ポケットに忍ばせた携帯電話が鳴り出した









少し隅の方に移動し、通話ボタンを押す







「…今 仕事中でござる」


「おい万斉、今からちょっとオレの所に来い」


「人の話聞いてるでござるか?」





向こうで クク…と押し殺した笑いが聞こえ





「年中イヤホンのテメェが言うかぁ?
とにかく早く来いよ」







こちらの返事も聞かず、一方的に通話は終わった









「すまぬが拙者、急用につき抜けるでござる」


「ええっちょ、まだ始まったばっかですよ!?
ちょっと つんぽさあぁぁぁん!!?







戸惑うスタッフ達を残し、拙者はスタジオを出る











潜んでいるアジトの場所にたどり着き







待っているであろう部屋になるべく急ぎで
やって来たというのに…









呼び出した当の本人は







窓辺に寄りかかり、眠りに落ちていた











「人の寝顔にイタズラ厳禁」











「人を呼び出しておいて、寝てるとは
どういうつもりでござるか 晋助…」









こちらとて、表の顔はそれなりに忙しいことを
わかってほしいものでござる







そろそろお通殿に新作の曲を作らねばならぬし





他にもスケジュールが詰まっている所を
無理して、ここに来たというのに…









起こして用件を聞くため 少しずつ近寄りながら
幾度となく呼びかけてみるが







「晋助 起きるでござる」







身じろぎ一つ…声一つ立てず眠りつづけている









唸る声が漏れ聞こえぬことから、見ている夢は
攘夷戦争の頃のものではなさそうだが







「一体 どんな夢をみていることやら…」









ヘッドフォンの音量を絞り込み







眠る晋助の側に、そっと座り込む







「隣に人の気配があっても起きぬとは
余程深く寝ているのでござるか…」







本当に 珍しい事だ





普段ならば僅かな気配さえ見逃さぬ男が







隣にいる拙者に気付かず眠るとは









目にかかる晋助の髪を、すくうように
指で軽く梳く







「意外と…柔らかい手触りでござる」







滅多に触らせてもらえぬからか
ついつい何度も髪を触ってしまう







「…あ、起きぬならコレもやっとこ」







モノはついでに、晋助の寝顔を
携帯のカメラで撮影した









シャッター音で起きるか不安だったが





案外 大丈夫でござった







「…よし、これはしばらく拙者の
待ち受け画像にするでござる」







想いのほか上手く撮れた画像に 思わず
笑みがこぼれる









ひょっとして見られたやもと思って隣を見るも





晋助は 先程から微動だにしておらぬ







「ここまで色々やっているのに、
全く起きぬとは…」







余程疲れて熟睡しているのか





或いは狸寝入りをしているのか







…もしや、死んでいるのではないでござるな?











気になって右手の脈を取ると







ちゃんと そこから鼓動が伝わっていた









「生きてはいるのでござるか」







安堵のため息をつき、そして話は振り出しに戻る







ここまで寝続ける晋助をいかにして
起こすべきか…









しばし 拙者は腕を組んで悩み







何処かの童話に、王子の口付けで起きる
姫君の話があったことを ふと思い出す







「…試してみるのも 一興でござるな」







熟睡しているならば、唇をそのまま奪ってしまえる





狸寝入りならば…その時は笑ってごまかせばよい









背に片腕をそっと回して抱き寄せ、
顔をゆっくりと近づけてゆく











あと数センチのその距離で、晋助と目が合った







「万斉テメェ、こんなに顔近づけて
何しようとしてやがった


「あまりにも起きぬので生きているのか
確かめただけでござるよ」







首を動かし、晋助がこちらを睨み付ける







「なら この腕は何だ?」


「ぬしの身体が倒れそうになったから
支えていただけでござる」





即座に腕を放して離れようとすると、
晋助が 拙者の服の端をつかんだ





「…あと、カメラのデータ消しやがれ


存じぬな 気のせいでござろう」


「いい度胸だ、じゃあ携帯ごと壊してやらぁ」


「勘弁して欲しいでござる この携帯には
拙者の仕事用のアドレスがあるゆえ」







なおもしつこくデータを消せとせがむ晋助を
はぐらかすべく反論してみた







どの辺りから狸寝入りしていたでござるか?
中々演技派でござるな 晋助」


「…ふん 何のことかわからねぇなぁ」


「白々しい」


「お互い様だ」







互いの腹を探るようなこの会話も、





今では最早 定番とまで呼べるものとなっている







「所で 拙者を呼び出した用は何でござるか?」


「なぁに、今後の計画を肴に テメェと
久々に酒が飲みたくなってな」







クク、と愉快そうに笑う晋助に 拙者は
呆れ混じりのため息を一つ







「相変わらず勝手でござるな 少しは
拙者の都合を考えてくれても」


テメェの都合なんざ知るかよ
色々言いながらも、こうして来てるクセによ」


「そりゃ、晋助直々の呼び出しだからでござるよ」









我ながら使い古されたセリフだ、と
自嘲しながら 晋助に軽くキスを落とした









クセェな…オレを口説くつもりなら
もうちょっと台詞を捻っとけよ」


「安っぽい言い回しも、案外捨てたもんじゃ
ないでござるよ?」







浮かべたお互いの笑みは 先程よりも
意味合いが深くなった







「それじゃ 飲むか?」


「つき合わせていただこうか」








――――――――――――――――――――――
あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:某所の影響により 書いてみた万高ですが
見事にどちらも偽者くさくなってスイマセン


万斉:拙者はもっと男前でござる、この話では
腹黒で変態のように誤解されてしまうではないか


狐狗狸:いや、あなたは公式で腹黒じゃ?
(変態〜は某グラサン犬が影響してるけど/爆)


高杉:オレの立ち位置が何処かのガキ大将なのは
どういうことか説明してくれるかぁ?


狐狗狸:…似合いそうだったのでつい、
スイマセン杉様(平謝り)


高杉:まぁいい、次の話の出来がよけりゃ
許してやるよ


狐狗狸:え、次って言われてもぉ…


高杉:…書くよなぁ?(目をくわっと見開いて)


狐狗狸:ひいぃぃ!?ばっ万斉さぁん!
杉様を何とかしてください怖いです!!


万斉:このメタルの導入部分はもう少しライトに
するべきでござるな…(イヤホンの音量最大)


狐狗狸:万斉さんんんん!?




活字に出来ない恐ろしさ(コラ)
杉様はきっと写メを撮られた辺りで起きたんでしょう


読者様 読んでいただきありがとうございました!