何故か今日は どうしても、
彼女に会わなければいけない気がした
会って 話を聞かなきゃいけない気がした
どうしてなんだろう
『主…もうすぐ 会える』
召喚した白澤が、道を指し示す
「ありがとう 白澤」
お礼を言うと 白澤は撃符へと戻った
白澤は察知能力が高い
今までのげぇむでも、白澤のお陰で敵の位置や
怪我をした人の場所まで導いてもらえた
「やっと会えたね、きみどりちゃん」
大きな大木の下 赤い傘をさしたきみどりちゃんが
俺を見て、驚いているように見えた
少し 怯えているのかな?
「今日はお弁当作ってきたんだ、よかったら
一緒に食べない?」
俺はその場で少し立ち止まり、小包を彼女に見せる
「え…お弁当?」
「大丈夫、君の分はちゃんとした味だから
よければ 隣に座らせてもらえるかな?」
きみどりちゃんは、しばらく考えてから
はっきりと 大きく頷いた
〜「もう泣かないで」〜
「…おいしかった」
お弁当を食べ終えて 彼女が言葉を漏らす
「そう言ってもらえると嬉しいな」
きみどりちゃんのお弁当の中身は、
ごく普通の一般的なおかずとおにぎりだった
なにが好みかはわからなかったから
とりあえず皆が好きそうなものを
バランスよく詰めてみた
「のお弁当…変わった色、してた…」
「ああ、俺のは興味本位で色んな味をつけてるから」
「どうして?」
聞かれて 俺は少し悩む
「どれがどんな味がするのかって試したり
知ったりするのが楽しいから かな?」
じっと見つめて、きみどりちゃんが呟く
「は 本当に変わっているね」
「よく言われるよ、妖逆門に参加してからは
特にそう言われるようになったかな?」
「元の世界では 言われないの?」
「みんな あまり俺と関わらないから」
苦笑して、ごまかすようにこう言う
「妖逆門はいいよね、色々面白い事も多いし
みんな俺をちゃんと見てくれるから」
きみどりちゃんが 急に寂しげな目をする
「でも あなたはまだ悲しそう
どうして、そんな風に笑うの?」
微笑んでごまかせる空気じゃない
何故だか、彼女にはきちんと話さなきゃ
いけないような…気がした
「…聞きたい?」
きみどりちゃんが首を縦に振ったのを見て
俺は 事故のことを話し始めた
きみどりちゃんは じっと、俺の話を聞いていた
頭の傷の事も話してるうちに
段々、事故の記憶がよみがえってきた
「…母さんを迎えに行こうって言ったの
実は 俺なんだ」
そう、あの日 俺が父さんにそう言って
一緒に車に乗り込んだんだ
「あの時俺がそう言わなきゃ 事故が起こらず
俺を助けようとしなければ 父さんは死ななかった」
助けてくれた父さんに 俺は涙一つ
流してあげられなかった
悲しみつづける母さんに、微笑んでも
母さんの悲しみは 拭いきれてない
「あの時死ぬべきだったのは…俺なのかもしれない」
そう呟いたその瞬間
右頬に 強い衝撃を受けた
少し遅れて、叩かれたのだと気がつく
「バカ…!」
俺を叩いたきみどりちゃんは
目に涙を溜めて そう叫んでいた
呆然とした俺の目の前で
彼女はボロボロと泣いていた
俺の為に、泣いてくれているの?けど…
悲しそうに泣く彼女に泣き止んで欲しくて
「泣かないで」
頭を撫でながら、俺は謝った
「死ぬなんて 言わないで」
泣きながら、きみどりちゃんが俺を叱る
「ごめんね」
俺は 彼女に謝りつづけた
泣き止んで 泣かないで
どうして君はそんなに悲しそうな顔を―
唐突に 俺の頭の中で思い出がよみがえった
「そういえば、あの時も 君は泣き出しそうな
寂しげな顔をしていたね」
そうだ、俺は―――
きみどりちゃんに 会ったことがある
父さんが死んで、俺は心が欠けてしまった
母さんを悲しませないため、支えるため
何でも出来るようにがんばってきた
元々 何かを調べたり実験するのは嫌いじゃない
