これはある日の 逆日本で起きた出来事である









「なあ 前から一度気になってたんだけどよ」







三志郎はじっと の顔を下から覗き込む









「何だい 三志郎君」







相変わらずうっすら微笑む









がその帽子とったことって、一回しかないよな〜」


「ああ 俺達が初めて会った時のことだよね」







その言葉に 三志郎はコクリと首を縦に振り、







「あの時は後ろからに帽子取り返されたから
帽子の下がどうなってるか、ちゃんと見えなかったんだけど…」









言いながら に詰め寄ると







「なぁ もう一回帽子取ってくんねぇ?







期待に満ちた目で 三志郎はにせがんだ





しかし、は笑みを貼り付けたまま首を 静かに横に振る











〜「微笑みのカルマ」〜











悪いけど 俺は帽子を取りたくないんだよ」







きょとん、とした顔で三志郎はを見る







「えっ…ひょっとして ハゲてるとか!?


「そういう訳じゃないけど、まぁそんな所かな?」





「ほぉう ニィちゃんの歳でハゲはマズイと思うがな?」







不意に背後に現れたフエを は難なく避ける






「本当にこれだけは遠慮してもらいたいな」





「ああら〜私もちゃんの帽子の下、見てみたいわぁ」







これまた唐突に現れたねいどの腕を 眉一つ動かさず避ける









お願いだから諦めてよ 俺の帽子を取ったって
面白い事なんか何も無いよ?」





三志郎やフエやねいどが どれだけ飛びついても
苦笑交じりで避けつづける












「くっそー 取れそうで取れねぇ…」


「案外やるなニィちゃん」





少し息を切らしながら 三志郎とフエが言う





「んもう、大人しく帽子取らせてくれないなら
ちょっと痛い目見せちゃおうかしらぁ〜?」







焦れたねいどが ニヤリと妖しげな笑みを見せ、
右手を振り上げた時だった









だだだだめー!に乱暴しナイでっ!!」





が慌てて鏡から現れ ねいどと
の間に割って入ると


手の平をかざして 鏡を作り出した







「え!?ああれぇ〜!!





何とも情けない悲鳴をあげて ねいどは
鏡に吸い込まれてしまった














「うわーすっげぇ…」







三志郎とフエ そしてが動きを止めて


まじまじとその場に出来た鏡をのぞき込むと







まるで一枚の絵のように、ねいどが鏡の中に閉じ込められていた







ちょおっとぉ!個魔のくせに何するのよ!
こっから出しなさいよ!!」





必死で鏡を両手で叩いてもがくねいどだが、全く効果がないようだ









「アンタこんなことしてただで済む思うの?
出しなさいってば〜!!」



「うるさいダマレ!!」







ねいどを一括で黙らせを庇う形で前に立ち







に酷い事するならっ、皆 鏡に閉じ込メテヤルっ!!





何時もの臆病ぶりが一転したような凄まじい形相
がそう宣言した









「お、落ち着いてくれよ オレはただ
の帽子の下がどうなってるか気になっただけだし」





三志郎は一旦言葉を切ると ちらりとねいどの方を見やり、








「確かにねいどはヤナやつだけど、これはちょっと
やりすぎだと思うぜ?」


「それにネェちゃん、余り勝手な真似をすると
ルール違反で罰を喰らうぜ?いいのか?」







三志郎とフエがの行動を諌めるが、





「僕はどうなったってイイ!僕はを守るノ!!」







それすら意に介さず 決死の面持ちで叫ぶ











すると が苦笑しながらの手の上から
自分の手をそっと重ねた







、俺は大丈夫だから ねいどを放してあげて











優しく説得するに は大人しく
ねいどを鏡から解放する







途端に ねいどはすぐさま何処かへ逃げさった







「ねいどもしばらくは俺に近寄らないだろうな…」





苦笑しながら はそれを眺めていたその瞬間







「チャンスッ いっただきー!





