故人曰く―― 画龍点睛


正にこの形容詞が似合う奴に出会ったのは、初めてだった









「っ オレとした事が…!」







げぇむ中の妖怪の妨害を、完璧に避けたつもりで
少し油断したのがいけなかった





左腕に怪我を負うなんて…っ


完璧を目指さなければいけないのに何たる事だ







「修殿…早く手当てをせねば」


「いい 他の奴の手なんか
まして役立たずのお前の手など借りたくない」









僕は仮にも医者の息子だ 応急処置くらい
完璧にこなせるっ…血は、苦手だが 問題ない







なるべく傷口を見ないようにして
応急処置を終え 再び歩き始める









かなり時間をロスした…早くゴール地点に行き
対撃に勝って先に進まねば……くそっ





傷口の痛みに 思わず顔をしかめた









「君 大丈夫?苦しそうな顔 してるよ?」







その時 横手から現れたのが、青い帽子を被って
薄笑みを浮かべる―だった











〜「第一種ヒトガタ接近遭遇」〜











「おや、君 この前のげぇむにいた子だよね」


「知らない それよりもお前は誰だ?


「憶えてないのかー、ああ 俺は  よろしく」







言いながら、握手しようと手を出してきた


僕はその手を 反射的に叩き落とす





…何なんだ この青帽子の男は







「左腕に怪我があるんだね…ちょっと見せてくれる?


「…大した事無い こんな物、かすり傷だ」









微笑を浮かべるを睨みつけて 僕は
左腕を奴の視界から隠す







すると 驚くほどの速さで近づいた
左腕をとられてしまった





「なっ 何をする!?


処置は的確だけど、包帯の巻き方がぎこちないよ
これじゃあ 下手をすると膿んでくる







そう言いながらこの男は、巻いてあった包帯を解き









「結構酷い傷だね…痛かったでしょ?
よく効く薬を塗ってあげるよ」







ウェストポーチから青色の小ビンを取り出して、


どろりとした中身を傷口に塗りこもうとする







「なっ 何だそれは!?止めろ!!





慌てて抵抗するが、は僕の肩を抑えて





動かないで 大丈夫、この薬は俺が身をもって
効果を確かめたから 副作用も無いよ」







と言いながら 薬を傷口に塗って、新しく包帯を巻きなおした











「どう?傷む?









僕は キレイに包帯の巻かれた左腕を見つめた







…言われてみれば 傷口は傷まない、でも







「どうしてこんな余計なことをしたんだ」


「特に理由は無いよ、怪我をしていたら
助けようって思うのは普通だろ?」







バカじゃないのか?この男は





ワザワザ敵である奴を助けようだなんて、
多聞三志郎と同等のバカ









「この位の傷 放っておいても平気だった とにかく、
これ以上無駄話をしている時間はない」







そいつを先に残し 僕はその場から先へと進んだ















遅れを取り戻そうと急ピッチで進み、





トラップや妨害を完璧に対処し 駆け抜けてきた










ゴール地点に近いであろう辺りから、急に視界が開けた







目の前にあるのは、真ん中に小さな島のある広大な湖





その島の上空で ねいどが手を振っていた









「ま…まさかアレがゴール地点…!?







青ざめて呆然と立ち尽くす僕に 追いついたらしい
が、隣に並んだ







「あー、あそこがゴールか これはボートか
妖で湖を渡るみたいだけど…」









湖を渡ろうとした一人のぷれい屋が、湖や
空中から来る妖の猛攻撃で 湖に落ちる







「一筋縄じゃ行かないみたいだね、狂骨で飛んで
渡れそうにも無いから ボートに乗ろうかな









言いながらが走り出した





そこで僕も、ようやく我に返って







「…こんな所で、立ち止まれるか!
僕が先にボートに乗らせてもらうからな!!







奴を追い抜かそうと走りながら叫ぶ









「うーん でも、ボートは一隻だけみたい」







奴の言う通り 剥げて字の薄れた看板のかかる
ボート小屋の側に浮かんでいたボートは、





たったの一隻だった













「…屈辱だ、よりによって 敵のボートに乗って
ゴールまで進むなんてっ」


「仕方ないよ ボートが一隻しかないから…それに
知り合いを見捨ててまで、げぇむクリアする気ないし」


さっき会ったばかりだ!そんな甘い考えで妖逆門を勝ち残れるか!
…このまま敵の情けを受け続けるのは不愉快だ、オールを貸せっ」


怪我してる人には貸せません、それに
俺は勝ち負けにあんまり興味ないんだ」









結局、にボートを取られ しかも
何を考えているのか、一緒のボートに乗れと誘われた





嫌だと断ったのだが コイツの雰囲気にのまれ
成り行き上仕方なく乗ってしまった











「そう言えば 君の名前、まだ聞いてなかったね」


「……里村修だ」









会ってからずっと ニコニコと微笑むこの男は
全くといって得体が知れない







一体 何を考えている?











