃないっスかぁぁ!」


パロディと言ってもらおう」





そのまま目の前で繰り広げられる
馬鹿二人の口ゲンカの応酬に 耳を塞ぐ









うるせぇ





祭は好きだが、単にうるせぇだけの
騒ぎは嫌ぇなんだよ


これじゃろくに眠れやしねぇ







「ケンカなら他所でやれ、オレぁ眠いんだ」


晋助!寝る前にせめてプロモの承諾は
してもらわねば困るぞ!!」


「させるかぁぁ!晋助様はみんなの
アイドルっス!抜け駆け厳禁っス!!」






ケンカは止む所か、喧しさを増すばかり









(世界の前にこいつら壊して、静かに
昼寝でもするか?)






ふと、頭にそんな言葉が浮かんで消え


目の前の馬鹿二人を改めて見る







また子はともかく、万斉はしぶといから
殺るにしても時間がかかるだろう





…面倒くせぇ 場所変える方が早いな







馬鹿二人に気取られぬよう
いまだに騒がしい室内から抜け出す













一番見晴らしのいい屋上、この時間なら
いるのはオレ一人





さっきまでの喧騒がウソみてぇに静かで


和らいだ日差しに、今だけは
心地よく眠気を誘われる





眼を閉じてようやく眠りに…







気配に気付いて起き上がると、
万斉がここまでよじ登ってきやがった





「やっぱりここにいたでござるか」


「…何でわかった」







登りきり、趣味の悪ぃいつもの服を
軽く叩きながら こいつは答える





「そりゃ、拙者は晋助のことなら
何だって分かっているでござるよ」







余裕しゃくしゃくのにやけた笑い顔に





怒りを通り越して、オレはただ呆れる







「嘘つけよ」


「まあ、嘘も方便というでござろう?」





本当に口だけは達者な男だ







ああもう、いい加減しつこいコイツを
追い払うのも面倒くせぇ







「オレの昼寝を邪魔しねぇなら、
いてもいいぜぇ?」



「…わかったでござる晋助 それなら
寝入る前に、一つ言わせて欲しい


「…何だよ」





聞けば、万斉はオレの顔をじっと見て





「プロモの最後は、ウエディングドレス姿で
その笑顔を浮かべてくれ」








親指を立て、頬を赤くしながら言い切った





……やらねぇって言ってんだろ







「参考までに ちょっとその顔も
画像に納めさせて欲しい」





いそいそと携帯を取り出し始めるその様子に
オレは、笑顔をくずさねぇまま





「やっぱり落ちろ」





迷わず万斉の馬鹿を蹴り落とした








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:何故か銀魂内(BL)でこの二人が
書きやすく、某サイト様の素敵万高と
カラオケ屋の一件が加わって出来たのがこのは


高杉:長げぇよ(拳骨振り下ろし)


狐狗狸:〜…杉様、いつにも増して機嫌
斜めですな(涙目)


高杉:どっかの阿呆に昼寝の邪魔されたからな


万斉:仕方なかろう、どうしても晋助に
プロモに出てほしかったでござるから


狐狗狸:蹴落とされてもピンピンしてるとは
さすがは真性の変態ですね


高杉:…まだ生きてやがったのか盗作作曲家


万斉:またそう言う事を、拙者は分かってるさ
晋助の愛は人より十倍不器用なのを


また子:帰れっスほんまモンの変態ぃ!(銃乱射)


高杉:どうせなら塩もってこい…いや
棺桶の方がいいか?


狐狗狸:あの、抹殺する気満々ですか!?




変態かつおバカな万斉を書いてしまい、ファンの方
本当スイマセン 切腹はご勘弁を…!


読者様 読んでいただきありがとうございました!