言葉…それは知恵あるものだけが使える魔法


文化も交流も和解も戦争も、感情の吐露でさえ

ソレがなければ始まらない





けれども平凡な者達は当たり前過ぎる事実の
重要さに ちっとも気付かないまま過ごしていく


力と理論を構築し、呪を紡ぐ者達でさえも


その力の恩恵と重みを理解する者は本当に少ない







…僕は"魔術導師"としてなら、言葉の大切さ

紡がれる単語の一つ一つの連なりを
しっかりと承知して放っているのだけれど





ただ一人の"人間"に立ち返った時には


嘘や冗談で相手をからかい、あまりにも軽い言葉で
周囲を煙に巻いて過ごしてしまう





本当に伝えたい事をまともに伝えられない


ソレがどれだけの重みを持っているか
知って 分かって…理解しているから











〜No'n Future A 「four word vow」〜











「クリスくん、好きだよ」





隣に座り、飽きもせず魔術銃の点検なんかして
のんびりしてた彼へと言ってみれば


予想通り 間の抜けた声としかめっ面が返ってくる





「…なんかお前がいうと胡散臭いな」


「失礼だなぁ…てゆうかもうちょっと
面白い反応期待してたのに、ガッカリだよ」


肩を竦めながら告げればクリス君は
呆れたように溜息を一つ零して、作業を続行する

僕も読んでいた本へと視線を落とす


……けど、肝心の内容はあまり入ってこない









本当は からかうようなさっきの発言こそが嘘


君が"好き"なこの気持ちは冗談なんかじゃない





(思えばこの男とは、それなりに長い付き合いだ)





出会いは半ば必然で 最初はただ単に
憎らしいだけの異界人だと見下していた


やたらと短気でお節介でお人よしな性格も

僕が手に出来なかった資格を持っていたことも





(始めは…全て気に入らなかった)





けれど君は半信半疑ながらも、僕を受け入れて
最初の仲間として旅路についてきてくれた


道中で色々ひどい事もしたけれど

彼から僕を見捨てる事は無く、ここぞという時は
必ず信じてくれていた


他のメンバーとの交流も 始めは彼を挟んでだった





(おかげで…友達の意味を教わった)







皆との旅は、一人きりの味気なかった旅の日々が
思い出せなくなるほど賑やかで


どうかすると本来の"目的"すら
忘れてしまいそうなほど…楽しかった





あれほどの経験は、師匠との修行以来だった







(本気で笑って 怒って ケンカして…

その度に彼は僕と向き合って応えてくれた)





僕の中の"何か"が変わったのは
間違いなく、クリス君と出会ってからだ





でもそれは僕にとって"良い変化"


君のお陰で変われたことに…君と会えた事に
本当はすごく感謝してる





(でも素直に「ありがとう」だなんて
僕の柄じゃないから、言えるはずも無い)


だから…からかうように、好きだといった





たった一つでも僕の気持ちを伝えたくて


胸の裡には とても収めておけなくて







「おいルデ、お前…本読んでんのか?」





不意に声をかけられ、視線を上げれば
訝しげな茶褐色とかち合った


僕は普段通りの笑みを浮かべてさらりと答える





「読んでるけど…何?構って欲しい?」


別に なーんかやたらと静かだから
調子でも悪いのかと思ってな」


「心配してくれるんだ〜やっさしいな
君のそういうトコ大好きだよ♪キスしていい?」


「おまっ…発言自重しろっての!


「アハハ、冗談だって」


笑い飛ばすようにまた、軽い嘘を重ねて

本音を冗談のベールへと覆い隠す





案外臆病でもある自分を自覚しているから


正直には 思う事を口に出来ない





…こんな捻くれたやり方じゃ目の前の朴念仁には
伝わりっこ無いだろうと知っていても





内心で溜息をついて再び本へ目をやって―







「なあルデ…それ、嘘だろ?


「え?」


「少し前と、それと今の冗談っつった時の
お前の顔…どっか寂しそうだった」





真っ直ぐな瞳に捉われ、僕は僅かに戸惑った





「何で…そう思うのかな?」


「お前な、どんだけ一緒にいたと思ってんだよ
俺だって側にいりゃそれぐらい気付く」


「よく言うよ〜その手の事にトンと鈍いクセに」





自然と口が、誤魔化しの言葉を紡いでも

クリス君の態度はちっとも揺るがなかった





「…大切な仲間を気にかけちゃ悪いかよ」





それは僕にとって、とても大きな不意打ちだった







そんな重くて強い言葉を素直に吐き出せるなんて


君は僕以上の"魔法使い"なんじゃないのかい?





欲しかった言葉がもらえた時…嬉しさのあまり
涙を流す人の気持ち、今なら分かる







……でも僕は人前で涙なんか流さないし


多分これからも流す事はないだろう





「悪いんだけどよく聞こえなかったからさ
もう一回…はっきり言ってほしいなぁ?」





だから臆病で捻くれ者の僕は僕らしく

相手の思いを、答えを再び確かめる





ちょっと視線を逸らし 顔を赤くしてたけれど


戸惑いながらもクリス君は
キチンと答えを繰り返してくれた





「お前が…大切な、仲間だから…その
気になるんだよ……ヘコんでっと」


「声が小さいから もっとハッキリもう一度」


っだああぁぁぁ!
んな何回も言えるかこんな恥ずかしい事!!」



たちまち顔を真っ赤にして怒鳴ってきたけれど


それが"好意"からくる照れだと知っているから
すごく愛おしく思える





クスクスとひとしきり笑いつつ

手を伸ばして、クリス君の肩を抱いた





「僕達ってやっぱり両思いなのかもね
君が、大切な僕を気にかけてくれたわけだし」


「テメッやっぱり聞こえてたんじゃねーか!


「ちょっと…至近距離で怒鳴るのはやめてよ
結構耳に痛いんだから」





文句を言いつつ 少し低い声で耳に言葉を流せば
途端に小さく肩が震える





うぁっ…くすぐってぇよ
つーか何で肩に手ぇ回してんだよ」


「いいじゃない、僕ら仲良しなんだから」


「どこに関係があるんだよ……」





それでも本気で振り解かず、彼は諦めて
僕のするままに身を任せてくれている


信頼されているんだな…って改めて感じる







触り心地のいい 緑がかった黒髪を撫でて


少しだけ…心のままに言葉を放つ





好きだよ 石榴」





赤みがかった顔で一瞬、驚いたように目を開いて


すぐに開いた目を伏せながら…彼は答えを返した





「言われなくても知ってるよ、ルーデメラ」





我知らずに小さく口元が緩んで


引き寄せられるように 唇が重なった







―言葉の中でも、特別強くて重たいのは


想いを込めた"大好き"の四文字かもしれない








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:出来上がってる感じがしなくもないルデ石
相変わらず場所と時間軸は適当なう


石榴:テメェがいつも言う"通常営業"だろ?


ルデ:手抜きとも言うけどね、あと描写力不足?


狐狗狸:あああそんなハッキリ私の怠慢っぽい
風味になる言葉を宛がわないでちょーだいっ!


石榴:いやいや事実だし認めろよ


ルデ:ついでにこれ、また故Mからのネタを
パクって焼き直して我が物顔で書いてんだよね


狐狗狸:原本を元に脚色して再編集とお言い!


二人:どっちにしろダメだろ?




のんびりまったりした掛け合いが割合好みなう


読者様 読んでいただいてありがとうございました!