「…お前がこのげぇむに参加した目的は?」







水への恐怖を紛らわす為と、コイツを理解する為に
僕はにそう問い掛けた







「うーん、主にこの妖逆門を色々と 見て回りたいからかな?」


「…は?」


「ほら 知らなかった事を知ると、それだけ
世界は広がっていくじゃない」









多聞三志郎たちも確か 『撃符妖怪を助けたい』
とか言っていたけど…





こいつの目的もやはりくだらない、聞いて後悔した







「これだから目的のないやつは嫌いなんだ
完璧を目指す僕にくらべれば、くだらない願いばかりだ」









そう言うと、大抵の奴はムキになる
嫌味の一つでも言い返してきた









「…目的なんて人それぞれだし、無ければ
見つければいいんだよ」







けれど、は そのどちらでもない








初めから目的を持ってる人なんて 少ないから
君はたいしたものだと思うな」











まるで諭すような 上からの言い方







その淡々としている口調や態度の中に、





少しだけ 柔らかいものを感じた











「…どうせ目的がないのなら 君もオレを見習って
完璧を目指してみたらどうだ?」


「それも悪くないけど 今はまだ、このまま
色々なものを見て回るつもりだよ」









悪意の無いその微笑はなんだ?







益々 わからない男だ











その時、唐突にボートの揺れが激しくなり
思わず僕はボートの淵を掴んだ







バシ!と鋭い音が響く









視線を向けると ボートを揺らした船幽霊の手
が、いつの間にか手にした石で追い払ったようだ







「大丈夫 修くん」





だが、ボートの周囲から 船幽霊が次から次へと
こちらに向かって押し寄せてきていた







「どうやら倒さなきゃいけないみたいだね…」


「くそっ、よりによってこんな所でっ…







自分の身体の震えを感じながらも、迫り来る
船幽霊を睨みつけつつ 撃盤を構えた





その時 す…と伸ばされた手が、僕を押しとどめた







君は怪我してるだろう?俺に任せてよ」





ニッコリと微笑んだ後 


自分の撃盤で妖怪を召喚した







「白澤 遠慮は要らないよ…蹴散らして







そのただ一言で、白い獣の妖怪は頷き


閃光の如く周囲を翔けた









故人曰く―― 一騎当千





たった一瞬、ただの一撃で
あれだけの大群を 撃符妖怪一匹で仕留めた





その光景は、そう呼ぶに相応しいものだった









「よくやった、ありがとう 白澤







がそう言うと 白い獣は満足そうに
元の撃符へと戻った













ボートが無事、ゴール地点へとたどり着く







ボートから降り、島に足を踏み入れた途端に
空中のねいどが間近に迫った









「お二人様ご到着〜早速対撃してちょうだい♪」


「あ、それなんだけど 修くんは怪我してるから
俺を不戦敗に「断る







きょとん、としているの顔に 撃符を突きつけて、







二度も敵の情けを受けて このまま済ます気は無い、
この決着は対撃で完璧につけさせてもらう」









奴は ふぅ、と溜息をついて また微笑んだ







「…どうしても戦わなきゃダメみたいだね
仕方ない、全力でやるから覚悟してね」


望む所だ 受けて立ってくれて感謝する」







お互い微笑んで 撃盤を手にした













―――結果、何とも無様な事に 僕は敗北を喫した





しかし、悔しさは感じなかった ここまで
完璧に敗北すると、かえって清々しい









「ゴメンね修くん 俺、先に行くから」


「…今日は完璧に僕の負けだ、けど次は
完璧に勝ってやる 憶えておけ、







別の場所へと飛ばされるアイツに、僕は
それだけ継げた











目的の無い強い奴、敵意の無い敵





僕に完璧な敗北を味あわせた―勝ちたい相手








欠けているアイツに勝ち、僕の完璧さを
きっちりと証明してやろう





――それが奴との 初めての出会いだった








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あとがき(というか楽屋裏)


狐狗狸:修くんの話って書いたこと無いなーなんて思い
勢いでガガガーッと書いてみました


修:不愉快だよ 初めて出た僕の話が完璧に程遠いなんて


狐狗狸:それは私の技量不足だから許してください(汗)


修:それにしても、この話は大分前のものだな
アニメも原作も もうとっくに山場を迎えているというのに…


狐狗狸:私だって 出来るなら上位召喚ネタとか
獄門世界ネタとか書きたいですけど…っ


修:執筆速度とネタ元を見る時間が足りない、か?
全く見苦しい限りだな の方がまだマシだ


狐狗狸:ひ…ヒデェ つーか冷たい(泣)




展開がワンパの上 やたら長くてスイマセンでした
修ファンの方、本当にスイマセン


様、読んでいただきありがとうございました〜