久方振りにすっきりと晴れた夜空には
見事なまでの望月が浮かんでいる







「星の少なくなった現世でも、
月の光だけは変わらんな」







時折、思い出したように車とやらの音が
静寂を裂いて通り過ぎてゆく







「…無粋な音だ ここはさほど多く響かぬが
こんな音が聞こえてよく眠れるものだ」







そこが、未だに不思議でならぬ









この世界も人間も 僅かな年月で
どんどん変わってゆく







ワシの今の契約者も、初めに比ぶれば
遥かに強くなった





が、年のせいかまだまだ危うい所も…









微かな物音が 耳に届く







厚い布のかかる窓をすり抜け、室内に戻ると





眠っていたはずのユーマが 身を起こしていた











〜「緞帳を下ろし」〜











「珍しいな、お前が夜中に起きるのは」


「ん、ああ 少し夢見が悪くてな
ランゲツは何をしてたんだ?」


「気まぐれにな…月を見ていた」







ありのままを口にする







「なんだ、もう雨は止んでいたのか」







軽く 単調なその言葉と裏腹に


薄闇に閉ざされた部屋の中であるにも関わらず





ユーマの面持ちが沈んでいることを
ハッキリと見て取った







「まだ 今日の戦いを気にしているのか?」









討伐の任務で、流れの天流闘神士と戦った







さして苦戦することも無く 相手の式神を
一太刀の元に切り伏せたが





戦いの最中 闘神士は仕切りに訴えていた







―僕等は、同じ闘神士のハズだろ!?
こんな戦いで 何が変わるって言うんだ!―










「別に、戦うことに疑問が無いわけじゃない
けど戦いを止める気も毛頭ない」







そう言い置いて、後の言葉を半ば己に
聞かせるようにユーマは呟く







「どう足掻こうと オレは地流の人間
やめる事など出来ないからな」


「…そうだな」


「けど、今日戦ったあの男とオレに
差して違いなどない」









倒す側と倒される側





今は地流が優勢を誇っているから、天流を
淘汰せんと暗躍しているが


もしも立場が逆ならば 天流の闘神士に
地流が討伐されていただろう







二流派の違いは 単純に力量や数の差でしかなく





増してや個別での戦闘では互いの力量以外に
不確定の要素が絡むこともある







天流の者に倒された地流の闘神士も少なくは無い





ユーマとて、際どい戦いも幾つかあった









「…もしかしたら、明日はオレが
お前を失うかもしれない」


「無いとは 言い切れんな」







普段は黙々と修行や任務に打ち込み
力を追い求めるこの童は





ワシと二人きりの時のみ







自らの胸の内を明け透けにする







「最近、また思うんだ
負けて お前を失ってしまう事を


「それはあくまで可能性だ、現実ではない」


「わかっている…それでも」





それきり、ユーマは口をつぐみ
布団の上で両手を握り締める







…ああそうか それで跳ね起きたのか









元から強い者などそうそういるわけではない







ユーマもその道理に漏れず、幼少の頃から
強くあろうとしてきた







今も、恐らくそれは変わらない





ただ 昔ほどは自らを信じ
また、ワシを信頼するようになった







「それでも 不安は拭えぬのか」







無言のまま、コクリと首を縦に振る









ユーマは負けることを恐れているのではない







ワシとの絆を失うこと、そして失った後の
幼き自分に戻ることを 何よりも恐れている












触れられぬその姿のまま





ワシは ユーマの頭の少し上に手を乗せ
撫でるように動かした







「…ランゲツ」


「ワシには気のきいた励ましなど出来ぬがな
最後まで、お前を信ずることは出来る」





こちらを見やるその目を 真正面から見据える





「ユーマよ お前はまだ強くなれる
その不安も迷いも、自らの成長にいることだ


何ら恥じる必要はないが 恐れることもない







感じぬはず 無いに等しい頭上の手





目の前の童にしか届かぬ声







しかし、それでもユーマは目を閉じ







「ああ…ありがとう





安堵したように微笑みを浮かべる









周囲には我の強い小童にしか見えぬこやつは
今は、か弱き幼子のようで







思わず 笑みが込み上げ、音もなく笑う









「…何がおかしい?」


「何でもない」


「そうか」







この薄闇の中で こちらが笑っていたのを
気配だけで感じ取ったのか







昔では出来なかったであろうその僅かな差異にすら





成長を見て取れる







「…明日も早い、そろそろ床につけ」


「わかってる 規則正しい睡眠も
闘神士に必要な要素だからな」







布団に入り直し ユーマは最後にこちらを見て







「おやすみ」





そう言うと、目を閉じて眠りに付く











「…おやすみ







そっとささやき ワシは側に浮かんだまま





緞帳に遮られた微かな月光をもう一度仰いだ








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:初のランユマです、某茶のお方から頂いた
詩からイメージして書いてみました


ランゲツ:結局 何がしたかったのだ


狐狗狸:いやあの…弱音を吐くユーマに降神しないまま
頭を撫でて欲しかっただけです サーセン


ユーマ:降神せねば頭など撫でられないだろう


狐狗狸:いや、しないまま撫でる所に意味があります
しないまま撫でる これ重要です


ランゲツ:何故ワザワザ繰り返す


狐狗狸:重要なことなので二回言いました
しないまま、撫でる


ユーマ:くどい、これで三回目だぞ


狐狗狸:くどくて結構!だって強く主張したいん
だもん しないまま撫


ランゲツ:少し黙れ(みぞおちに拳)


狐狗狸:はうっ!?(気絶)




後書きウザくてスイマセンでした
相変わらず山も落ちも意味も無い感じでお送(ry)