瞑想は術者…特に神官連中やオレのような
呪術を主とする人間にとって、いい鍛錬になる
つってもそこらで広まってる"無心"とやらを
やってのけれるヤツなど そうはいないし
クソ真面目にとり行うヤツ自体が少ない
大抵は技のイメトレや明日のメシに金勘定
ついで人間らしく浅ましく、各々の欲望と煩悩を
好き勝手に夢想しちまうモンだが
…今 オレの頭を占めているのは
天使にも似た笑みを浮かべる、あの男のツラ
「…っくそ!」
頭を掻きながら力任せに側の木の幹ぶっ叩く
腐れ兄貴をぶっ殺す為の旅を始めて
魔族の提案に乗りかかってやりながら奴らへ
攻撃しかけたのはいつの話だったか
連れとして異界からの野郎がいるのは聞いてたが
他にも引き連れてる奴らがいたのは
襲撃の際に、初めて知ったことだ
そこにアイツがいたのは忘れもしない
"シュド"と呼ばれてた 神官系の術を使う男
〜No'n Future A 「ぶっきらぼう回旋曲」〜
ふわふわと柔らかそうな金色の毛先に
オリーブグリーンの瞳、人当たりよさげなツラ
一目でハーメリアと似たタイプだと分かった
他にも忘れられない事がある
あのクソ兄貴と殺り合った際に、異界野郎と
協力して変な術かけてくれやがった恨み
そのクセ 泣きそうな面でオレらに謝る
妙な腰の低さに対するいらつき
…あと、その面を見ていて
"もっと困らせてやりたい"とかちょっとばかし考えちまった不覚
昔からある程度は自覚していた
殺したいほどムカつくヤツが消えるのと
気に入ったヤツが困る様を見るのが好きなことに
「でも…野郎は男だぞ?」
人に聞かすワケでもねぇ独り言を呟きつつ
グシャグシャと頭を掻き毟る
とりあえず、このままじゃ修行も満足に出来ねぇ
「あの男を見つけ出して…ルーデメラ抹殺に協力させてやらぁ」
手早く地図と首飾りを取り出し 辺りの気配を
ざっと確認して探知の呪をかける
「…さて、首尾よく街についたか」
さほど遠くねぇ場所にいた奴らを追って
思っていたより早く、滞在してる街に辿り着けたのは幸運だった
…いつもは着く前に逃げられちまうからな
「とにかく、奴と単独で接触を取る必要があるな…」
うっとおしいフードを我慢しつつ、頭の中で
奴らに関する情報を整理しつつ歩いていると
「ええと…あとはフランヴァの種を200gほど買っていこうかな」
いいタイミングでやって来たな…
しかも一人で買い物してやがる、チャンスだ!
「そこのお兄さん…ちょいと占いでもどうだい」
「え、あの…すいません僕持ち合わせが」
こっちを見た瞬間、予想通りだがヤツは
目ん玉かっ開いて驚きやがった
「るっるるルチルさ…もがっ!」
「デケェ声出すな、このままテメェの首
掻っ切られたくねぇなら黙ってろ」
口を押さえながら脅しつけたら 涙目になりながらも
コクコクと頷いていた
…畜生なんか可愛い、イラっと来る
「あの…僕になんの御用でしょうか?」
「宗教の勧誘に来たわけじゃねーよ」
「ですよね…僕の所は地神信仰なので」
「白神じゃなくてか」
どっちにしろメジャーな宗教には違わねーが
こいつの術や見た目的に、頑固で質素で地味な地神より
偽善者ぶってる白神の方が似合ってる気がしたから
少しばかり意外だった…
「ってんな事はどーでもいい、そもそもオレは
戦神傾倒派だし…それよりお前料理は得意か?」
「え…は、はい 趣味がこうじてみなさんの
旅の食事をまかなわせていただいてますけど」
「よーしちょうどいい…人目につかないよう
こっそり郊外まで着いてこい」
大人しく着いて来た…ここまでは計画通り
下手に目立つ金糸混じりの銀髪をフードで隠し
念には念を入れて魔力探知も出来ないように
内側にも阻害の呪具を縫い付けた
これでアイツらがここに来る可能性は
限りなく低く出来たはずだ
「あの…一体何をなさるおつもりですか?」
ビクビクおどおどしまくってるヤツの 柔らかそうな
ほほを抓りたい衝動を抑えながら告げる
「何もしねぇよ…テメェは黙って甘いもんを
作りゃいーんだよ、ほれ材料!」
懐から簡単な菓子用の材料と道具を出して渡せば
相手はアホみたいにぽかんとした顔をしていたが
「あ、あの…僕でよければ」
手際よく調理に取りかかり始めていた
よーし、面倒だったが一応準備しておいた甲斐があった
オレの考えた作戦は至って単純…このシュドって奴を
懐柔し、仲良くなったフリをして味方につける
そこそこルーデメラに近しい上に
騙されやすそうなこいつなら 簡単にかかるだろう
ハーメリアと似たようなタイプなら、人を持て成したり
作ったモンを振舞う行動は好きなハズだ
それに甘いもんが食いたかったし丁度いい
上手く親交を築けりゃアイツの情報を聞き出したり
隙を見つけての奇襲も呪いもかけ易くなる
いざって時には呪術の媒介にしても…
「すげぇいいニオイすんな」
「あ…もう少しで出来上がりますから
待っててくださいね、お茶もいかがですか?」
見たことねぇ容器が出てきて、少しばかり身構える
「あの…変なものは入ってませんので安心してください」
なんだよそのお優しいツラは…オレがビビッてると
思ってんのか?テメェごときに?