三志郎が、勢いよくの帽子を掴んだ





「ダメーーーーーー!」







の叫びも虚しく、帽子はあっさりと奪われ









帽子の下の の頭を見て





三志郎は驚いた顔のまま固まり、帽子をその場に 落としてしまった









…お前、その頭の傷……」







の頭の 帽子で隠れる部分





紅茶色の髪を透かして、大きな傷がハッキリと見えた







「……その目で見られるのが嫌だから、
取りたくなかったんだよ」





薄く微笑んで 落ちた帽子を拾い上げ


軽く叩いてからは帽子を被りなおした









「成る程な そこのネェちゃんが必死になるわけだ」





言うなり フエがを見つめて







「恐らく多少なりともその傷 ニィちゃんが
げぇむに参加するきっかけになったんだろ?」


「…はい、そうなんです」





 ここからは俺が話すよ、戻っていいよ」







頷いて 鏡の中へが引っ込むのを見届けると


は、三志郎へゆっくりと顔を向ける









「三志郎君…俺のこの傷の事、知りたい?







呟きに 三志郎は少し考えて…首を縦に振る











は思い出すように目を閉じて、





「六つ位の時かな…母さんを迎えに行こうと
父さんと一緒に車に乗ったんだ」









――今でも 忘れる事は無い







「母さんの仕事場まで、あと数メートルって所でさ
追突事故に…巻き込まれたんだ










笑顔しか作れない淡白な性格





事故に遭ったあの日、俺の心は欠けてしまった





大切だった人と一緒に









「父さんは自分の命と引き換えに、俺を車の中から
助け出してくれたんだ」





はそこで 頭の帽子で隠れた辺りを指差して







「でもかなり重傷で 脳に後遺症が残っちゃってね
…感情のふり幅が、極端に狭くなったんだ」


「ほう、道理で感情の表現がおかしい訳だ」





納得したようにフエがそう言い放った













父さんの葬式でも 俺は泣く事すら出来なかった







ただ、穴の開いたような虚しさだけを感じた











事故の日から 母さんが段々弱っていくのを
見ても、暫くは何も思わなかったけれど…







「でも母さんをこれ以上心配させちゃ
いけないって思って…俺は 笑顔を取り戻した







母さんをこれ以上悲しませないように、


壊れてしまわないように





俺は笑顔で側に居続けよう







欠けた心も、頭の傷も 全ては父さんを
奪ってしまった 俺の罪の証だけど











せめてこの傷だけでも、母さんの目から遠ざけよう――












「それからかな…俺が帽子を被るようになったのは」





長い語りが終わった時 三志郎の目には
止め処なく涙が溢れ、零れていた







「… ゴメンな?オレ、そんな悲しい過去を
背負ってるなんて知らなくて…」


「気にしなくていいよ 三志郎君は何も悪い事をしてない





泣き続ける三志郎の頭を 優しく撫でる







「それに、君は俺のために泣いたり笑ったりしてくれてる
他の皆やも 白沢や狂骨も俺を
ちゃんと見てくれる……それで十分だよ









その言葉に 三志郎は急いで涙を拭うと、





の両手を がっしりと握り締めた







「決めた……オレっ もしげぇむに優勝したら
絶対に会いに行くから!





「え 俺に…会いに来てくれるの?」


「ああ!泥小僧とか妖怪達を引き連れて、
を思いっきり笑わせに行くよ!」








輝かんばかりの笑顔で 三志郎がに言った









本気で唐突なまでの 真っ直ぐな三志郎の言葉に
は、少し呆気に取られた顔をしてから







ありがとう、その日を楽しみに待ってるから」





とても嬉しそうに 微笑んだ











呆れたような溜息と共に 二人を見つめて
フエがポツリとこう溢した





「…どっちもお人よしな奴だな」








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:いやーこのの過去ネタも書きたかった物の一つです
書けて満足してます


三志郎:でも…「妖逆門の事を知る為に」げぇむに
参加したんだよな?


フエ:あのニィちゃんは、自分の望みを本当に持ってなかったのか?




狐狗狸:は 自分の怪我が心が例え治っても失った人
帰ってこないってちゃんと知ってるから、自分のため
願いを望まなかっただけだと思うよ?




フエ:まあ 皮肉な事に怪我のせいでニィちゃんは周囲から
距離を置かれて、逆門に目をつけられたわけか


三志郎:でも はいい奴だから、もし現実世界で
会いに行けたら 絶対友達にしたい!


狐狗狸:…頑張ってね(ゴメン、本当はこの話 女の子キャラ
書きたかったなんていえない/爆)




動機は知的好奇心が大部分だけど、もしかしたら現実逃避も
少し入って このげぇむに参加したのかも…と思います


あと、の姿が三志郎にも見えてたのは
極度の興奮状態で うっかり姿を現したって事でご勘弁を(コラ)


様、読んでいただきありがとうございました〜