友達にも優しくして、ケンカも止めさせて
笑顔を絶やさないようにがんばった
・…でも 皆は俺を何処か避けていた
クラスのみんなも、母さんも
何でも出来るようになっても 俺の心は
ずっと退屈を訴えていた
「どうして だれも笑ってくれないのかな」
いじめっ子に殴られて腫れた顔を 自作の
薬品キットで直しながら 公園の草むらで俺は呟く
助けた子は泣きながら逃げて
いじめっ子も、殴られても表情を変えない俺を
不気味がって逃げていった
みんなはいい人達だけど、俺のやる事を
まともに見てくれてはいなかった
ひどく退屈で 悲しい毎日で
それでも、俺は涙一つこぼす事ができなくて
「俺は…いない方がいいのかな」
幾度となく心の中で繰り返してたひとり言が
口をついて出た その瞬間
「そんなことない」
振り返ると そこには傘を差した
見慣れない、泣きそうな顔の女の子がいた
「泣きそうな顔することないよ
俺は皆の為にがんばったけど、
皆が俺を望んでいなかった それだけだから」
俺はそう言って微笑むけど 女の子の顔は晴れなかった
少し考えるような素振りをして、
「あと4年待って そしたら妖逆門が始まるから
妖たちやたくさんのぷれい屋たちと一緒に、
君も楽しめる筈だから」
言って 女の子は笑いかけた
「参加したら…俺は必要とされるかな?」
女の子が 無言で頷いた
その時、少し強い風が吹いて 思わず目を閉じる
再び目を開けると、女の子の姿はなかった
「どうして 今まで忘れていたんだろう」
目の前で泣くきみどりちゃんは、間違いなく
あの時の女の子だ
俺をこの世界に誘ってくれて
今 俺を思って泣いてくれている
「もう、あんな事は言わないよ
だから 泣き止んで、きみどりちゃん」
出来ることなら何でもしたい、泣かないで
「なら、約束して」
きみどりちゃんの目が 真っ直ぐに俺を見る
「忘れないで、あなたを大切に思う人がいることを」
「…うん」
俺の頭の中で 母さんや三志郎君達の顔が浮かぶ
「それから、出来るだけ ぷれい屋を助けてあげて」
「わかった」
げぇむが少しずつ変わり 傷つくぷれい屋が
増えてきたのを思い出す
俺も出来るだけ、彼らの力になりたい
頷いたのを見届けて きみどりちゃんが
恐る恐る、問いかけた
「……私と ずっと友達でいてくれる?」
俺は 心から笑って、誓う
「約束するよ、俺も ずっと友達だから」
そうか 俺が感じていた予感は
彼女との出会いを思い出すために、
そして この約束をするために―
少しして、俺はきみどりちゃんと分かれた
歩きながら 鏡の中にずっといるにだけ
聞こえるように呟く
「、俺の願い 決まったような気がするよ」
『の…願い?』
こくりと頷いて、それを口にした
「みんなと一緒に 笑いあいたい」
皆が笑ってくれるなら、皆と笑いあえるなら
俺は何より 幸せだから
だから 泣かないでいて
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あとがき(というか楽屋裏)
狐狗狸:きみどりとの話が少ないのと、過去に会った〜ネタを
書いてみたかったのとでこの話が出来ました
きみどり:…は味オンチじゃないの?
狐狗狸:うん あくまで興味本位と知的探究心で色々な味を
試したり好んでみてるだけで、ちゃんとした料理は出来るよ
きみどり:は いじめられてたの?
狐狗狸:いじめられてはいないけど、独特の雰囲気や
感情の表現等の問題で距離は置かれてたみたい
きみどり:…は世界に飽きていたの?
狐狗狸:彼にとっては退屈=孤独だったと思うよ
きみどり:、幸せになれるといいな…
狐狗狸:多分 最後の話ではなれると思います
色々展開がアレでスイマセンでした…
様、読んでいただきありがとうございました〜