「お前に毒なんか盛る度胸がねぇのは知ってらぁ!」
やや奪い取るようにして茶で満たされたコップを
手にして一口……うめぇのが腹立つ
「おいしいですか?」
やたらと微笑んでこっちを見るんじゃねーよ
男のクセになんか…イラっとくる
「まあ、飲めるだけマシだな…菓子はまだかよ」
「スイマセン…もう少しだけ待ってください」
しばらくの間、沈黙が辺りを支配する
コレが契約や利害のある取引だってんなら
いくらだって話を転がしてけるんだが
こういう時…どういう話題で仲良くなりゃいいんだ?
ああ、何か知らねぇが気まずい…
苛立ち紛れに茶を催促し続けていると
コイツがおどおどしながらオレへ問いかけてきた
「あの…ルチルさんは、どうして僕に声をかけたんですか?」
「そ、そりゃー…テメェに…」
願ってもねぇ展開が転がり込んできやがった
ここで適当に"ルーデメラと仲直りをしたい"だの
"お前の術に興味がある"だのホラ吹きまわして
取り入っちまえばこっちのモンだ
恥ずかしいだの何だのでオレのことを
秘密にさせておけば支障はでねぇし
念のために術で忘れさせておいてもいい
慣れねぇセリフを吐くせいか口がやたらと
むず痒く乾いてきやがるが
全ては ルーデメラの抹殺の為に!
「テメェの事が「あ、そろそろ火を止めなきゃ!」
……勢いごんで言った言葉は、
よりによって作り途中の菓子の火加減に邪魔された
「お待たせしました お菓子が完成しました
…あの、それで言いかけたお言葉は何でしたっけ?」
ニコニコとくったくの無い笑顔を浮かべてたので
「なんでもねーよバーカ!」
力任せにほほを両側から抓って泣かしてやった
"ひゃん"とか言ったのがあまりにも面白くて
イジり倒し続けてたら
耐えられず、泣きながら逃げられちまった
「…しまった、やりすぎた」
チッと舌打ちをして、残った菓子を頬張れば
それもやたらとうまかった
でも…さっきの笑顔が側に無いだけで
どこか味気ないようにも思えちまう
「あの、シュドって野郎…」
今度会えたら 次こそは上手く立ち回って
こっち側に引き込んでやる
…別にヤツが気になるワケじゃなくて
あくまで、そうあくまでルーデメラをぶっ殺す為だ
よし…そうと決まれば次に会う時までに
食用の高価なハーブでも用意しとこう
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:片思い系が好きなのかよく分かりませんが
とにかくギャグで全然伝わってない感じを書いてみたかったんです
シュド:は、話しかけていただいたのはとても
うれしかったのですが…怖かったです
狐狗狸:あーうん、愛想ないし分かりにくいから
ルチル君のデレ部ぼぎゃす!(殴られ)
ルチル:すぐ死ね今死ね即効で死ね
シュド:だ、ダメですよルチルさん!
いきなり暴力を振るってしまっては!
ルチル:あ゛ぁ?テメェは黙ってお茶菓子でも
延々と焼いていやがれ(睨みつつ材料渡し)
狐狗狸:……アレはツンデレなのやらグレデレなのやら
(患部を擦りつつ小さく呟く)
どうでもいい蛇足ですが…シートルーグイ家は
白神信仰派です でルチルは破戒僧なので戦神に傾倒
ルデは無信心です(本当にどうでもいいな…)
読者様 読んでいただいてありがとうございました!