江戸っ子として夏の風情はそれほど嫌いじゃねぇ





…が、夏の気温は正直勘弁してほしいモンがある


もうなんかセミの鳴き声が暑さを増長させて
何一つやる気を起こさせなくしてくる気さえする

何だ奴らは?セルか セルの化身か?脱皮するし


てゆうか紫外線強すぎて逆に年頃の娘っ子
露出が減りつつあるんですけど…


そこんとこどうなの太陽さん?まずそっちから
脱がせていかね?北風いねぇけど





「あ゛ーも、メシ食う気もしねぇ…」


ガキどもはこんな暑ぃ中でも元気に外に出て
散歩だのコンサートだの駆け込んでってるけど


生憎オレにそこまでの気力はない

むしろその無駄な元気を分けてほしいわ





ため息ついて、ついでにピーカンな空を
ひと睨みしてから残暑見舞いの返事を返す


…ったく年賀状ん時といいどうしてこう
ハガキや返事の類は面倒くせぇんだか







そこでふと、アイツの顔が頭を過ぎる





「高杉の奴…ちゃんとメシ食ってんのかな…」











「胃袋攻めは古典ながらも効果バツグン」











…アレ?いやいやいや、おかしくね?


何でよりによって敵方の大将心配しちゃうかな

オレ 暑さでおかしくなった?





でも…アイツ、ボンボンだったからか
ガキの頃から好き嫌い多かったしなぁ…





戦争ん時も当番でメシ作ってたけど、主に
作業やってたのってオレとヅラだったし


つーか辰馬の野郎もボンボンだからか

ぼけーっとメシ待ちしてやがったっけな





いや!昔ならいざ知らず今はアイツ
曲がりなりにも自分の兵隊率いてっし


辰馬よか断然しっかりしてんだから
テメェの世話ぐれぇ キチっと見れるだろ!







ああでもアイツ…メシには頓着しねぇんだよな


オレらに比べて食う量も少なかったし

意外とアレで何かに熱中してっとメシ忘れっし







…やべぇ、気になって残暑見舞いが手につかねぇ!





何だって敵方のあんな愛想無し包帯男
木になる勢いで心配しなきゃなんねぇのオレ!?


紫外線がついにオレの脳細胞破壊していったか!?





「……ああっ、くそ!





いても立ってもいられずオレは 台所へ向かった







―――――――――――――――――――――――







残暑の折、思ってもみなかった相手から
予想だにしなかったシロモノが届いた





「何考えてんだ…あの野郎ぉ」





部下どもが勝手に年賀を送り付けてたから

見舞いのハガキ程度は、まぁ予想しちゃいた


…が一緒に でけぇタッパーにみっちり詰まった
ポテトサラダがあんのはどういうワケだ?





「毒見いたしましたが…どうやら正真正銘
ただのポテトサラダのようです」


のっぺりとした面で武市が分かり切った答えを出す





「お箸をお持ちしました!」





一人が持ってきた箸を受け取り、タッパーから
直に摘み取り…ポテトサラダを口に運ぶ


……味はあの頃と変わらず 美味かった


アイツの作った飯は、オレらの中では
"一番美味い"と好評だったから当然かもしれないが







いくつか口に運んでから





「…あとはテメェらで好きに食え」


近くにいた部下へタッパーを適当に押し付ける





たちまちの内にポテトサラダに人が群がり

目に見えてその量が減っていく





「おおっ、ウメェ!


「ちょっ糖尿寸前のバカ侍のクセに
何で無駄に料理上手いんスかぁぁぁ!!」



「少なくともアナタよりは確実に上ですねぇ」


「うっさい黙ってろっス武市変態!」


「変態じゃありませんフェミニストです」







ぎゃあぎゃあと喧しい奴らを眺めながら
煙管を吹かし、ぼんやりと宙を仰ぐ





……元々気まぐれなトコがある奴だったが


まさか、敵であるオレに塩を送るとは
正直思いもしなかった





「残暑見舞い…か」





くっついてたハガキにゃ見慣れた汚ぇ字で

定番の挨拶の横に 簡単に二行


『とりあえずラスボス的位置にいるテメェが
夏バテでくたばらない事を祈る』






…高々夏の陽気程度でオレが参ると本気で
思ってんのかぁ?アイツは


まあバカだからそう考えてこーいう事を
しでかしたんだろうな、恐らくは





このクソ暑い中台所に立つアイツの姿

容易に想像できて…喉元から笑いが漏れる





「どうか致しましたか?」


あん?気にすんな…なんだ食い終ったか」


「はい…こちらはいかが致しますか?」







別にこれは奴が勝手に送り付けて来た品だ


容器を返さず捨てた所で、特に困る事もねぇし


逆に容器を律儀に返してやる義理も無いのは
アイツだって先刻承知だろう





…だが 諦め顔の銀時の面を思い浮かべた途端


何故か、何かが妙に癪に障った





折角だ…丁重に送り返してやれ」







―――――――――――――――――――――――







まさか、返って来るだなんて思ってなかった





「ふおっ!何コレぇぇぇぇ!!」





"夏の暑さ"に負けたと言い訳めいた事を考えながら


熱気をひたすら我慢してポテサラ詰めたタッパーを

野郎のアジトに 捨てる気で送りつけたら





数日後の朝イチにそいつが帰ってきた…しかも、


鮑を満タンまで詰め込んだクール宅急便で





「何だよ…届いてたんじゃん」





人づてに聞いたとはいえ、相手はあれでも
でかい賞金首の掛かった人間だ…


アジトを変えられてたり アイツ自身が
受け取らずに捨てる事も十分あり得たけれど


こうして見慣れたタッパーが戻ったって事は


少なくとも…ちっとは食ってくれたらしい







「……って、アレ?」


ちょい待てオレ…それっておかしくね?





何で仮にも決別申し付けた奴に作ったメシ
食ってもらえて"よかった"とか考えちゃうの!?


しかもお返しに食べ物までタッパーに
詰め替えしてもらってちょっと喜んでるの?!


これじゃアレ"健気な彼女"ポジションじゃね!!?


いやいやいや!この思考もおかしい!!





コレはアレだ…うん、高杉の野郎の気まぐれだろ


そう考えりゃ辻褄が合う アイツボンボンだし

多分こう嫌味ついでの意趣返しだろ?


オレの方もまさかタッパー帰ってくると
思ってなかった上に高級食材詰まってたから
テンションだだ上がりしちゃっただけで…





きっとあの野郎も夏で思考が少しばかり参ってんだよ

全ては紫外線のせいだそうに違いない!





どうにか結論をつけつつポテサラ摘むアイツ
想像して、その姿の愉快さに自分の優位を


保とうとして…タッパー裏のハガキに気がつく





『料理だけは相変わらずウメェが、どうせなら
ポテトサラダでなく糠漬け送れ』








その一文は間違いなく高杉当人の筆跡





「うぇぇぇえぇぇぇぇぇ!?」


「朝っぱらからうっさいネぇぇぇ!!」





思いもよらぬ注文でたちまち動揺が復活し
頭を抱えて叫び出したオレへ


寝起きの神楽の一発が下った








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:ヘタレ銀さんと女王杉様で書いたら
おかしなモノに…多分、銀高銀?


銀時:いや、あいつらのアジトの宛先知ってる
時点でおかしい気がすると思うよオレは


狐狗狸:誰かに聞いたんですよ(例:空知等)


銀時:いやそこボカすか逆にハッキリさせろよ!


高杉:メシは…言やぁ手伝いぐれぇはしてたぞ


銀時:それも逆だろ、言わなきゃお前も
辰馬のバカも全然手伝わなかったじゃねぇか!


高杉:クク…あの程度で動揺するたぁ
相変わらず性根は小せぇ奴だぜ


狐狗狸:うーわー大人の(エロい)余裕が…




カッコイイ銀さんスキーな方にはスイマセン
…でも家庭的な攻めも大好きです!


読者様 読んでいただきありがとうございました!